親の心子知らず①
世界がスローモーションになる。理屈はわからないが、危機的状況に置かれた者が稀にそうなるという話を以前聞いた事がある。ともあれ、時間がない。
俺の脇を抜け、後方に飛んでいく二つの魔力。背後には倒れ伏す仲間達。隣にはイツキ。……このままでは皆が危ない。ゆっくりと融合を始めた魔力の塊を追いながら、俺はある決断を下した。
「伏せていろ!イツキ!」
爆発を目指し、一旦収縮を始める二つの魔力。俺は全力の
「うおぉぉー!!」
その不足分を補う為俺は、防壁ごと爆発寸前の魔力を抱え込む。俺の体そのものを仲間の盾とする為に。
「ちょっとアンタ!?」
「やめるんじゃツヴァイ!!」
俺の意図に気付いたイツキとアインス殿が声を荒げる。そして次の瞬間。
「…………!!!」
焼けるような痛みと、凄まじい衝撃が俺の全身を駆け巡る。それと同時に、俺の意識は一瞬にして刈り取られた。
「……………ここは?」
見覚えのある天井。次に目を覚ましたのは、ベッドの上。そこはアインス殿の館だった。
「あの後、どうなった?イツキは……痛っ!」
激痛に身を捩る。よくよく見ると、全身には包帯が巻かれていた。
(何とか生き延びたようだ。しかし、これは誰が……)
「うーん……ご主人。むにゃむにゃ」
ふと顔を上げると、俺のベッドにすがりつく様にして眠るミアの姿があった。その隣には俺の兜を抱きながら眠るカタリナが。その向かいではヒルダさんが椅子に座りながらも、こくりこくりと船を漕いでいる。そして、皆一様に目元には大きなクマがあった。
「随分心配をかけたみたいだな」
その時、部屋のドアがガチャリと開かれた。
「おお!目が覚めたか、ツヴァイ殿。心配したんじゃぞ?」
「ラウロン!」
そこには、俺と同じく包帯を全身に巻いたラウロンが立っていた。
「あの後どうなった?イツキは?アインス殿は?そもそもアンタも無事なのか?」
「待て待て。落ち着け順番に話すわい」
「あ、ああ。すまない」
溜まりに溜まった疑問を俺は爆発させる。そんな俺を宥めると、ラウロンは足を引きずりながら手近な椅子に腰かけた。
「
「大丈夫か?」
「なあに。これくらいの傷、何度も経験したわい。それに今はお前さんの方が重症だしのぅ」
「そうか」
ラウロンは大袈裟に両腕を振って、自らの無事をアピールした。
「で、お前さんがあの爆発を抑え込んだ後なんじゃが。とりあえずは休戦になったんじゃ。そんでお前さんは丸一日は眠っていたんじゃよ」
「何!?」
「それでな?あの魔法使い……。アインス殿にもお前さんの行動は想定外じゃったらしく酷く動揺していたぞ。それはもう、ミア殿やカタリナ殿に負けず劣らずの慌てっぷりじゃったわい」
「アインス殿が?」
「ああ。実はあの戦い自体、ツヴァイ殿の為を思ってのことだったらしくての。ただ、ワシも詳しくは聞いておらん。なにせ……」
「ああ!ご主人が起きてる!」
いきなり飛び起きたミアが、ラウロンの話を遮った。そして、そのまま俺の体に引っ付いた。
「ボク、心配したんだよ!?ご主人!」
「
その騒ぎに、他の二人も目を覚ました。
「えっ?ツヴァイ様?……よ、良かったでずぅー!」
「本当に良かったわ~。あなたが死んでしまったら、母は……母は……」
「痛い!痛いと言っているだろう!本当に死ぬぞ!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしたカタリナと、顔色が凄まじく悪いヒルダさんも、ミアに負けじと俺に抱きつく。その際の激痛に俺は悲鳴を上げた。
「ほほほ、モテる男はつらいのぅ」
「言ってる場合か!なんとかしてくれ!」
「しょうがないのぅ。ほれほれ、皆の衆。離れなさいな。ツヴァイ殿が困っておるじゃろう」
ラウロンの言葉に三人はハッとする。そして、申し訳無さそうに俺の体から離れた。
「よし。では、お前さん達も休みなさい。あまり寝てないのだろう。ツヴァイ殿の世話はワシが引き継ごう」
「えー!ボクもっとご主人と居たい!」
「ミアちゃん。ここはラウロン様の言う通りにしましょう?ほら、ツヴァイ様もまだゆっくりしたいでしょうし」
「ぶー。まあ、お姉ちゃんがそう言うなら……」
ミアとカタリナは俺に一瞥をくれると、部屋を出ていった。それに続いてヒルダさんがこちらを見る。
「ツヴァイ君。あの、アインス様のことだけど……。あの人なりに考えがあったみたいなの。だから……」
「大丈夫です。アインス殿は俺の恩人。あの人に感謝こそしても、恨むことなどありえません」
「そう。良かったわ。……ではラウロン様。ツヴァイ君の事、よろしくお願いしますね~」
にこりと笑って、ヒルダさんも部屋を後にした。
「…………して、アインス殿は今どこに?彼の真意を聞きたい」
「昨日から自室に篭っておるよ。息子同然のお前さんを殺しかけたのが相当ショックだったんじゃろ」
「そうか。……ちょっと、行ってくる」
「まあ、お前さんになら話してくれるじゃろうが……体は大丈夫か?」
「大丈夫だ。杖、借りるぞ」
俺は部屋にあった杖を一本借りると、痛む体を引きずりながら、部屋を後にした。
アインス殿の自室の前。俺は彼が在室しているかどうかを確認するため、ノックをしようと手を伸ばす。その時、部屋の中から何やら声が聞こえてくることに気が付いた。よく耳を澄ましてみる。その声の主は、アインス殿とイツキのものだということがわかった。
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