親の心子知らず②
「そろそろ話してもいいんじゃない?こっちだってパーティの仲間が死にかけてんのよ?」
「そうじゃな。……お主には話しておいた方がいいのかもしれん」
扉の向こうから聞こえる二人の会話。俺は自然とその声に聞き耳をたてた。
「ワシはな?あの子にワシを殺させようと思っていたんじゃ」
「へぇ……。何でまた」
「あの子は昔から優しい子でな。虫すら殺せないような子供だったんじゃ。そしてそれは四天王になってからも変わらんかった。極力人間側にも被害を出さないように戦い、追い払うだけにとどめる。きっとそんなあやつの姿勢も魔王様にリストラされた要因の一つであったのだろう」
「まあ、何となくわかるわ。アイツ、妙に甘いところあるしね」
「うむ。守るモノに優先順位をつけることは悪ではない。だが、ツヴァイはなまじ防御に秀でた能力だった為、今までは全てのモノを守ってこれた。だが、これからはそうはいかん。魔王軍の精鋭達に、最後の四天王フィーア。そして魔王・ヌル様。どれも相手を気遣って勝てるほど、甘い敵ではない。ワシはそれが心配だった」
「ふーん。で、それがどうして親殺しに繋がるのかしら」
「あの子に足りんのは『覚悟』。じゃから、お主らを追い詰めることで相手への情けを捨てさせ、ワシを斬らせることで魔族を手にかけることへの覚悟を決めさせるつもりじゃった。義理の息子が裏切ったとなれば、近いうちワシも処罰されるじゃろうし、何よりもう歳じゃ。ならばこの命。あの子の成長の為に使えれば……。そう思ったんじゃが」
「その結果がコレってワケ?……はぁー。賢者が聞いて呆れるわ」
「…………」
「自分は手違いで息子殺しかけて部屋に引きこもる癖に、息子には成長の為に自分を殺せって?終活メンドクなってアイツにぶん投げてるだけでしょ?」
イツキの声色が変わる。扉越しにも彼女の怒りが伝わってくるようだ。だがきっと、アインス殿も俺の事を本気で心配してくれていたのだろう。それだけはわかる。そう思った時、俺は自然に扉を開いていた。
「失礼します、アインス殿。盗み聞きするつもりはなかったのですが……」
「ちょっとアンタ!もう大丈夫なの!?」
「ツヴァイ!目が覚めたのか!」
部屋に入るなり、二人が心配そうな顔でこちらを見る。俺はそんな彼らに軽く手を上げると、一歩前に進み出た。
「大丈夫です。それより、先程の話ですが……」
「あ、ああ」
「アインス殿の仰るとおり、守るモノには優先順位がある。それは俺も重々承知しています。ただ仲間の無事も、アインス殿の命も、俺の中では我が身の安全よりも遥かに優先すべきモノなのです!」
「…………」
「アインス殿を斬れなかったこと。あなたは俺に覚悟が無いと仰いました。確かにそうなのかもしれません。しかし!腑抜けだ、臆病だと言われようが、我が身可愛さに親を殺すような者に俺はなりたくありません!そんな事をするくらいなら死んだ方がマシです!」
アインス殿は、厳しい顔つきでこちらをじっと見つめる。
「今回俺に足りなかったのは、力です。単純な実力不足。故に守れなかった。……これからもっともっと強くなります!あなたを不安にさせないくらいに!だからもう!わざと殺されるようなマネは……」
俺の言葉を、アインス殿が右手を上げて遮った。
「もうよい。お主の気持ちはよーくわかった。……じゃから、親の前で死んでもいいなど、言わんでくれ」
「アインス殿」
「ワシが浅はかじゃった。それをお主に教えられるとはの。……本当に、本当に大きくなったな。ワシの愛しい息子よ」
その時、一粒の涙がアインス殿の頬を伝って床へと落ちていった。
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