4章 仙才鬼才のアインス

次なる町へ

 ミノタウロスとの激闘から一夜。俺達は当初の予定通り、ミロスの町を目指して古城を後にした。そして、その日の夕方。遠くに見える風車ふうしゃを指さしてイツキが言った。


「着いたわ!あれがミロスの町よ!」


 町のシンボルである大きな風車小屋。それを取り囲むように発展した町。それがミロスである。


「なんだかんだ、いい時間になっちゃったわね」

「そうだな」

「ふぁぁ……。ボク、眠くなっちゃった」


 大きなあくびをするミア。


「ふむ。今日は一日歩き通しでしたからなぁ。どうでしょう?今日の所は宿に泊まり、町の散策などは明日からということで」

「そうね。別に観光地ってワケじゃないし、宿もすぐに見つかるハズよ。ほら、ミア。宿まで我慢しなさい」

「うぅ~」


 眠い目を擦りながらフラフラするミアの手をイツキは引っ張る。そして二人は宿屋の方に向かって歩きだした。


「ミアは結構体力がある方なんだが……珍しいな」


 ぼそりと呟いた俺の言葉を聞いたのか、カタリナが小さく苦笑いを浮かべた。


「勇者様、ミアちゃんとちょっと距離があるの気にしてたみたいで……。昨晩も遅くまでミアちゃんを構ってたんですよ。きっとそれで寝不足なんですよ」

「アイツもそういうの気にするんだな。しかし、当の本人は全然元気そうじゃないか?」

「いや、アレは勇者殿も相当きとるぞ?ワシが言うんじゃから、間違いない」


 今度はラウロンが顔を出す。


「戦闘中、何度もあくびしてたしの。ホラ、スライムの群れに遭遇した時とか、魔法で焼き払いながら大あくびしとったわい」

「強者感がすごいな」

「私も見ました!ゴブリンとつばぜり合いしながらほっぺをつねってる勇者様を!」

「頼もしいんだか、情けないんだかわからんな」


 我らがリーダーの強さと緊張感の無さを再確認すると、俺達も彼女らを追って宿屋へと向かうことにした。


「ふぁ~あ。良く寝たぁ!」


 翌日。開口一番、気の抜けた声を出したイツキは大きくのびをした。そして、宿屋の食堂で山盛りの朝食を平らげると、昨日とはうって変わってシャキッとした態度に変貌する。


「さっ!今日も一日頑張りましょうか。……で、とりあえず情報集めなんかを中心にしたいんだけど」


 町での役割分担を考えるイツキの隣に立つミアが、俺のもとにトコトコとやってきた。そして、軽く腕を引っ張るとにこりと笑う。


「ねえねえ、ご主人?約束覚えてる?」

「ん?約束?」


 突然のことに、俺は首を捻る。その態度に、ミアは少しだけムッとすると、自分の腰に巻かれたポーチをポンポンと叩く。


(……ああ、なるほど)


 俺は彼女の仕草をみて、漸くミアとの約束を思い出した。そしてその約束を果たすべく、手を挙げてイツキの話を遮った。


「あ~……スマン。ちょっといいか?」

「あら?何よ」

「実はミアの武器を買い足してやる約束をしててな。ほら、あの古城で結構使ってしまって……。だから、俺とミアは一旦武具の買い出しに行かせてもらっても構わないだろうか?」

「そうですね!ミアちゃん、大活躍でしたから。いいですよね?勇者様?」

「…………」


 カタリナの言葉には反応せず、イツキは腕組みをしながら何かを考えていた。


「そう、ね。武具の買い出しも必要よね。……わかった!ならアタシも行くわ!」

「えぇー……」


 イツキがそう言うやいなや、ミアが露骨に嫌そうな声を絞り出す。


「ボク、ご主人と二人っきりが良かったのに。だって、せっかくのデートだよ!?」

「デートではない」

「もお、ご主人ったら照れちゃって」

「照れてない」


 グイグイ来るミアを俺は押し退ける。


「いいじゃない!アタシも武器を新調したいのよ。ホラ!」


 イツキはそう言いながら、鞘から剣を抜いてみせた。


「見てよ、アタシの『はがねの剣』。もう使い込み過ぎてほとんど刃が残って無いのよ?こんなんもうただの『はがねの板』だもの。あえて表記するなら『かつてはがねの剣だったもの』、だもん!」

「まあ、確かに」


 彼女の言葉に嘘偽りはなく、俺の目の前には切れ味などとは無縁な、丸みを帯びた『柄のついたはがねの板』が突き付けられている。むしろこんな風になるまでよく使ったなとか、何で折れなかったのかとか、別の疑問が次々に沸いてくる。


「でしょ?じゃあ決定ね?」

「わかりました。では、ワシとカタリナ殿で細々したモノは回りましょう」 

「ハイ!」

「悪いわね。じゃ、行くわよ!アンタ達!」

「ちょっ!ご主人!」


 イツキはミアの手を引くと、武器屋へと歩いていった。


「では、ツヴァイ殿。あの二人を頼むぞい」

「よろしくお願いしますね?ツヴァイ様」

「はぁ……」


 俺はほんの少し胃が痛くなるのを感じながら、彼女達の後を追うのだった。

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