勝利の宴②
「えー、それでは。勇者様とそのお仲間の華々しい勝利と、今後の益々のご健勝を願って……」
「「「「「乾杯!!」」」」」
冷えた麦酒が喉を通る。その爽快さに俺の全身は打ち震えた。
「……美味い」
思えば酒などいつぶりだったか。きっと勇者一行も似たような境遇だったのだろう。皆が思い思いに、だが一様に、幸せそうな顔で麦酒を飲み干していた。
「ぷはー!生き返るわ。……で、さっそくだけど町長。あのキモ骸骨がなんであんなに馴染んでんのよ?」
「キモ骸骨?……ああ、フュンフさんのことですか」
キモ骸骨で通じるのもどうかと思うが……。俺はその言葉を飲み込み、町長の話に耳を傾けた。
「事の発端は、町民からの報告でした。『町の周囲で怪しい魔族が草むしりをしている』とのことでして。そこで、町長である私が様子を見に行くと、そこには一心不乱に草を処理するフュンフさんの姿があったのです」
「指示したアタシが言うのもなんだけど、さぞ不気味だったでしょうね」
「本当にな」
「はい。ですが別に悪い事をしてる訳ではありませんし、その場はそれで離れたのです」
そこまで話すと、町長は手元の酒をぐびりと煽った。俺達もつられて酒を口にする。
「その後、ふとフュンフさんのことを思い出した私は、町の外をもう一度見に行ったのです。すると……。町の子供達が、彼と一緒に草をむしっていたのです」
「それは、さぞ驚いたでしょうな」
「ええ。私も慌てて止めようとしました。でも、子供達はフュンフさんに懐いているようでしたし、フュンフさんも子供達に危害を加える素振りはありませんでした。彼ら曰く『フュンフのおじちゃんと町を綺麗にしてた』そうです」
「子供は怖いもん知らずねぇ。羨ましいわ」
「お前は今もそうだろう」
「ははは!ともかく、この変わった魔族の話を聞いてみようと、私はフュンフさんに声をかけました。そして、これまでの経緯を聞いたのです。……ツヴァイさん。貴方の話を聞いたのも、その時です」
(なるほど。アイツ、余計な事を言っていなければいいが……。)
そんな俺の腹の中を見抜いたように町長が口を開いた。
「フュンフさん。ツヴァイさんのことを褒めてましたよ。『ツエー奴が勇者の仲間になった』って」
「アイツが?……信じられん」
「素直じゃないんですよ。でも、根は優しい方です。だから、私も色々と仕事を斡旋しているのです。その見返りに住まいや食事も」
「素直じゃなくて優しい、ですか……。なんかツヴァイ様に似てますね!」
「やめてくれ……反応に、困る」
酒の力も手伝って、カタリナのストレートな言葉が響く。そんな微妙な空気を取り払うように、イツキがジョッキを叩きつけた。
「はい!真面目な話、終わり!……あのキモ骸骨のこと、少しはわかった気がするわ。でも!アタシ、もっと気になることがあるの……ツヴァイ!!」
「お、俺?」
アルコールが回ってきたのか。イツキは焦点の定まらない目で、俺を指差した。
「今までは、気ぃ使ってたけどねぇ~。アタシら、もう仲間なのよぉ~。……食事の時位、顔見せたらどうなのよぉ!」
「!!」
確かに俺は今に至るまで、イツキ達に素顔を晒していない。食事をするときも、今のように兜の口元部分のみを外して行っている。……別に見られて不都合なことなどない。だが、今さらそこに注目されるのは、……照れる。
「なぁーにモジモジしてんのよ!生娘じゃあるまいし!ラウロン!カタリナ!ソイツの面、ひんむいてやりなさい!」
「お前、酔っぱらうといよいよ山賊だな!」
だが、その瞬間。俺の両腕はガッチリと押さえつけられた。これは、ラウロンとカタリナの仕業か。
「すまんのぅ。いくら老いても、好奇心には勝てんのじゃ」
「私!ツヴァイ様のお顔!拝見したいです!はい!」
コイツら……相当酔ってるな?とにかく、この二人を引き剥がさなければ。俺がそう思って、力を込めた瞬間。
「カタリナ殿!離すんじゃ!」
「はい!」
「……なっ!」
ラウロンが叫ぶやいなや。俺の身体が宙を舞う。……これは。
「秘技・山崩し!」
「技術の無駄遣いやめ……ぐふ!」
双子の暗殺者、ルルとララを破るきっかけとなったラウロンの技・山崩し。相手の力を利用するその投げ技に、俺はなすすべなく倒される。そして、その隙を突いてカタリナが俺の兜に手をかけた。
「ごめんなさい!ツヴァイ様。でも私……えい!」
スポン!と自分でも驚くくらい綺麗に脱げた兜。そして、食堂はしばしの沈黙に包まれた。
「……」
「……」
「……なんていうか。フツーね」
最初に口を開いたのは、イツキ。普通とはなんだ。普通とは。
「お前。無理矢理人の鎧剥いどいて、それはないんじゃないか?」
「だってアンタ、必死に隠すんですものぉ。もっとこうデッカイ傷とかぁ、第三の目とかぁ。あると思うじゃない。それがこんな、ちょっと顔色と目付きの悪いだけの男なんて……つまんない!」
「悪かったな!」
そんな俺の顔を、カタリナが両手でぶにぶにと撫で回す。
「そんなことないですよぉ。ワイルドで格好いいじゃないですかぁー」
「あら、カタリナ。妙にソイツの肩を持つじゃない?」
「ツヴァイ様は一生
「……アンタ、何ウチの
「なっ!そんな事は言ってない!断じて!」
カタリナは、俺の言葉に頬を膨らませると、ガシャガシャと兜を振りながら反論をしてきた。
「いーえ!あの路地裏での出来事!
「それは、まあ……言ったかもしれんが」
「なっ!なんじゃと!」
その瞬間、ラウロンが声を上げる。
「ツヴァイ殿!ワシとの熱い夜はなんだったんじゃ!」
「それは本当に記憶にないぞ!」
「じゃが!それに準ずることはしたハズじゃ!」
「絶対にしてない!だいたいその表現、そんなに万能じゃないからな!」
このジーさん。真面目そうに見えて、ふざけれる時はとことんふざけてくるのが厄介だ。その態度に、俺が頭を抱えていると。
「なーに辛気臭い顔してんの!もっと飲みなさい!」
イツキが俺の口に酒瓶を突っ込んできた。次はカタリナの口に、次はラウロンに……。そうして、何度目かの洗礼を受けた時、俺の意識はプッツリと途絶えたのだった。
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