合理的な男②

「四天王の一人って言うことは……アンタと同格ってことよね?その割にはやることがみみっちぃというか……」


 イツキがやれやれと言わんばかりに肩を竦める。


「ドライは四天王でもっとも合理的な男だ。プライドや体裁よりも、損得を優先する。……事実、王都に近いあの町は廃れ、物資を手に入れたエルフ達は潤っている」

「四天王でもっとも合理的な男……ですか。確かに、利に聡い相手は厄介なものですわい」

「ああ。俺もヤツとはそこまで交流があった訳ではない。だが一度、あの男と酒を飲んだことがある」


 俺は当時の事を思い出しながら、ゆっくりと語りだした。


「ドライは元々、あるエルフ族の族長の息子だった。それが、親父さんが亡くなった事で族長の座に着いたらしい。そして、その直後だった。ヤツらが魔王軍の兵士として志願してきたのは……。俺も意外だったよ。なにせエルフ族は魔族や人間との戦いには無関心。我関せずとばかりに気ままに暮らす種族だったからな。だが、あの頃は人間の文化の発展が目覚ましく、エルフ達の暮らす森があちこちで開発されている時期でもあった。だから、そのことに対する報復行為だったのだろう。……俺はそう思っていたんだ」


 周囲を警戒しながら歩みを進める。安全を確認すると、俺は話を続けた。


「酒の勢いもあって、俺はドライのヤツに聞いたんだ。だが、ヤツの答えは俺の期待するものではなかった」

『なあ、お前達エルフは人間に復讐する為に我が魔王軍に入ったのだろう?』 

『復讐?そんな理由で戦っても腹は膨れないさ。僕達が魔王軍に入ったのは、今回の戦い……魔王軍の方が勝つと踏んだからだよ。魔族と人間。この先どっちが勝っても世界の情勢は大きく変わる。だったら勝ち馬に乗っていた方が得だろう』

「澄ました顔でドライはそう言っていた」

「ふぅん。勝ち馬に乗っていた方が得、ねぇ?なーんか気に食わないわね」


 黙って俺の右隣を歩いていたイツキは不機嫌そうに口を挟む。


「俺も昔はそう思っていた。だが、合理性を追求するアイツの考え方は、ある種の美学のようなモノが見てとれた。事実、魔王軍に加入し短期間で四天王にまで登り詰めたヤツは、その立場を使ってエルフ族の地位を瞬く間に向上させた。親父さんの死によって傾いた一族を一気に立て直したのだ。その手腕には、なんと言うか、尊敬のようなモノはある」

「でもでも、お優しい一面もあるのではないですか?今まで死者はでていないですし、見逃してもらった方もいるそうではないですか!話せばわかっていただけますよ!」


 カタリナの言葉に俺は首を横に振る。ドライの性格を考えた場合、優しさによる行為だとは到底思えなかったからだ。


「多分だが……、優しさなどではない」

「でも……」

「足を踏み入れれば100%殺される森に、お前なら入るか?カタリナ」

「あ……」

「ドライはきっと、あえて見逃している。供給の間に合っていないリマの町に辿り着ければ大儲けできる。100%襲われる訳では無いのだから、自分は大丈夫なハズ……。そんな商人達の心理を巧みに操り、誘き寄せる為に」

「厄介な相手ですな……」


 眉をひそめるラウロン。カタリナも自信無さげに背中を丸める。だが、そんな空気を吹き飛ばす様に、イツキが声を上げた。


「合理的な男ぉ?だから何よ。……そもそもツヴァイ、アンタ同じ四天王なのにそのドライとかってヤツに劣るわけ?」

「いや、そういう意味では……」

「一撃必殺とかの前ではアンタの防御も意味無いってわけ?」

「……!そんな事はない!金城鉄壁のツヴァイの名にかけて、お前達のことは必ず守ってみせる!」

「なら、問題無いじゃない」


 イツキの言葉で、パーティの空気は明るくなった。……そうだ、俺はチームの盾。どんな相手でもコイツらを守るのだ。

 俺の宣言を聞いたカタリナとラウロンも、固さが抜ける。その様子に、イツキは満足そうに頷くと剣を掲げて森の奥地へと歩みを進めた。


「さ、行くわよ。アンタ達!ドライとやらのご尊顔……拝んでやろうじゃない!!」

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