金城鉄壁VS神出鬼没

「……で。この戦い、アンタはどう見るかしら?ラウロン」

「そうですな。残念ながらあの御仁、ツヴァイ殿には厳しい戦いになるかと」

「その心は?」

「相性です。線で移動する高速移動と違い、瞬間移動は点での移動が可能。つまりツヴァイ殿が如何に強靭な壁を作ろうとも、容易く回り込まれてしまうということですわい」

「ええ!じゃあ、ツヴァイさんの魔法は意味が無いってことですか!?」

「どうかしらね?アタシに言わせりゃ、固有魔法だろうが何だろうが、ただの特技の延長線よ。ただ瞬間移動できるだけ、ただ壁を作れるだけ……。そこに意味を持たせられるかは本人次第じゃない?」

「ホホ。勇者殿は言う事が違いますな……ではあの御仁が自身の魔法に如何なる意味を持たせるか、見守ろうではありませんか」


 ……瞬間移動テレポートの出来るコイツに俺の魔法は意味が無い。それは理解しているつもりだ。ならば狙うのは移動の直後。


「ふぅん!!」


 力任せに得物を振り回す。が、当然これはかわされる。


(死角を狙う際の定石は、対象の背後。ならば……)


 煙のように消えたヤツを追って、俺は後ろを向く。だがそこにフュンフの姿は無い。


「ケケ!は~ずれ!」


 ズシリとした衝撃が頭頂部を襲う。俺の真上に瞬間移動したフュンフが俺を踏みつけたのだ。

 そのままヤツは俺を踏み台に、クルリとバク転を決めると両手を叩いて大笑いをした。


「ケケケ!!動きもトロけりゃあ勘も悪ぃ!こりゃあラッキーだぜぃ!」

「ラッキー?」

「そ。オレっちの最優先事項はパイセンの持つ鍵の回収。オメェみたいな雑魚に負ける心配はねぇし、厄介な勇者は手を出してこねぇ!だからパイセンをぶっ殺した後でクソメンドーな勇者ご一行をじっくりなぶり殺せるっつーわけよ」

「お前が勇者を?……ふん。無理だな」


 俺の言葉にフュンフは不気味に口角を吊り上げた。


「パイセンよぉ。なんか勘違いしてねえか?オレっちの真骨頂は奇襲!たとえ今日は逃げようとも、オレっちの魔法なら四六時中勇者達を狙うことができんだよ!」


 体を反らし、ゲラゲラと下品な笑いをこぼしながらもヤツは続ける。


「メシ食ってる時も!寝てる時も!フロ入ってる時も!便所でクソしてる時も!オレっちは常にヤツらの背に刃を突き立てることができる!この『神出鬼没のフュンフ』が存在する……。その事実だけで勇者どもは怯えて暮らすことになるんだ!ケケケケケケ!」

「……そうか」


 ふぅっ、と溜め息をはく。


「別にお前がどう戦おうと、お前の勝手ではある。だが、あえて言わせてもらうなら……」

「あん?」

「お前には『誇り』がない」

「誇り?ケケケ!誇りでメシが食えるかよ!」

「確かにな。おかげで俺は食い扶持を失った。だが、こんな俺に『誇りを守る為に戦え』などと酔狂なことを言った馬鹿がいるんだ」

「はぁ?」

「そんな馬鹿の為にもこの戦い。負けられん!」


 俺は残った魔力を振り絞ると、自身を中心にドーム状の防壁を張り巡らせる。


防壁展開ディフェンスウォール!!」

「無駄だっつてんだろーがよ!クソ雑魚がぁぁ!」


 特大の殺意がこもった怒号と共に、フュンフの姿が掻き消える。

 360度、全方位を囲ったところでフュンフは俺の防壁を掻い潜ってくるだろう。だが、裏を返せばヤツは攻撃のため。そして、この防壁の中は全て俺の斧槍ハルバードの制空圏内だ。

 俺は得物を握る手に力を込め、一か八かの技を繰り出す。


嵐の斧槍シュトルム・ハルバーディア!!」


 防壁内部を隈無く塗り潰すように斧槍を回転させる。そして次の瞬間、鈍い手応えをこの手に感じた。


「ぐぇぇ!」


 フュンフの絶叫。それに続いてミシミシと骨の軋む音が防壁内に響く。斧槍の背の部分がフュンフの脇腹を捉えたのだ。そのまま俺は、遠心力に任せヤツを巻き上げると地面に叩きつける。


「ぎゃあああ!」

「安心しろ……峰打ちだ」


 この武器に峰の概念があるかどうか、甚だ疑問ではあるが、こういうのは雰囲気が重要なのだ。


「ぎ……ぎ……」


 ピクピクと痙攣し気絶するフュンフを見下ろしていると、勇者達が俺の元に駆け寄って来た。


「わぁー!すごいです、ツヴァイさん!何て言うか、その……すごかったです!」

「お見事でした、ツヴァイ殿。防御だけでなく攻撃にも応用できるとは、戦術の幅が広がりますな」


 ニコニコと敵意の無い笑顔を向けるカタリナとラウロン。そして、その後ろからは勇者が姿を現す。


「へえ、やるじゃない。やっぱりアタシの目に狂いはなかったみたいね」

「当たり前だ……と、言いたい所だが。正直最後の作戦、あれはお前の風魔法を見て思いついたものだ。つまり……なんだ。お前のおかげで勝てたってのも……少しはある」


 俺の発言に勇者はニヤニヤと笑う。


「ふーん。なーんだ、じゃあアタシ達もうチームプレイできてたってわけね」

「そんな大層なものじゃないだろう」


 そうは言ったものの『チームプレイ』。その響きに少しだけ高揚を感じる自分がいた。そんな俺の心境を知ってか知らずか、勇者はこちらに手を差し出した。


「と、いうことで……これからよろしく頼むわよ?ツヴァイ」

「こちらこそ世話になる。勇者」


 だが、勇者はムッとすると握手の為に差し出した俺の手をするりとかわした。


「おい!何だよ?」

「なんか『勇者』って呼ばれんの好きくないのよね~」

「だが、あっちの二人は勇者と呼んでいるだろう?」

「カタリナやラウロンは立場上色々あんのよ。だからさ、せめてアンタくらい名前で呼んでよ。『イツキ』それがアタシの名前だから」


 いたずらっ子のようにはにかむと、勇者・イツキは再び手を差し出す。そして、俺はその手をとると、固い握手を交わした。


「これから世話になる。よろしくな、イツキ」

「ふふ。期待してるわよ」

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