2章 一撃必殺のドライ

合理的な男①

「……で、アタシ達の調査結果だけど。単刀直入に言うと、『賊』がでるらしいわ」


 俺とラウロンの部屋にて行われた報告会で、イツキは開口一番、そう口にした。


「主にこの町を訪れる商人の積み荷を狙ってくるそうよ。おかげで町中の店は品薄状態。経済も停滞して、景気は最悪……って感じかしらね」

「賊?だがここは王都に近い町なのだろう。何かしらの討伐命令がでてもおかしくはないのではないか?」

「でてるわよ。でも、駄目だったらしいわ。腕自慢の賞金稼ぎや訓練を受けた王国の兵士も敵わなかったらしいの」

「何?」


 烏合の衆である賞金稼ぎならまだしも、統率のとれた兵士ですら返り討ちにあうとは、ただの賊とは考えられない。そんな俺の疑問を見透かしたように、ラウロンが頷く。


「町民の話によると、そやつらはこの先にある森に潜んでいるらしい。どうにも慎重な性格みたいでな。森からは出ず、常に待ち伏せをし先手を取る。そんな厄介な集団との噂じゃ」

「そ。んで地の利を活かしたゲリラ戦法に、弓を使った精密射撃。まあ、アタシみたいなか弱い乙女に戦わせて、ぬくぬく王都で過ごしてるような兵士共にゃ荷が重いわよねぇ」


 か弱い?


「何よ?」


 ジロリとイツキの視線が俺を刺す。


「で、でも。森から出ないのでしたら、森を通らなければ良いのではないですか?ほら、回り道をすれば安全に……」

「そういう訳にもいかんのじゃよ。リマの森とも呼ばれるあの森は、この町への一番の近道。回り道をすれば、それだけ野生の魔獸に襲われる危険も増えるし、費用もかさむ。要は割に合わんのじゃよ」

「そんなぁ……」


 ガックリと肩を落とすカタリナの横で、俺の中ではある疑念が渦巻いていた。


(森でのゲリラ戦……。弓での精密射撃……。いや、まさかな?)

「どうしたんですか?ツヴァイ様?」


 確信の持てない情報で皆を混乱させてはいけない。そう考えた俺は、言葉を濁す。


「いや、なんでもない」

「……あっそ」


 チラリとイツキがこちらを見た。だが、深くは追及してはこない。きっと彼女なりに気を使ってくれたのだろう。

 それなりに情報の出揃った頃、ラウロンが切り出した。


「で、どうされますかな?勇者殿?」


 その質問の意図するところは、短期間しか勇者パーティに在籍していない俺にも汲み取ることができた。そして、イツキがなんと答えるかも……。


「どう?って、決まってんじゃない。アタシ、勇者よ?」

「ですよねぇ」

「そうですな」

「ふっ。だろうな」


 ぐるりと俺達を見ると、イツキはニッコリと微笑む。


「異論はないわね!じゃあ明日は賊退治に決定よ!そうと決まれば今夜は早く寝なさい!はい、解散!」


 そのあとすぐ、俺達は眠りに着いた。そして、夜が明けた。


「本当にこんな森に居るのかしら?」


 翌日、俺達はリマの森へと足を踏み入れた。万が一に備え、円形に防壁を張ることのできる俺を中心に皆が固まって進む。


「そういえば町民から聞いたのですが、この森を通った者が必ず襲われる訳では無いらしいですぞ?それにどういうわけか、襲われた者も皆怪我だけで命を取られた者はいないとか」

「本当ですか?じゃあもしこの作戦に失敗しても、私達死ぬことはないんですね?」


 カタリナが安堵の声をもらした直後。周囲の木々が一斉にざわめいた。


「……!おい、お前達!俺の近くに寄れ!」


 俺が叫ぶと同時に、頭上から無数の矢が降り注ぐ。


防壁展開ディフェンス・ウォール!」


 仲間達を囲う様にドーム状の防壁を張る。数瞬遅れて、無数の矢が弾かれる音が森にこだました。


「ひ、ひぇ~」

「おお。まるで雨のようですな」

「なに呑気な事言ってんのよ!……ツヴァイ!防ぎきったらこの壁、解除しなさい!」

「わかった!」


 彼女の指示通り、俺は防壁を解除する。それと同時にイツキが魔法を放つ態勢をとった。


「勇者殿!森での火属性魔法はお控えください」

「わかってるわ!……なら目には目を、雨には雨よ!」


 木々に隠れて見えないが、矢の飛んできた方向から敵が潜む大体の位置をイツキは割り出した。そして、その方角に向かって大きく右手を振るう。

 水属性魔法の応用だろう。小さな氷の礫が見えない敵に襲いかかった。


「ぎゃっ!」

「うぉっ!」

「くっ!」


 イツキの反撃が命中したのだろう。賊のものと思われる悲痛な声がそこかしこから聞こえてくる。


「雨と言うよりひょうではないか。適当な発言は誤解を招くぞ?」

「うっさいわね。似たようなモンでしょうが!あんまり細かいこと言ってるとモテないわよ!」


 俺達がそんな言い争いをしていると、数人の賊が木の上から滑り落ちてきた。だが、彼等は素早く受身をとると森の奥へと消えていった。


「ラウロン様!今のって……」

「ああ!『エルフ』じゃな」


 エルフ族。長く尖った耳と透き通るような肌が特徴的な種族だ。手先が器用で弓の扱いに長ける彼等が、森に潜む族の正体だとわかった時、俺の中の疑念は確信に変わった。


「ちょっとラウロン!話が違うじゃない!あいつら殺意バリバリだったわよ!」

「……今回は標的が違った、ということだ」


 俺の言葉に、皆の視線が集まる。


「どういうことよ?」

「ヤツらの次の標的は、商人の積み荷じゃない。魔王様に仇なす、勇者の命のようだな」

「ツヴァイ様、それって……」

「ああ。あのエルフ達は魔王軍。そして、ヤツらの頭目は恐らく、四天王の一人『一撃必殺いちげきひっさつのドライ』だ」


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