仙才鬼才①
「みなさ~ん。中に入ってお席に着いてくださいね~。お夕食にしましょう?」
ガチャリと開かれたドアからヒルダさんが顔を覗かせる。そして俺達を手招きすると、アインス殿の館へと迎え入れてくれた。
「わぁぁ!美味しそう!これ食べていいの!?」
テーブルにずらりと並べられた様々な料理に、ミアが目を輝かせた。時折忘れそうになるが、彼女はまだ子供なのだ。その年相応の反応に、少し笑いがこぼれる。
「ウッソ!?すんごいご馳走!……へへへ、ラウロン!カタリナ!ここらで一旦、食い溜めさせてもらおうじゃない!」
言うなりイツキは舌なめずりをする。勇者という肩書きのせいで時折忘れそうになるが、コイツは根が山賊なのだ。人ん家でここまで図々しくなれる者を俺は知らない。
「さあさあ。皆さんの為に腕によりをかけて作りました。ぜひ召し上がってください」
「そうじゃそうじゃ。ヒルダの飯はウマイぞぅ?それに今日はツヴァイの帰還パーチーじゃ。皆の者、心ゆくまで楽しんでくれ」
二人の言葉で、皆は一目散に席につく。
「では、皆さん?手を合わせてください。……いただきます」
「「「「「いただきます!」」」」」
ヒルダさんの音頭で、パーティーが始まった。
それは、とても楽しい夜だった。酒に酔ったラウロンが伝家の宝刀・腹踊りを披露し、皆の笑いを大いに誘う。それに伴い、アインス殿は俺のアルバム・file1を広げ、イツキに見せつけていた。
何故かカタリナのことを気に入ったヒルダさんが彼女をもみくちゃにし、それから逃れようとしたカタリナがミアに抱きつき、今度は彼女がもみくちゃにされていた。それを尻目に、アインス殿は俺のアルバム・file2を広げ、イツキに見せつけていた。
とにもかくにも、アインス殿は俺のアルバム・file3を広げ、イツキに見せつけていた。
「ちょっと!あのヒルダとかいう人といい、なんでアンタの家族は隙あらばアンタのアルバム見せようとすんのよ!?」
「さ、さあ?」
「聞いとるのか?お嬢ちゃん。これはな……」
「あーはいはい。聞いてるわよー、おじいちゃん。父の日にツヴァイが送った肩たたき券でおじいちゃんの両肩が破壊された時の話よねー」
淀みなく俺の恥ずかしいエピソードを話すイツキ。そして彼女はこちらをキッと睨んだ。
(ちょっと……この話もう四回目よ?)
(すまん)
思った以上にアインス殿の昔話に付き合わされていたイツキに、俺は小さく頭を下げた。
テーブルの上の料理が次第に減ってきた頃、アインス殿がこっくりこっくりと船を漕ぎ始めた。
「あらあら。アインス様、もうお休みになさりましょう」
ヒルダさんは立ち上がると、居眠りをしているアインス殿の肩を優しく揺すった。
「うぅ~。ツヴァイ~」
「大丈夫ですよ。お話ならまた明日なさればいいじゃないですか。……では皆さん、
そう言って部屋を出たヒルダさんの言葉に甘えて、俺達は心行くまで彼女の料理に舌鼓を打ったのだった。
その後俺達は、それぞれ二階にある寝室をあてがってもらい眠りについた。だが何故か目が冴えてしまった俺は、ベランダから外に出ると美しい月夜を一人で眺めていた。その時、ガチャリという音と共に隣室の窓が開く。そして俺と同じように、ある人物がベランダから外にやってきた。
「なーに見てんのよ?面白いものでもあった?」
「……なんだ。お前、隣室だったのか」
「なんだとは何よ?」
隣室から来た人物。イツキはムッとした顔で俺を見上げる。
「でもなんだか……リマの町であったことを思い出すわね」
「そうだな」
「……で、何を悩んでるのよ?」
「えっ!?」
驚く俺の顔を指さすと、イツキはニヤリと笑う。
「顔に書いてあるわよ。『悩んでます』って。まあ、リマじゃあちょびっとだけ相談に乗ってもらったし?話くらいは聞いてあげてもいいわよ?」
「むぅ。悩み……というほどではないのだが。アインス殿の様子がどこかおかしい気がしてな?」
「まあ、あのおじいちゃん変人っぽいものね」
「いや、そういうアレではなくてだな。なんというか……無理をしてるような」
腕組みをして頭を捻る俺に、イツキは言った。
「まあ考えても仕方ないわよ。ヒルダさんも言ってたし、明日しっかり話し合えばいいじゃない。案外気のせいだったってこともありえるしね」
「ふっ……。そうだな」
「それにアタシだってあのおじいちゃんに用があるのよ!アンタのアルバム!アレ、もうここまできたらコンプリートしないと気が済まないのよ」
「ちょっ、勘弁してくれ」
「ふふ。元気出たかしら」
ふぅっと一息つくと、イツキはくるりと体を反転させると自室に戻っていく。
「あっ!イツキ!……ありがとう」
「いーってことよ。じゃ、アンタも早く寝なさい」
俺はイツキの言葉に従い、すぐにベッドに戻る。そして、頭の中で今日の出来事を思い出していた。
(そうだ。昔からアインス殿は隠し事をするような人ではなかった。明日になったら、色々話をしよう。懐かしい昔話や、勇者達との冒険の話を……)
そんなことを考えながら、俺の意識は夢の世界へと落ちていった。
「……ヴァイ。ツヴァイや」
翌日。俺を呼ぶ誰かの声で目を覚ました。
「……アインス殿?」
そこには神妙な面持ちのアインス殿が立っていた。
「皆さんを起こして、すぐに準備をしなさい」
「準備、ですか?」
「ああ。今からお主らにある試練を与える。それを見事乗り越えることができたなら、コレを授けよう」
そう言ってアインス殿は腰に下げた小袋から、小さな鍵を取り出した。俺はあの鍵に見覚えがある。あれは……
「魔王城に行くために必要な鍵の一つ『水の鍵』じゃ。お前達はこれが欲しいんじゃろう?」
「それはそうですが……。そもそも試練とは」
「では、ワシは外で待っておる。準備ができたらそこに来なさい」
俺の話も聞かず、アインス殿はさっさと館の外へと行ってしまった。
「一体どうしたのだ。だが、とりあえず皆を起こさなくては」
戸惑いはあったものの、俺は皆に今あったことを伝え準備を整えた。そして、館の外で待つアインス殿の元へと向かったのだった。
「お待たせしました。アインス殿」
「おう、早かったのぅ。もう少しゆっくりでも良かったんじゃぞ?」
そう言って振り向いた彼は、ひどく悲しそうな顔で微笑んだ。
「して、その試練とは?」
「なに、簡単じゃよ。ワシを……この、四天王が一人『仙才鬼才の賢者アインス』を倒してみせよ!それがお主達への試練じゃ!」
冗談などではない。アインス殿は、今までに見せたことの無いような鬼気迫る顔で、俺達に言い放った。
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