勝利の宴①

 四天王の一角、一撃必殺のドライを退けた俺達は、一晩森で野営をすると、一旦報告がてらリマの町へと戻ることになった。


「アタシ達に情報をくれたのは、リマの町長さんでね。今後は安全に商いができるってことを伝えてあげなきゃ。ついでにお礼の一つや二つ、貰えるかもしれないし」

「勇者様……。そのお考えはちょっと」

「正直は美徳だが、多少は包み隠す配慮も必要だと思うぞ、俺は」

「図々しいですな」

「なによ!アンタ達!」


 森を抜け、町の入り口へと差し掛かった頃。その変化に最初に気が付いたのはイツキだった。


「大体ねぇ!アタシはアンタ達の為を思っ……何よ、これ」


 そこには、変わり果てたリマの町があった。それと同時に皆の頭をよぎったのは、町に残してきたツヴァイの後釜・神出鬼没のフュンフのことだった。


「これ、フュンフさんがやったってことですか?」

「そうとしか考えられん。が、想像以上じゃ」

「どういうことよ。ま、町が……綺麗になってる!」


 なんということだろうか。雑草が伸び放題だった町の周囲は綺麗に除草され、入り口から続く石畳は几帳面に整備されている。さらにフュンフの粋な計らいなのか、道沿いに造られた小さな花壇の花が俺達を優しく出迎えてくれた。


「仕事が丁寧過ぎて逆に引くわね」 

「わからなくもないが、本人の前では絶対に言うなよ。理不尽が過ぎる」


 町の変わり様に驚きながら、俺達は町長とやらの家を目指した。


「これはこれは!勇者様!よくぞご無事で!」


 町一番の邸宅に着くと、恰幅の良い男性が俺達を歓迎してくれた。彼がこの町の町長だろう。


「まさか本当に族共を追い払ってくれるとは!わたくし、感激でございます!」


 そういうなり彼は一人一人、俺達の手を涙ながらに握ってきた。


「本当にありがとうございます!あ!貴方があの伝説の格闘家ラウロン様ですか?いやはや、お噂はかねがね……あ!そちらは、回復術士のカタリナ様では?いやぁ。こんなにお美しい方だったとは……おや?こちらの大きな方は?」


 町長が俺の前で足を止める。……マズイ。


「い、いや。俺は旅の……」

「ああ!貴方が元四天王のツヴァイ様ですか!」

「違っ……」


 俺はイツキの方を見る。だが、彼女も焦ったように口をパクパクさせていた。


(アタシ、言ってない!)


 兎に角否定せねば。


「いや、何のことだ?俺は旅の騎士・ツヴァ……いや、ヴィ?……違うな。おい、俺の名前、どうする?」

「アドリブどんだけ弱いのよ!」


 焦る俺達を見て、町長はクスクスと笑う。


「大丈夫ですよ。お話はフュンフさんから伺っております。私は魔族だからといって色眼鏡で見たりはしません」

「フュンフから?一体どういうことで……」


 その時、二階から響く声が俺達の会話を遮った。


「おーーい!町長さんよぉ!屋根の補修、終わったぜぃ」


 その声は、工具箱を片手に階段を下りてくる骨のような男。フュンフから発せられたものだった。


「いやぁ。すいませんね、フュンフさん」

「どーでもいーけどよぉ。雨漏りのせいで床も腐ってたぜぇ。とりあえず補強はしといたけど、あっちは専門の……って」


 気だるそうに歩くフュンフとバッチリ目が合う。それと同時にヤツの顔色が変わっていくのがわかった。


「パ、パイセン!?それに、勇者ども!なんでここに?」

「それはこっちのセリフよ!どうせアンタ、何か企んでるんでしょ!」


 睨み合う両者の間に町長が割り込む。


「まあまあ、落ち着いて。勇者様、フュンフさんには私が屋根の補修を頼んでいたのです」

「屋根の……補修?このつらで?」

「顔は関係ねーだろ、このクソ勇者」

「ま、町長に免じてそこは信じてあげるわ。だけど、もし変な気を起こしたりしたら容赦しないわよ?」

「フン!どーだかなぁ?オメェがこの魔力の枷首輪を外してくれたら、すーぐに全員八つ裂きにして……」

「おーーい!!フュンフー!」


 町長宅の外から、少女の可愛らしい声が響く。それを聞くなり、フュンフは気まずそうに頭を掻いた。


「……チッ」

「フュンフってばー!」

「わーったよ、クソガキ!すぐいくから待ってろ!」


 そう言って踵を返したフュンフを町長が呼び止める。


「あっ!フュンフさん!この後、勇者様達の為に宴の席を用意するのですが?ご一緒にどうですか?」

「悪ぃがパスだ。クソ勇者とメシなんざ食いたかねぇんでな。あと、勇者コイツらがいるんなら、今夜はヨソで寝るぜ。世話んなったな」


 フュンフはそれだけ吐き捨てると、町長宅の扉を開け、外に出ていった。それを待っていた幼女が嬉しそうに彼に駆け寄る。


「フュンフ、今日は町長さんとこ泊まらないの?じゃあ!ウチに泊まってよ!」

「バッカ、オメェ。ガキがそういうこと勝手に決めるんじゃねぇ。まずは親御さんに相談してだな……」


 幼女と二人、歩いていくフュンフの後ろ姿を俺達は呆然と見つめる。


「って、大丈夫なの?アレ?」

「あの子は花屋の娘・アイリです。確か、今日は一緒に花壇の花の世話をする約束があるとか……」

「いやいや!いやいやいやいや!馴染むの早すぎない?!ってか、昨日ここに泊まってたの!?」

「ははは。色々ありましてね。その事も含め、食事でもしながらお話しましょう。物資の不足で大したおもてなしもできませんが、族退治のせめてものお礼です。ささ、こちらへ」


 町長に促され、俺達は食堂へと進む。そして、決して豪華とは言えないが、心のこもった料理が次々と並べられていった。

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