はじめてのおつかい①

『リマの町』。次に我々が目指す場所はそこだと、イツキは話していた。

 大きな都市の中では最も王都に近い町であり、人々の往来も多い為、非常に賑わっている場所だと彼女は言っていた。

 俺は人間の町に行くのは初めてだ。故に、少しだけワクワクしていた。だが、その期待は裏切られることになる。

 自然界に漂うたくさんの魔力。その魔力によって凶暴化した野生動物・魔獸との戦闘を繰り返し、俺達はようやく開けた土地に着いた。その先に見える景色を指さし、イツキが叫ぶ。


「あ!あそこに見えるのがリマの町よ」

「なんというか……聞いていた話と違うのだが?」


 一言でいうなら、寂れた町。周囲は全く手入れされておらず、雑草が伸び放題になっており、肝心の町は遠目からでも活気がないのがわかる。


「変ですね?私も以前来たことがありますが、もっと賑やかな町でしたよ?」

「ふぅむ。勇者殿、とりあえず町の者に話を聞いてみては?」

「そうね」

「……あ、あの~」


 背後から聞こえるか細い声に俺達は振り返る。それは借りてきた猫の様に大人しくなったフュンフの声だった。


「オレっち、いつまで着いてきゃいいんスかね?……あっ!いや、全然嫌とかそんなんじゃないんスけどぉ」

「そうね……。じゃ、アンタはここら辺の草むしりと町のゴミ拾いでもしてて」

「はぁ!?何でオレっちがそんなこと」

「ボランティアよボランティア。感謝されるのは気持ちがいいわよ」

「いや、だから理由を……」


 そういいかけたフュンフの首にかかった魔力の枷を引っ張ると、イツキはにっこりと笑う。


「アンタ、ツヴァイの情けで生かしてもらったこと忘れたんじゃないでしょうね?少しはこっちの言うこと聞いたって罰は当たらないわよ?」

「……ちっ」


 イツキに諭され舌打ちをすると、ヤツはこちらに向かってきた。そして不気味な上目遣いで俺を見つめる。


「パイセ~ン。じゃあせめてオレっちの鎌、返してくださいよ」


 そういいつつ、フュンフは俺の背にある大鎌を指さした。ヤツが変な気を起こさない様に、町までの道中俺が預かっていたのだ。


「ほらぁ。やっぱり除草作業といえば鎌っしょ?」

「駄目だ。こんな人間の町に近い場所でお前に凶器は持たせられん」

「いやいや!よく見てくださいよ、その鎌!草刈りに適した形してるって!」

「どう見ても命を刈り取る形してるだろ」


 だが、フュンフのヤツは俺の腕にしがみつくと、ゆさゆさと身体をゆすってくる。……ええい、気持ち悪い。


「ホント勘弁してくださいよ~。高かったんスから、それ」

「いいこと聞いたわね。じゃあこの鎌はツヴァイの退職金代わりに貰ってくから」

「はぁ!勇者!テメ……、それまだローン残ってんだぞ!」

「じゃ、残りのローンは魔王様とやらに請求しなさい」


 それだけ言うとイツキは手をヒラヒラと振りながら、リマの町に向かって歩きだした。


「じゃ、行くわよ。みんな。……ボランティア、がんばんなさい」

「やってやるよ!クソが!」


 町に向かった俺達に捨て台詞を吐くと、フュンフは鬼の様に草をむしりはじめた。……案外天職なのかもしれないな。


「さて、じゃあ町に着いたことだし色々分担しましょっか」

「分担?」


 パーティでの行動などしたことの無い俺は首を傾げる。そんな俺にカタリナが補足をしてくれた。


「宿の確保や次の町までの保存食の調達なんかを手分けしてするんです。一つずつこなしていたら、大変ですから」

「そういうこと。じゃ、アタシとラウロンは宿の確保と情報収集をするわ。この町の変な雰囲気の原因、突き止めたいしね。カタリナは食料と道具類の買い出しをお願い。それから……」


 イツキが俺の方を見る。そして、彼女は小さく頷いた。


「そうね。ツヴァイ、アンタは荷物持ち!カタリナについてってあげなさい。それからボディーガードもしてあげるのよ?その子、可愛いから」

「ゆ、勇者様!」

「ふっ、心得た。守るのは得意だ」


 そう言った俺に、顔を赤くしたカタリナが深々と頭を下げた。


「あの、じゃあよろしくお願いします!」

「任せてくれ。どんな重いものでも運んでみせるさ」

「ほっほっほ。頼もしいですな……では勇者殿。行きましょう。早くしないと日が暮れてしまいます」

「そうね。じゃ、アンタ達よろしく頼むわね。……あと、カタリナ。食料は肉多めで」

「ふふっ。またラウロン様に怒られちゃいますよ?」

「いいのよ。別に」


 それだけ言い残すとイツキとラウロンは町中に消えていった。


「しかし、つい先程まで敵だった俺と自分の仲間を二人きりにするとは……ちょっと信用し過ぎじゃないか?」

「大丈夫ですよ。勇者様はああ見えて人を見る目があるんです。それに私だって信頼してます。ここまでの道中、魔獣の攻撃から何度も守っていただきましたし」

「そうか」


 こうもストレートに信頼していると口にされると、流石に照れる。回復術士・カタリナ。彼女はどうやら天然な気質があるらしい。


「さあ、俺達も行こう。まずはどうする?」

「そうですね。食料は重くなってしまうので後にしたいですから……。まずは薬草みたいな軽い物から見て回りましょうか」

「なるほどな」 

「では、いざいざ。道具屋へレッツゴー!です!」

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