一家団欒①
「ちょっとラウロン!こっち!こっちよ!あの部屋からものすごい音がしたわ!」
「待ってください、勇者殿!まだ頭に鳥のフンがついてます!あと靴にも犬のフンが!」
「ウソ!?……もう!なんで後半のトラップが基本的に畜生のフンなのよ!絶対ミノタウロスとかいう奴、賢くないでしょ!?だってうんこで喜ぶの子供だけよ!?」
「ですが、そのうんこ好きが仕掛けた罠に勇者殿はフルコンボ決めたワケで……」
「うっさい!」
廊下の方が騒がしい。声から察するに、イツキとラウロンがようやくやってきたようだ。
「まったく、アイツらは何を騒いでいるのだ」
さっきまで不安そうな顔で俺の傍らに座り込んでいたカタリナとミアも、その声を聞くと緊張から解放されたかのようにはにかんだ。
「ホラ!この部屋よ!……って、何なのよ!コレ!」
ガチャリと扉を開くと、イツキが顔を出す。そして、メチャクチャになった室内を見るやいなや、開口一番そう口にした。
「遅かったな」
「あら?ツヴァイじゃない。それにカタリナ、ミアも……ふぅん。で、これがミノタウロスとかいうヤツね」
イツキは荒れた部屋や、ミノタウロスの亡骸を見回すと、納得したように頷く。
「成る程、ね。……ありがと、ツヴァイ。アンタがこの
「フン。悔しい事に守られたのはこっちだったみたいだがな」
「そんなことありません!ツヴァイ様のご活躍は素晴らしかったです!」
「う、うん!ボクもご主人のおかげだと思う」
カタリナとミアは、必死に俺の事を立ててくれる。だが、彼女らに助けられたのも事実。胸を張って俺が守ったなどと言えるハズがない。
「ほほほ。良いではないか」
遅れて室内にやってきたラウロンがニコニコ笑いながら俺達の間に入る。
「責任の所在を押し付けあうならいざ知らず、手柄を譲り合うならそれはそれで良し。きっと見事な連携だったんじゃろうな。若いモンの活躍、ワシも見たかったワイ」
「それもそうね。……ホラ、ツヴァイ。立ちなさい」
そう言ってイツキは横になっている俺に手を差し出した。俺はその手を取って立ち上がる。
「すまんな」
「いいってことよ!……さて、みんなも疲れたろうし、ご飯にしましょ!ここにくる途中、食堂を見つけたの!」
「罠の心配はいりませんぞ。勇者殿がもれなく引っ掛かってくれましたから」
「ラウロン!」
「ほほほ」
二人はそんなやりとりをしながら、早足に部屋を出ていってしまった。
「……私達も行きましょうか」
「そうだな。ホラ、ミアも行くぞ」
「うん……」
少し元気の無さそうなミアの手を引きながら、俺達はイツキ達の後を追った。
「…………という感じでな。あの部屋にはミノタウロスの造った兵器などが幾つもあったのだ」
「ふむぅ。それは危険ですな。忍び込んだ盗賊なんぞに盗まれたら、悪用されてしまいそうじゃし。一度本国に連絡を入れて、この古城を探索してもらった方がいいかもしれんのう」
俺は食事を摂りながら、今日見た事をラウロン達に話して聞かせていた。
「な~によ。難しい話は後にしましょ?せっかくのご飯なんだし。……あー、やっぱ違うわねぇ。立派な食堂で食べるディナーは」
「まあ、食ってるのは携帯食料なんだがな」
「いいじゃないの。気分よ、キ・ブ・ン」
「そういうものなのか?……どうした?ミア」
俺はふと、ミアの方を見た。先程からあまり食事に手をつけておらず、妙にもじもじしている。
「なによ?トイレなら廊下を出て……」
「違う!」
デリカシーの欠如したイツキの発言にミアはグルルと唸る。だが、またすぐに大人しくなると、カタリナを指さした。
「あの、回復術士の人」
「はい?私、ですか?」
きょとんとする彼女のもとへ、ミアは歩いていく。そして、上目遣いでカタリナを見上げると絞り出すような声を出した。
「……今日は、その。色々ごめんなさい。あと、ありがと。それでね?それで、なんだけど。……お姉ちゃんって、呼んでもいいかな?」
「!!」
ミアの言動が、カタリナに眠る何かしらのスイッチを押したのだろう。彼女はミアに抱きつくとそのまま抱えあげる。
「構いませんよ、ミアちゃん!いや、ぜひ!ぜひお姉ちゃんと呼んでください!」
「ホント!?……で、でもちょっと苦しいよ、お姉ちゃん」
「はうぅ……。皆さん!私、この子のお姉ちゃんになります!」
変なテンションでお姉ちゃん宣言をしたカタリナのもとに、今度はラウロンが近付く。
「のうのうミアちゃんや。ワシのことももう一回おじいちゃんと呼んでくれんかの」
「え?うん、いいよ。おじいちゃん」
「ほほほ。まさかこの歳で孫の顔が見れるとは。……ま、ワシ奥さんも子供もいないんじゃけど」
その流れに乗じ、今度はイツキが席を立つ。
「カタリナが姉でラウロンが祖父ね。じゃあアタシは長女かしら?それとも、ちょっと若いけど若妻……」
「勇者はボクの妹」
「え?」
ピシャリとミアが言う。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。アタシのどこが……」
「で、ご主人はボクの旦那様!」
「お、俺がか?」
カタリナに言いたいことを言えて調子が出てきたのか、ミアは体をくねくねさせながら俺の方を見た。子供の戯言と言ってしまえばそれまでだが、この子のは色々と冗談に聞こえない。
たじろぐ俺の腕を誰かがつつく。振り向くと、そこにはイタズラっぽく笑うカタリナがいた。
「ミアちゃんがツヴァイ様の旦那様ということは、私はツヴァイ様の義理の姉になりますね。ふふ、……私のことお
「……勘弁してくれ」
カタリナがいる方とは逆の腕。苦笑いを浮かべる俺のその腕を、誰かがギリギリと掴んでいた。鎧ごと握り砕かんとするその握力の持ち主は、鬼の形相を浮かべるイツキだった。
「よかったわねぇ。お
「ちょ、折れる折れる!」
「アタシの心も折れそうよ」
「お前のメンタルの骨密度、そんなヤワじゃないだろう!」
両側から異なる圧をかけられながらの食事。その晩の食事は、俺にとって非常に苦しいものとなったのだった。
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