双子の暗殺者
イツキを先頭に、俺達は慎重に森を進む。だが、先程の一斉射撃以降は大した奇襲もなく、時折エルフ達の牽制程度の攻撃が続くばかりだ。
「何よ。急に大人しくなったじゃない」
「ツヴァイ殿の話から鑑みるに、ドライとやらの命令でしょう。先手をとったつもりがあちらの攻撃は防壁に阻まれ、返しに勇者殿の反撃をくらう。彼らからすればヘタに藪をつついて蛇を出したくないのでしょうな」
「おいおい。俺の魔法が藪だってのか?」
「そーよ、ラウロン!アタシは蛇なんかより龍がいいわ、龍!」
「ええい!物のたとえですわい!」
やいのやいのと文句を垂れる俺とイツキにラウロンが返す。そんな彼の袖をカタリナがちょいちょいと引っ張った。
「ラウロン様ラウロン様」
「ん?なんじゃ?」
「私も!私も何かにたとえてください!仲間外れは嫌です!」
「……あー。じゃあ、ヌシは藪の中の……草?とか?」
「はい!ありがとうございます!」
嬉しそうに頷くと、カタリナは俺とイツキの間に滑り込む。そしてニコニコと笑いながら歩調を合わせて進みだしたのだった。
「ところで」
「ん?」
しばらくして、イツキが口を開く。
「そのドライってヤツ。どんな固有魔法を使うの?四天王の一人ってことは、その『上位種』とかいうのなんでしょ?」
「いや、固有魔法は魔族特有のものだ。エルフ族であるアイツには使えん」
「え?」
「ドライの武器は弓矢だ。ヤツはその矢に特大の魔力を付加し打ち出してくる。原理は、イツキ。お前の『
「ふぅん」
「そして、文字通り一撃で戦いを終わらせるのだ。俺はヤツの二撃目を見たことがない」
「だから一撃必殺のドライ、ね。面白いじゃない」
「皆の衆、ちと待ってくだされ」
突然、ラウロンが手を挙げ俺達の歩みを制する。そこは今までの道より、少しだけ拓けた場所だった。
「先程からエルフ達の意味の無い牽制が続くと思ったら、知らぬ内にここへと誘導されていたようですな」
「誘導?何の為によ」
「恐らくですが。自分達の得意な場所に誘き寄せ、精鋭を使って我々を確実に始末する為……でしょうか」
ラウロンが言い終わると同時に、周囲の木々が再びざわめく。しかしそれは、大勢の敵に囲まれているといった雰囲気ではない。どちらかというと、小回りのきく何かが高速で駆け回っているような……。そして、次の瞬間。目では追えない何かが飛び出してきた。
「そこ!」
唯一反応できたイツキが、自身の背後を剣で守る。キィン!という金属音と共に、その何かの正体が明らかになった。
「よく止めたな。勇者よ!」
銀色の髪を靡かせた、小柄なエルフ。短刀で勇者に斬りかかった彼女は一切表情を崩さずにそう言った。
彼女の顔に俺は見覚えがある。あれはドライの腹心だったはず。そして、俺の記憶が間違っていなければ……。俺は咄嗟に、カタリナの方を見た。戦いの
「カタリナ!」
「え?」
俺が気付いた時には、もう一人のエルフが彼女の背後へと迫っていた。
(魔法では、間に合わん!)
咄嗟に手を伸ばす。そして、俺の左腕はエルフの凶刃からカタリナを庇った。
「チッ!」
「ツヴァイ様!」
鎧の継ぎ目を刺されたか。刃物による怪我特有の痛みと熱が左腕に広がっていく。
奇襲に失敗したそのエルフは、舌打ちをするとイツキを襲ったエルフの横へと逃げていく。
「大丈夫ですか!ツヴァイ様!」
「大丈夫だ!それより……」
同じ背格好に銀色の髪。見分けのつかないそっくりな顔。俺達を襲撃した二人組の女エルフが並び立つ姿を見て、俺の記憶が間違っていなかった事を知る。
「やはりな。気を付けろ、イツキ!そいつらはドライの腹心にして双子の暗殺者、『ルル』と『ララ』だ!」
ルルとララは氷のような表情を一切変えず、ぼそぼそと二人で話し始めた。
「油断するな、ララ。あの勇者、わたしの攻撃を防ぎやがった」
「あっちも厄介だよ、ルル。流石は元・四天王。わたしの攻撃で全然怯まないの」
先程までのエルフとは格が違う。彼女らは弓による遠距離戦を得意とするドライの部隊において近接戦闘を一手に引き受ける、接近戦のプロなのだ。
「イツキ!ここは皆と協力して……」
「カタリナはツヴァイの腕を治してあげて。ツヴァイはその
「おい!」
俺の言葉を遮って指示をするイツキに俺は抗議する。だが、彼女には彼女のなりの考えがあったらしい。
「別にアンタやカタリナが邪魔だなんて言ってんじゃないわよ。ただ、相性的にカタリナが最も狙われやすく、それを守る適任者がアンタってだけのハナシ。それに、今こうしてる間も一撃必殺の弓がアタシ達を狙ってるかもしれないのよ?アンタはそれからアタシ達を守ることだけに集中してなさい?」
「……わかったよ」
カタリナと自分を覆う薄い防壁を張ると、俺は怪我をした左腕を彼女に差し出した。
「頼む」
「はい!任せてください!」
その様子を見届けると、イツキとラウロンは双子の暗殺者に向かっていった。
「双子がナンボのもんよ!さあ、来なさい!」
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