仙才鬼才③
「ハァアアア!」
気合いと共に、イツキは魔力を一気に解放する。その瞬間、ヤツが放った渦巻く風魔法が辺りを包む
「どんなモンよ……って、ラウロン!!」
霧が晴れたとほぼ同タイミング。アインス殿は杖の先端をラウロンに向け、俺の腕を穿ったあの高圧水流を彼にも打ち出していた。
「……ほい!」
間一髪。必要最小限の動きでラウロンはその魔法をかわす。負けじとアインス殿は二の矢三の矢を彼に向かって放つ。だが、その悉くがラウロンを捉えるには至らなかった。
「ほほほ。速く鋭い攻撃じゃが、その軌道は直線だけ。発射の瞬間さえ見れれば避けることなど造作もないわい」
「なるほど。お主も中々に積んできておるというわけか。ならば、こんなのはどうじゃ?」
パチンとアインス殿が指を鳴らす。するとラウロンの周囲を囲うように土の壁が競り上がり、彼の体をすっぽりと包んでしまった。
「今度は地属性の魔法?でも残念だったわね!そんな土壁、ラウロンならすぐに壊して……」
「ほんの数秒、時を稼げれば十分じゃ。複合魔法・
再び、細く鋭い水流がラウロンを襲う。だが、今度は流石の彼もかわすことは絶対にできない。何故なら、アインス殿の造り出した小さな土の囲いに動きを封じられてしまったからだ。
「ぐあぁ!」
囲いの中から、苦痛に悶えるラウロンの声が響く。アインス殿は、自身の造り出した土の壁ごとラウロンを貫いたのだ。
身動きを封じ、貫通力の高い魔法で串刺しにする。まるで拷問器具を模したかのようなその技は、水流の威力で土壁が崩壊するまで繰り返された。
「ぐ、ぐうぅぅ」
土が崩れ、中からラウロンが姿を現した。幸い急所は外れているようだが、あらゆる箇所から血を流し、痛みのあまり膝をついている。いや、あれは急所を外したというより……。
「今回復しますからね!ラウロン様!」
「大丈夫!?おじいちゃん!」
傷ついたラウロンを援護しようと、カタリナとミアが彼に駆け寄る。しかし、あのアインス殿が身動きの取れない相手の急所を外すだろうか?
「待て、ミア!カタリナ!」
「え?」
嫌な予感に二人を制止する。だが、それより数瞬早くアインス殿が杖を振るう。
「遅い!複合魔法・
うずくまるラウロンを中心に、大小様々な石が生み出される。そしてそれらを巻き上げる様に強烈な竜巻が発生した。
(くっ!早く
「キャッ!」
「うわっ!」
手を伸ばす俺の前で、石を伴った嵐に巻かれるミアとカタリナ。何度も礫を受け、彼女達の体は無情にも吹き飛ばされた。
あえて対象にトドメはささず、支援に寄った仲間を狙い打ちにする。アインス殿がよく用いた戦術の一つだ。
「お前達!……くそ!」
「ぐぬぬ……」
「うぅ……」
「ご主人……」
次々に倒れる仲間達。まさかアインス殿の力がこれ程のものとは。無力感に苛まれる俺に彼は言った。
「何をしておる、ツヴァイ。お主は皆の盾になるのだろう?それがどうした?この有り様は」
「それは……」
「勇者の側についておきながら、魔王軍であるワシを斬ることに迷っておる。中途半端なんじゃよ、お主は。その結果判断が遅れ、この様な結果を招いた。違うか?」
「……」
返す言葉もない。だが、そんな俺に構うことなくアインス殿は続ける。
「もし、違うというのなら行動で示せ。主の仲間を傷付けるワシを、お前が止めて見せよ」
「……。望むところです!」
俺が言い終わると同時に、アインス殿は飛び上がる。そして、俺の後方で倒れる仲間達に向かって火の玉を投げつけた。
「させん!
ドーム状の防壁が、燃え盛る炎を弾く。そして、着地の瞬間を狙ってイツキがアインス殿に斬りかかった。
「おっと。あぶないあぶない」
「チッ!ツヴァイ、合わせなさい!」
「おう!」
彼女の呼び掛けに応じ、俺もアインス殿に斬りかかった。
(親に刃を向けることに、迷いがないワケではない。しかし……)
倒れるカタリナの顔が頭に浮かぶ。リマの町での約束、その言葉と共に。
(必ず守ると約束した。だからこれ以上、不甲斐ないマネはできない!)
むしろ迷いはある。だが、誓いを果たすという気持ちがそれを上回った。
俺とイツキの連携が徐々にアインス殿を追い詰める。身体を魔法で強化しているとはいえ、本職は魔法使い。接近戦には慣れていないハズだ。
「オラァ!」
「フン!」
俺達の攻撃に、アインス殿は遂に倒れこむ。だが、その顔はどこか満足そうだ。
「ふふふ、やりおるわ。じゃがこれはどうかな?」
アインス殿が両手に魔力を込める。右手には火の魔法、左手には風の魔法。……この技は!
「お前も知っとるじゃろう。ワシの持つ最大火力の複合魔法『
そう。私がまだアインス殿の元で暮らしていた頃、何度か見たことがある。そして。
「お主の魔法でも防ぎきれん。それも知っておろう。ならば、止める手立ては一つだけ。……わかるな?」
(しかし、その為には……)
アインス殿を斬らねばならない。
「迷うなと言うたじゃろう!これは試練じゃ!ワシを倒して仲間を守って見せよ!」
「う、うおぉぉーー!!」
アインス殿に檄を飛ばされ、俺は
「……出来ません」
「この、馬鹿者がぁー!!」
山々に響き渡る怒声と共に、アインス殿は両手に蓄えた魔力の球を投げつけた。
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