捨てる神あれば拾う神あり①
「ツヴァイよ。貴様は四天王の面汚しだ。よって今この時をもって魔王軍を解任するものとする」
「……承知いたしました」
戦場において敗北は死を意味する。つまり俺は先程の戦いで死んだも同然なのだ。死者たる俺が魔王軍から外される。魔王様の言葉は至極当然だと俺は思った。だが、そんな我が主の決定に異議を申し立てる者達が、前に出た。
「ちょっとちょっと。負けたら解任?いくらなんでも横暴がすぎるんじゃない?」
勇者が偉そうに、人差し指を魔王様に向かって突きつける。さらにその仲間達も魔王様に食って掛かった。
「そうじゃそうじゃ!挽回の機会も与えずハイさよならなんぞ……。ずいぶん心が狭いんじゃのう?魔王とやらは」
老齢の格闘家・ラウロンは嘲る様に鼻で笑った。
「そうですよ!ひどいじゃないですか!あと……、その……可哀想です!」
回復術士・カタリナも、理屈にもなっていない語彙力0の言葉を魔王様にぶつける。だが、我が主はそんなことなど意に介さず、高笑いをした。
「ふはは!敵の身の上を心配するなど、勇者とやらは随分優しいのだな」
「そんなんじゃないわよ」
「ふん!……ならば強者故の余裕か、はたまた同情か?いずれにせよその男の解任は以前より考えていたのだ」
「な!どういうことですか!魔王様!!」
戦いに敗れたならいざ知らず、俺が四天王の座から降ろされる理由など思い当たらなかったのだ。だが、俺の思考を読んだかのように魔王様は懐から書類の束を取り出した。
「これは魔王軍の兵士たちを対象に行った四天王に対する意識調査アンケートだ。無論、個人のプライバシーを保護するため、実名は伏せさせてもらう」
「魔王がプライバシーとか気にするの、なんか嫌だわ」
「世知辛いのぅ」
「可哀想です」
「貴様ら、ちょっと黙ってろ!……魔王様、早く続きを」
茶々を入れる勇者一行を黙らせると、俺は魔王様に続きを促した。
「うむ。このアンケートによると、ツヴァイ。貴様だけ『四天王に相応しくない』の項目へのチェックが飛び抜けて多いのだ」
「……!本当ですか!?」
「幾つか理由を抜粋しよう」
魔王様はそう言うと、手元のアンケート用紙をパラパラと捲った。
『守備特化の能力のせいで噛ませ犬のイメージがある』
『大きな身体に
『全身真っ黒の鎧は逆にダサい。見たことないけど多分、私服もダサいと思う』
『無口過ぎて取っつきにくい。寧ろ陰気臭いと感じることもある』
「……とまあ、こんな感じの意見が軍内部にもでている」
「そ、そんな……」
アンケートの結果に、俺は膝から崩れ落ちる。そこに追い討ちをかけるように魔王様が口を開く。
「そんな訳で、だ。ツヴァイ……貴様はクビだ。何処へなりとも行くがいい」
「……はい。今まで、本当にお世話になりました」
俺にクビの宣告をすると、魔王様の幻影は煙のように消え去ってしまった。……さて、これからどうしようか?何か疲れたなぁ。どこか静かな場所に行こうか?それともいっそ……。
「あ、あのさぁ……」
「ん?」
途方に暮れ、自棄にも似た将来設計を考えている俺に、勇者が声をかける。
「アタシは結構いいと思うわよ?その武器。アンタに似合ってるし」
「どうした?急に」
それに続いてその仲間達も俺に近づいてきた。
「私も、その鎧。シックで素敵だと思います」
「そうじゃよ。それに口の軽い男より、無口な男の方がワシの経験上、誠実な者が多い。ヌシもそうじゃろう」
きっと憐れみからくる慰めの言葉。そうわかってはいても、拠り所を無くした俺にとっては十分響く言葉達だった。
「すまない。気を使わせたな」
「世辞じゃないわよ。それにアンタの能力!仲間内じゃあ随分な言われようだったけど、アタシにしてみたらあんな有用な魔法はそうそう無いわよ?」
「そうですな。ウチのパーティは攻撃特化のワシと勇者殿。支援特化のカタリナ殿の三人ですから、防御特化の技は羨ましい限りじゃよ」
「それにそれに!あれだけの防壁を何度も張れていたんですから、きっと魔力量も相当なんだ
と私は思います!はい!」
三人の言葉で、沈んだ気持ちも少しだけ楽になった。
「そうよ!!」
そんな俺の心境を知ってか知らずか、勇者は手をパンっ!と叩くと、いたずらっ子のような笑みを浮かべ俺に歩み寄った。
「アンタ、ウチに来ない?」
「は?」
勇者の提案に、俺はすっとんきょうな声を出す。
「だ~か~ら~。ウチのパーティに入りなさいよ。行くとこ無いんでしょ?」
「いや、しかし……」
俺は躊躇した。いくら一方的なクビを言い渡されたとはいえ、魔王軍と戦う勇者パーティに加入するなど……。そんな後足で砂をかけるような行為、許されるのだろうか?
「戦ったアタシならわかるわ。アンタ、自分の力に誇りを持っているんでしょう?」
「そりゃあ……」
「だったら!アンタの力を馬鹿にした魔王を見返す為にウチに入りなさい!チンケな復讐や下らない仕返しの為じゃない、アンタの誇りを守る為に戦うの!」
「……俺の、誇り」
今にして思えばとんだ詭弁だ。だが、その言葉は当時の俺の胸には深く突き刺さった。そして俺は、勇者の差し出した手を取ろうと立ち上がる。
「!!」
だが次の瞬間、俺は勇者の手を払いのけると彼女を思いきり突き飛ばしていた。戦士としての勘、そして魔族の上位種として研ぎ澄まされた感覚が僅かに危険を察知したのだ。
「痛た……。ちょっと!何する……って、え!?」
腰を擦りながら身体を起こした勇者は驚きの声をあげる。先程まで彼女のいた場所には、巨大な鎌が深々と突き刺さっていたのだ。
「あれぇ~?読まれっちまったスかねぇ?失敗失敗。ケケ!」
俺を含めた全員が驚く中、ソイツは奇妙な笑いを浮かべながら鎌を拾いあげた。
「魔族……。それも上位種みたいだが、知らない顔だな。貴様、何者だ?」
巨大な鎌とは不釣り合いな痩せこけた身体。骸骨を彷彿とさせる異様な雰囲気を纏うソイツは不気味なほど長い両腕を広げ、大袈裟に頭を下げた。
「どーも、パイセン。それに勇者。はじめまして!オレっちはアンタに変わる新・四天王『
フュンフと名乗る骸骨男はそう言うと、気味の悪い顔をより一層歪ませた。
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