『奴は四天王でも最弱』。魔王様の一言でリストラされた俺は、その場の流れで勇者パーティに加入することになりました
矢魂
1章 金城鉄壁のツヴァイ
奴は四天王でも最弱
魔王・ヌル。圧倒的なカリスマ性と桁外れの魔力によって魔族達の頂点に君臨する、絶対的な指導者である。そして、そんな彼の元に集まった数多くの魔族の中から、さらに選び抜かれた四人の精鋭。
我ら四人は味方からは敬意を、敵からは畏怖を込めてこう呼ばれた。……四天王と。
そんな俺が、今現在。人間の小娘に圧倒されていた。
「ぐっ!……この俺をここまで追い詰めるとは。人間よ、中々にやる」
全身を覆う漆黒の甲冑は軋み、その繋ぎ目からは激戦の末に流れた血が滴る。もはや目の前の傑物を小娘とは侮れまい。その実力は先の戦いで嫌と言うほど身に染みた。どうやらこの女、『勇者』という看板に偽りは無いらしい。
世界をその手中に収めんとする我が主、魔王様。その快進撃に終止符を打つため、人間が送り出してきた最強の戦士、それが勇者である。
だが、たとえ相手が勇者であろうとも負けない自信はあった。しかし、それ以上に慢心があった。所詮は人間……俺はそうやって高を括っていたようだ。
繰り出される剣技、放たれる魔術。そのどれもが最高峰。おまけに優秀な仲間と連携をとってくる。
「ホリャ!」
勇者パーティの一員、老齢の格闘家・ラウロンが飛び上がる。そして、俺の頭部に目掛けて高い打点の胴回し回転蹴りを繰り出した。
「チッ!」
すんでの所でラウロンの蹴りをかわすと、俺は自慢の得物である『
「くらいなさい!」
「ぐぉっ!」
俺の意識が
ラウロンが技と速さで撹乱し、勇者が攻撃を叩き込む。シンプルなコンビネーション、だがそれ故に攻略が難しい。
苦戦の理由はそれだけではない。
「皆さん!もう一度強化魔法を掛け直します!」
そう叫んだのは、部隊の後方にいた
「これで潰す!」
そう言って勇者は手にした剣を大地に突き刺す。それと同時に、幾つもの巨大な
これはかわせない。そう確信した俺は魔力を解放した。
「四天王を……舐めるなよ!」
自らの前面に強固な
「ふんっ!ほんっっとに厄介ね、ソレ」
「俺は魔王軍の盾!そうやすやすと突破はさせん!」
魔族とは、即ち魔力に秀でた種族の事だ。その中でも基本である、火・水・地・風の属性魔法に加え、生まれつき特殊な固有魔法を有する者が存在する。それらは魔族の間では『上位種』と呼ばれ、特別視されている。そして、上位種である俺の固有魔法こそこの『
「魔力の続く限り、強固な壁を作り出すことのできる俺の固有魔法。人間ごときが超えられると思うなよ?」
「あら、そう?……じゃあ久しぶりに出しちゃおうかしら?本気」
言うがはやいか、勇者は俺の作り出した壁に向かって駆け出す。……馬鹿な。正面から突破するつもりか?
「やめておけ!俺の
これはハッタリではない。事実、俺は過去に様々な相手と戦った。人間の戦士、暴走した魔獣、魔族の跳ねっ返り……。そして、その数百にも及ぶ戦闘の中で、俺の固有魔法を正面突破した者は唯の一人も存在しなかったのだ。
(無駄な事を……)
そんな俺の心境など知らぬとばかりに、勇者は手にした鋼の剣を天高く掲げた。
「特別に見せてあげるわ。アタシの……、勇者の本気を!」
振り上げた勇者の剣に光が集まる。恐らくは武器に属性魔法を纏わせる、『
火、水、地、風。4つの属性が同時に鋼の剣を包み込む。それらは混ざりあい、また反発しあい、その激しさを増していく。それはまさしく、片手剣のサイズに圧縮された混沌と呼ぶにふさわしい様だ。
「噂に聞いた事がある……。これが勇者の奥義」
「歯ぁ、食い縛りなさい!
