こんにちは、母さん②

「お、お久しぶりです。ヒルダさん。別に貴女の年齢の事など話しておりません!」

「本当ぉ?……なら、いいけど。それにしても、おっきくなったわねぇ」


 ヒルダさんは昔と変わらない、屈託のない笑顔を浮かべると、兜越しに俺の目をじっと見つめた。


「心配したのよ?ツヴァイ君、四天王になってから全然連絡寄越さないから……」

「すいません」


 頬に手を当て、深い溜め息をヒルダさんは吐いた。そして俺の周囲をぐるりと見回す。


「ところで……。お友達かしら?」


 彼女の言葉に、皆は我先にとばかりに自己紹介を始めた。


「先程は失礼しました。ワシの名はラウロン。まあ?ツヴァイ殿の頼れる兄貴分とでもいいましょうか?彼とは仲良くやっていますよ」

「あらあら。素敵な先輩がいて良かったわね、ツヴァイ君。お髭も立派ですし、きっと頼りになるお方なんでしょう」

「いや、それはラウロンが勝手に……」


 訂正が済まないうちに、今度はカタリナが前に出る


「初めまして!私、カタリナと言います!……その、ツヴァイ様にはいつもお世話になってます!あと、そのぉ……。とにかく、お世話になってます!」

「自己紹介下手か!」


 両手を体の横にピシッと着けて、カタリナはそんな宣言をした。その様子を見たヒルダさんはクスクスと笑う。


「可愛らしいお嬢さんね。ふふ、こちらこそよろしくね?」

「い、いえ!よろしくお願いしまふ!」


 盛大に噛んだカタリナの横から、ミアが元気よく手を挙げた。そうか、アイツはまだヒルダさんと面識が無かったな。


「はいはい!ボク、ミアって言います!ご主人……じゃなくて。ツヴァイさんの未来のお嫁さんです!」

「おい、ミア……」


 俺が制止するよりも早く、ヒルダさんから強烈な圧が発せられる。


「ふぅん、……お嫁さん。でも、ごめんなさい。ウチのツヴァイ君はまだ結婚する気はないみたいだから~」

「えっ?でも……」

「ウチのツヴァイ君はまだ結婚する気はないみたいだから~」

「いや、だから……」

「ウチのツヴァイ君はまだ結婚する気はないみたいだから~」

「………………お姉ちゃーん!」


 根負けしたミアがカタリナに抱きついた。……やれやれ。昔から彼女は俺に対して、やや過保護なきらいがあった。だからこそ四天王になったと同時に自立を志したのだが、どうやら効果は無かったらしい。


「……ところで、あなたは?」


 笑顔を崩さないまま、ヒルダさんはイツキの方を見た。


「アタシは人間の勇者・イツキ。元魔王軍四天王の一人、金城鉄壁のツヴァイの相棒よ」

「へえ……。あなたが」


 イツキとヒルダさんの視線がぶつかる。それと同時に、緊迫した空気が辺りに漂い始めた。だが、その空気を一新したのは他でもない、ヒルダさんだった。

 パチンと両手を叩くと、ヒルダさんは嬉しそうに微笑む。


「まさかあのツヴァイ君にこーんなにお友達ができるなんて……母は嬉しいです!」

「ちょっ、ヒルダさん!」


 ニコニコと笑いながらヒルダさんはそんなことを口走る。子供からしたら親のそんな発言、堪ったものではない。


「ツヴァイ殿はお友達が少なかったのですかな?」

「そーなのよ、ラウロンちゃん。あの子、ちょっと気難しいところがあるでしょう?だから、クラスメイトとは少し距離があったみたいで……」

「でもツヴァイ様は素敵な所もいっぱいありますよ!」

「そう!そうなのよ!カタリナちゃん!あなた、いい子ね~。……あっ!そうだ!子供の頃のツヴァイ君、見たい?」

「えっ!?……見たい、です」

「ボクもボクも!!」


 カタリナとミアがそう答えると同時か、それよりも数瞬速くか。ヒルダさんはどこからともなく、分厚いアルバムを荷物から取り出すと皆の前でパラパラと開き始めた。


「これが学芸会で巨岩の役をやった時のツヴァイ君でねぇ」

「様になっとるのぉ」

「こっちは運動会のかけっこで三位になった時のツヴァイ君」

「面影ありますね!ツヴァイ様、可愛いです!」

「ちょ、……やめてください!ヒルダさん!」


 キャッキャッとはしゃぐ彼女達を俺は制止した。

 親代わりの人物と自分の仲間が、俺の過去の痴態で盛り上がるこの空気に耐えられなかったからである。


「そもそも、用事はなんですか!何かあったからこんな所にまで俺を探しに来たんでしょう?」

「あらあら、忘れてたわ。ごめんなさいね」


 ヒルダさんは申し訳なさそうにペコリと頭を下げると、メイド服のポケットから一枚の札を取り出した。


「ツヴァイ君。我が主にして四天王の一人、アインス様があなたをお呼びです。もちろん、お友達の皆さんもご一緒にどうぞ。この紙には、アインス様の施した転移の魔法が込められていますわ。ですので、一瞬で我が主のもとまで転移することが可能ですよ?」

「ア、アインス殿が?」

「ええ。ですので、こちらへ」


 驚く俺のことなど気にも留めず、ヒルダさんは勇者達一行を手招きするのだった。

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