一撃必殺①
「お前ら!!伏せろ!!」
「……へ?」
隣でぽけっと佇むカタリナを、イツキ達の方へ押しやると、俺は森全体に響き渡るような声で叫ぶ。
「何よ急に?もうちょっと勝利の余韻に……って、キャッ!」
「勇者殿!ここはツヴァイ殿の指示通りに!」
歴戦の猛者、ラウロンも何かを感じ取ったのだろう。ぶつくさと文句を垂れるイツキの肩を掴むと、一気に大地に引き倒した。
(この方向から、絶対に来る)
予感などという曖昧なものではない。背筋の凍る様な殺意と、ヒリつく様な特大の魔力。そして何より、魔王軍にとって最大の脅威である勇者パーティを一網打尽にできるこの機会を、
「
両手を前に突き出し、魔力の壁を形成する。全方位を守る普段とは違い、防御方向を前面のみに絞ることで、俺はより厚く、より強固な防壁を展開する。
時間にして二、三秒。もっと長かった気もするし、一瞬だった気もする。その数秒の
『ズドオォン!!』
かつて無いほどの衝撃が、俺の全身を襲った。
「ヌ、ヌウウゥ!!」
衝撃の正体・ドライの放った魔法の矢が俺の作った壁をジリジリと押し込む。
(と、止まらん!)
衝突の勢いを殺せず、俺の体は防壁と共に徐々に後退する。一方の魔法矢は、未だ破壊力を保ったまま、その矢じりを俺の作り出した壁に押し付けつづけていた。
「負けるものか……。俺は、俺を拾ってくれた恩人達を……。死んでも守る!!」
精神を集中させ、防壁を更に強化する。その衝撃に耐えかねたのか、俺の両手の籠手が砕け散った。
(もう少しだ。耐えろ!)
だが、戦いというのは根性だけではどうにもならないものだ。勿論、その事は重々承知している。だから、この結果も純粋な実力によるものだと納得している。
「ぐ、ぐぐ……」
自身の限界を感じた次の瞬間。目の前の壁にヒビが走った。
(しまっ……)
ガシャン!……防壁の砕ける音が耳を裂く。それと同時に、障害が取り払われた一撃必殺の矢が前進を開始した。
俺の
そんな魔法矢に俺がとった行動は……。
「させん!!」
気が付くと、咄嗟に右手を矢に向かって突き出していた。ズブリ、と魔法矢が掌を突き刺す感触。
「
そして俺は、矢が掌を貫通するより早く、ソレを握り潰すことで、イツキ達への狙撃を無効化したのだった。
だが、数人の命を容易く奪う矢を一手に引き受けた右掌は、代償として甚大なダメージを負うこととなった。
「ツヴァイ様!」
カタリナの悲痛な声が背後から聞こえる。優しい彼女は、きっと悲しそうな顔をしているに違いない。だが、彼女を元気づけるより先に、俺にはやることがあった。
「イツキ!」
「わかってる!」
俺の呼び掛けに、イツキはすかさず立ち上がる。そして、たった今狙撃された矢の角度からドライの潜伏位置を予測すると、氷の槍を造り出し、その方向に向かって思い切り投げつけた。
「
遥か彼方へ飛んでいく氷の槍。ソレが木々の間に着弾すると同時に、イツキは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ごめん……外した」
弓と投槍。精度に差があるのは仕方がないことだ。だから俺は、特に残念がる事もなく気持ちを切り替えることができた。
「構わん。当てるまで守ってやる」
四天王として、一人で戦っていた時代と今。決定的に違うのは仲間の存在だ。チームの盾として、守りに徹すればアイツらは必ず敵を倒してくれる。付き合いこそ短いものの、パーティの面々は俺をそんな気持ちにさせる不思議な雰囲気を持っていた。
(だからこそ。守りでしくじるわけにはいかん)
イツキが、ドライを討つまで彼女らを守る。それが俺に課せられた使命。そう再認識した俺は、カタリナを呼ぶ。
「カタリナ!二の矢が来るまで腕を治してくれ!」
「え?……でもそれではツヴァイ様が」
俺の砕けた右掌は、ちょっとやそっとじゃ治る怪我ではない。そんな状態の俺が、中途半端に回復術を受けたところで、苦痛が長引くだけだ。カタリナもそれがわかっているからこそ俺の治療を躊躇したのだろう。だが……。
「言っただろう、カタリナ。俺は全力でお前を守る。だからお前は全力で俺を治せ。そうしたら……」
「負けはない。……ですよね?わかりました!この私に、お任せください!」
何かを覚悟したようなカタリナは、そういうと俺の右手に回復魔法を施してくれた。
「もういい。ありがとう、カタリナ。また後ろに隠れていてくれ」
正直、全快とはほど遠い回復量。だが、彼女なりに全力を尽くしてくれたことは痛いほどわかる。……ならば俺も、それに答えるのみ。
神経を集中させ、再びドライの位置を探る。
(イツキは同じ轍は絶対に踏まん。次は必ず当てるハズだ!)
つまり、次の攻防。俺がヤツの攻撃を防げるかどうかにかかっていると言っても過言ではない。
俺はカタリナの治療してくれた右手を見つめると、再び気合いを入れ直した。
「さあ来い!一撃必殺のドライ!魔王軍の矛と盾!雌雄を決する時が……」
俺がそう叫んでいる最中、目の前の木々が揺れる。そして、その中から美しい金色の長髪を靡かせながら一人の美少年が姿を現した。
「…………あ?」
突然のことに、俺は言葉を失う。何故なら、その美少年こそ、俺達の倒すべき相手。一撃必殺のドライだったのだから。
「貴様!何しに……」
そういいかけた俺に向かって、ドライは即席で作ったであろう白い旗をパタパタと降ってみせた。
「降参だよ、降参。僕、勝てない戦いはしない主義なんだ。ツヴァイさんも知ってるだろう?」
ケラケラと笑いながら旗を降るドライ。勇者一行は、未だに彼の真意を掴めないでいるのだった……。
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