敗者の末路
「ところで、このキモ骸骨……。どうしようかしら?」
泡を吹き、地面に突っ伏しているフュンフを指差し、勇者は首を傾げた。
その言葉に仲間達は意見を述べる。
「あまり手荒なことはしたくないのですが……」
「しかし、こやつが先程言っていた通り、生かしておくのは危険ですぞ?それに勇者殿はともかく、ワシやカタリナ殿の入浴シーンを覗かれる心配も大いにありますゆえ」
そう言ってラウロンは胸元をそっと隠す。
「いらん心配してんじゃないわよ!変態ジジィ!」
不意に勇者がこちらを見る。
「で?アンタはどうしたいわけ?」
「そうだな……。お前達の障害となるならここで始末するしかあるまい。ヤツも戦士だ。戦いの末に死ぬ覚悟はできているだろう。……だが、俺個人としては殺さない方向で話を進めたくもある」
「あっそ。じゃ、このキモ骸骨は生かしといてあげましょ」
「……いいのか?」
勇者は不思議そうな顔で俺の問いに答えた。
「良いも何も、コイツ仕留めたのはツヴァイ……アンタじゃない。なら、生殺与奪の権利はアンタにあるわ。ま、アタシだったら手始めに生きたまま皮を剥いで、粗塩塗りたくるぐらいはしたいけどね」
「……………」
飄々とした顔でそんなことをいい放つ勇者から距離をとると、俺はラウロンとカタリナに小声で耳打ちをする。
「おい。コイツ本当に勇者か?発想が邪悪過ぎるだろう」
「残念ながら、勇者の称号はその高い戦闘能力に贈られるものなんじゃ。あのお方の中身はほぼ蛮族と変わらんわい」
「でもでも。勇者様は優しいところもあるんですよ?昨日も私にもっと体力をつけなさいって、お夕飯の付け合わせの野菜を全部くれたんです」
「なっ!それは
「うっさいわね!アタシの魔法は肉を原動力に発動すんのよ!それよりラウロン!さっきの発言、聞こえてたからね!勇者の聴力ナメんじゃないわよ!」
「お、おい。二人とも一旦落ち着け」
二人の間に割って入った俺は、軌道修正するため再び四天王の一人、神出鬼没のフュンフの処遇について話を戻した。
「それよりもイツキ。コイツを生かしておくことができるのか?瞬間移動の魔法はどうするつもりだ?」
「大丈夫よ。アタシにいい考えがあるわ!」
そして勇者は道具袋をごそごそと漁りだした。
「う、う~ん」
「あ!目を覚ましたみたいです!……大丈夫ですか?」
しばらくして、フュンフに回復魔法をかけていたカタリナが声を上げる。その声に、俺達もヤツの元に集まった。
「気分はどう?
「神出鬼没だ!……って、テメーは勇者!」
フュンフはガバリと飛び起きると辺りを見回す。そして、イツキや俺の顔を交互に見ながら首を傾げた。
「あ?オレっち、どうなったんだ?」
「感謝するんだな。お前の傷はそこにいる
俺の視線の先にいるカタリナが恥ずかしそうにペコリと頭を下げる。
「……あー。なるほどなるほど。つまり勇者サマご一行は、オレっちに止めをささないばかりか、怪我まで治療してくれたと」
ぶるぶると肩を震わせるフュンフ。自らにかけられた情けに感動するようなタマではあるまい。あるとしたら、
そんな俺の予想に反して、ヤツは腹を抱えて笑いだした。
「ケケケ!お優しいことで!それとも単に馬鹿なだけかぁ?!」
「何が言いたい」
「オレっちの固有魔法、忘れたのかよパイセン!今この瞬間だって、アンタらから逃げ出すのは簡単なんだぜぇ?生きてればこそ……だよなぁ。生きてればこそ、こんなチャンスが回ってくる」
フュンフは勇んで立ち上がると俺達をぐるりと見回す。そして、芝居がかったポーズをとると声を張り上げた。
「オレっちを生かした事、必ず後悔させてやるぜぇ勇者!それじゃあ……アバヨ!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………あり?」
恥ずかしいか恥ずかしくないかで言えば、比較的恥ずかしい寄りのポージングでフュンフは固まる。得意の瞬間移動が不発に終わったのだ、無理もあるまい。
「ありゃ?……あ~、寝起きだから。寝起きだからうまくいかなかったんスよ、きっと」
動揺のあまり早口になるフュンフ。だが、深呼吸をすると、再びいつもの調子を取り戻した。
「ケケ、仕切り直しだ。……じゃあな、馬鹿な勇者共!せいぜい夜道には気を付けな……アバヨ!!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…ぷっ……くく」
一瞬の静寂。その後、笑いを堪える勇者の声が少しずつ漏れだした。
「あははは!ちょっと見た?カタリナ。今の迫真の『アバヨ!』……ぷぷ」
「ちょっと勇者様。笑い過ぎですよ」
「おい、イツキ。そろそろ種明かしをしてやったらどうだ?見てるこっちがいたたまれない」
「はいはい。しょうがないわね」
ヒソヒソと話す俺達に、顔を真っ赤にしたフュンフが食って掛かる。
「テメーら!オレっちに何しやがった!」
「何って……ソレよ、ソレ」
イツキがフュンフの細い首を指差す。そこには、先程彼女が道具袋から取り出した首輪が取り付けられていた。
「それは『魔封じの枷』。文字通り装着した者のあらゆる魔法の発動を封じるの」
「んだと!」
「それからその枷はアタシの魔力とリンクさせてあるから、アタシの意思でしか外せないの。ま、外す気なんてないけど」
「な……。そんなモン着けて、オレっちをどうする気だ!」
「それをこれから考えるんじゃない。とりあえずそうね。次の町を目指しましょうか」
そう言うとイツキはフュンフの首輪をむんずと掴み、ずんずんと先に行ってしまった。
とりあえず俺も勇者を追わねば。そう思った俺の後ろから、残ったパーティメンバーの二人が声をかけてきた。
「ツヴァイ殿ツヴァイ殿。自己紹介が遅れましたな。ワシは格闘家のラウロン。よろしく頼むわい」
「私は回復術士のカタリナです。お怪我をしたらすぐに言ってくださいね?」
「ああ。よろしくな」
ペコリと二人に頭を下げる。そんな俺の顔を、カタリナがニコニコと笑いながら見つめる。
「……俺の兜に何か着いてるか?」
「いえ、そうじゃないんです。ただ、嬉しかったんです」
「嬉しかった?」
「はい!私、ツヴァイ様はもっと怖い人かと思ってました。でも、あのフュンフって人を殺したくないって言っているのを聞いて、お優しい方だなって思ったんです」
「あんなのは俺のエゴだ」
「いや、ワシも同感じゃ」
今度はラウロンが口を開く。
「敵対したとはいえ、古巣である魔王軍の者を何の躊躇も無しに始末しようとしていたなら、ワシはヌシを信用できなかったわい。だが、慈悲の心と誇りを併せ持つツヴァイ殿になら、ワシらの背を任せることができる」
二人にそう言われ、少し気恥ずかしい気分になる。
「あっ!!」
そんな俺の感情を、カタリナの大声が吹き飛ばした。
「ラウロン様!ツヴァイ様!大変です!勇者様の姿が見当たりません」
「やれやれ、では少し急ぐとするかの」
「そうだな。俺達のリーダーの所に」
そして、俺達は遥か先を歩くイツキに向かって走り出したのだった。
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