片手剣一閃。眩い光と鈍い音。それと同時に俺の防壁と
「勝負ありね。四天王の一人・金城鉄壁のツヴァイ。さ、アンタの持つ鍵……渡して貰うわよ」
衝撃で後方に倒れ込んだ俺の前に勇者が立ち塞がる。そして、こちらに向かって手を差し出した。
勇者の言う『鍵』とは、魔王様の居城へと続く道を開く四つの鍵のことだ。魔王様は非常に警戒心の強いお方であり、我ら四天王ですら普段はお会いする事が無い。その代わり、魔王様は居城の鍵を四つに分け、それぞれを四天王に守らせた。その一つが俺の持つ『地の鍵』である。
「……確かに、俺の負けだ。……殺せ」
「嫌よ」
勇者は俺の言葉に首をふると、やれやれといったようにため息を吐く。……ムカつく反応をする女だ。
「俺は魔王軍の騎士。負けたからといって、魔王様から預かった鍵をおいそれと渡す訳にはいかん。欲しければ殺して奪え」
「あのねぇ。アタシ、勇者って呼ばれてんのよ?こう見えて。そんなアタシに殺して奪え?盗賊じゃない。それじゃあ」
そう言いつつ、勇者はしゃがみながら視線の高さを俺に合わせる。
「不要な殺しはしないに限る。そこら辺の認識は魔族だろうが人間だろうが共通だと思ってたんだけど……。アタシの見込み違いだったかしら」
「…………」
不要な殺しはしない。その考えには俺も共感できる。そもそも魔王軍の一員として戦っているのも、天涯孤独だった俺を拾い今日まで食わせてくれている魔王様への恩を返すためであり、好きでやっていることではない。
「なによぉ。黙っちゃって。アンタ騎士なんでしょ?負けたってのに駄々こねる気?」
「……ふっ」
戦闘中とはうってかわって、年相応の反応を見せる奴に俺は思わず吹き出した。そして、それと同時にある決心をする。
「わかった。俺の持つ地の鍵はお前に渡そう。だが、俺を生かしておいたこと。いつか後悔するかも知れんぞ?」
「しないわよ、きっと。アタシの勘、結構当たるんだから」
「そうか」
俺は懐から鍵を取り出すと、それを勇者に向かって差し出した。だが、その瞬間。俺達の頭上から聞き覚えのある声が降ってきた。
「無様だな。ツヴァイよ」
低く威厳のある声。俺はこの声をよく知っていた。この声の主、それは……。
「ま、魔王様!」
空を見上げた俺の視線の先には、豪奢な装飾品と黒いローブを身に纏った魔族の王。魔王・ヌル様がこちらを見下ろしていた。
「アンタが魔王?偉そうに浮いてんじゃないわよ!腹立たしい!」
言うがはやいか、勇者は魔王様に向かって魔法の玉を打ち出した。だがそれは、魔王様の身体をするりと抜け、遥か彼方へと飛んでいく。
「無駄だ、勇者よ。コレは魔法による幻影。残念ながら貴様の攻撃は私には届かん」
「くっ……」
魔王様は冷たく言い放つと、こちらに視線を移す。
「我が四天王の一人を倒したようだな。……だが、勘違いするなよ?勇者。奴は四天王でも最弱!そんな雑魚一人倒したからといって調子に乗るでない!」
「ま、魔王様!?」
その日俺は、忠誠を誓った魔王様によって残酷な宣告を受けた。三千世界、ありとあらゆる業界の四天王と呼ばれる人々が、もっとも言われたくはないであろう台詞第一位。
『奴は四天王でも最弱』
その、言葉を……。
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