改めて、よろしくね
「う……。頭が」
過度な飲酒のせいか、酷く頭が痛む。時刻はわからぬが恐らく深夜ではあるだろう。
「少し、夜風に当たるか」
俺は重い腰をあげると、傍らで酔い潰れている仲間達・カタリナとラウロンを踏まないように慎重な足取りで外にでた。
「……先客か」
「あら?もう起きたの?」
町長宅の周りをぐるりと囲うようにして立てられた柵。その柵にもたれるようにして、イツキは夜空を眺めていた。
「誰かさんのせいで、気分は最悪だがな」
「ふふ、ごめんってば。あんなに楽しかったの……久しぶりだったから」
クスクスと笑う彼女の黒髪は月明かりによって、より一層艶やかに見える。黙っていればコイツも美人なのに……。そんなことを考える俺に、彼女は手招きをした。
「それより、こっち来なさいよ。一人で黄昏るのも飽きてきたとこだし」
「ふっ。もっと気の利いた誘いは出来ないのか、お前は」
「出来てりゃあしてるわよ。知ってるでしょ?」
ふんっと胸を張る彼女の隣に移動すると、俺も柵に寄りかかる。……今夜は月が綺麗だ。
「あのさ。昨日は助かったわ」
夜空を見上げる俺に向かって、イツキが切り出した。
「……何のことだ?」
「ドライの攻撃から守ってくれたでしょ?正直あの一撃、アンタがいなかったらヤバかったわ」
「俺はチームの盾。当然の事をしたまでだ」
「そう……。ねえ、もう手は大丈夫なの?」
ドライの放った一撃必殺の矢。その矢を握り潰したことで俺の右手の骨は砕けた。。彼女はその心配をしているのだろう。
「もう治った。カタリナが治してくれたよ」
完治した右手を、俺は開閉してみせた。すると彼女はおもむろにその手を掴み、自身の方へと引き寄せる。そして、俺の右手をまじまじと見つめると感嘆の息を漏らした。
「はぁー、流石あの
「そうだな。あれほどの回復術、俺は見たことがない」
「そうなのよ!カタリナの回復にはいつも助けられてるわ!……助けられたと言えば、ラウロンにも感謝しないとね」
「ほう」
「あの双子のエルフ!アタシだけじゃキツかったわよ!」
「確かにな。戦士として、学びのある戦いだった」
「そうそう!普段ふざけてる癖に、決める所は決めるのよ!」
イツキはその後も、カタリナやラウロンの話を嬉々として語った。そして、ひとしきり話終えた頃、彼女の口から大きな溜め息が漏れた。
「……はぁ。駄目ね。アタシ」
「どうした?急に」
「じつはさ、今回の旅。アタシ一人で行くつもりだったのよね。気弱なカタリナを戦いに巻き込むのは気が引けたし、口煩いラウロンと四六時中一緒に居るって考えたらうんざりしたの。それにホラ、アタシってば剣も魔法も天才じゃない?……なんとかなるって思ってたのよねぇ」
がっくりと項垂れるイツキ。
「その結果がこのザマよ。ラウロンには助けられ、新加入のアンタには守られた挙げ句大怪我をさせ、その尻拭いをカタリナにしてもらった……。勇者失格よね」
そう言って力なく笑う彼女に、俺は当然の疑問を投げ掛けた。
「だが、アイツらと一緒に旅をしているのだろう。一体どういう心境の変化だ?」
「無理矢理ついてきたのよ、あの二人。『勇者様が心配だー』っていってね。……結局二人の言う通りになった訳だけど」
「それは、今までお前が一人で戦うことの難しさと、パーティで戦う強みを知らなかったからだろう?」
「え?」
「知らないことは、予測がつかん。故に失敗もする。だが今回、お前は仲間の良さを知っただろう。なら、もう大丈夫だ」
「……」
深刻な表情でこちらを見上げるイツキ。そんな彼女に俺は笑いかけた。
「ま、パーティで戦う強みってのは、俺も最近知ったんだがな。……誰かさんのおかげで」
「ぷっ、何よそれ。でもそうね!アタシに後悔なんて似合わないわ!」
「ははは!そのいきだ。それに、もし失敗したとしても、俺が守ってやる。絶対にな」
「……ふーん。カタリナもそんな感じで口説いたワケね」
イツキがじとっとした目でこちらを見る……失敬な。
「お前なぁ。俺は真面目に……」
「あはは!わかってるわよ!……そこまで言うなら、アタシの背中は任せたわよ。ツヴァイ」
「ああ。任された」
月夜の下。イツキはこちらに向かって拳を突き出した。俺もそれに答えるよう、拳を突き合わせる。
「それじゃあ……改めて、よろしくね?」
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