獣人・ミア②

「魔王軍に入ったボクは、当時四天王の一員だったご主人の部隊に配属されたんだ。配属初日、緊張したボクはご主人に変なコトを言っちゃったんだ」


 懐かしむように当時を振り返るミア。彼女はそのうち、俺のモノマネを交えながら再現を始めた。


「ほ、本日からこちらに配属されることになりました。ミアと申します」

『俺はツヴァイだ。よろしく頼む(イケメンボイス)』

「ハイ!あの……ボクは獣人なので、その……尻尾が自慢です!あと、この耳も!」

(ボ、ボクは何を言ってるんだ!?四天王様ともあろうお方が、獣人なんかに興味なんてあるわけ……)

『ほお。確かに立派な尻尾だ。その耳も遠くの音までよく聞こえそうだな。……ふふ、これからの働き、期待しているぞ。ミア(イケメンボイス)』


 そこまで話すと、ミアは大きく深呼吸をした。


「はぁーーー…………。好き、ご主人」

「いやいやいや!アイツの何がアンタの心を動かしたのよ!?」


 俺の心を代弁するかの如く、イツキが鋭くツッコミを入れる。だが、ミアは極めて不思議そうな顔で首を傾げると、さも当然のように答えた。


「だってご主人はボクのことをこーんなに褒めてくれたんだよ?……これはもう、実質告白。だからその日から、ツヴァイ様はボクのご主人になったんだ」


 パタパタと千切れんばかりに尻尾を振りながら、ミアは明後日の方向を見ている。そんな彼女の発言に顔をひきつらせながら、イツキは俺の元にやって来た。


「ち、ちょっとアンタ。この子かなり危ないんじゃない?」

「いや。獣人は魔族の中でも取り分け魔法が苦手な種族でな。昔から一部の魔族から、獣人は馬鹿にされてきたりもしたのだ。きっとミアの思い込みの激しい性格と、そういった種族の立ち位置が相まって、ちょっとだけ変わった解釈をしてしまったんだろう」


 必死にイツキへの弁明を俺はした。そんなことなどは露知らず、ミアは大きな独り言を漏らす。


「ハァーー。やっぱりボク達は運命の赤い糸で結ばれてるんだ。だってご主人の匂いを追ってきたら、こんなに早く会えたんだもん!」


 前言撤回。この子はかなりヤバイのかもしれない。


「して、お嬢ちゃんは何故ツヴァイ殿を追ってきたのじゃ?」

「そ、そうだ!ミア。俺を始末しにきたのではないなら、何をしにここへ?」


 ラウロンの言葉で我に帰った俺は、彼の発言に乗っかり話を進める。時には臭いものに蓋をすることも重要なのだ。


「ふふふ……。それはね?ご主人の力になるためさ」

「俺の力に?」

「うん。ボクが仕えるのはご主人ただ一人だもん。ご主人が魔王軍をやめたっていうのなら、ボクも着いていくよ。例え、勇者パーティなんかに憂身をやつしたとしてもね」

「なんかとは何よ?なんかとは」 


 ギロリと睨むイツキは一旦隅に置いておいて、俺はミアの方を見た。


「ミア。お前は確かに優秀な部下だった。実力も知っている。もし、お前が俺達に協力してくれるのだとしたら、こんなに心強いことはない」

「!……じゃあ?」

「だが、こちらにつくと言うことは、同じ部隊の仲間と敵対する可能性だって十分にあるのだ。もしかしたら、お前も友人と戦わねばならない局面が来るかもしれない。だから、そこのところをよく考えてだな……」

「そこは問題ないよ。ボク、友達いないから」 

「え?」


 ミアはまるで当然だとでも言うように、つらつらと言葉を続ける。


「なんかみんなボクのことを『配属初日から上司のことをご主人と呼ぶ頭のおかしいヤツ』だなんて言って避けるんだ。ご主人がご主人なのは当たり前なのにね?まあ、そんなワケでボクにはご主人しかいないんだよ」

「それは、なんか……スマン」


 どこか悲しい気持ちになる俺を尻目に、ミアは嬉しそうに耳をピコピコと動かした。


「なら、何も問題無いよね?じゃあ、ご主人!……とその他の人。これからよろしくね!」


『獣人・ミアが仲間になった』。そんなナレーションが、俺の頭の中で微かに聞こえた気がした。

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