第5話

龍太は気付くと床一面に広がる綺麗なお花畑の中に立っていた。


龍太「え?、、どこだここは?」


そして、龍太の目線の先には川幅10メートル程の浅い川が流れている。ちょうどその川の手前岸に立っている人が見えた。その人の姿は、誰がどう見ても仏様の容姿をしている。その仏様が、龍太にこちらへ来なさいと手招きをしていた。


仏様「おーい、早ようこちらへ来い」


龍太は、お花畑の広がる道を歩き、仏様の呼ぶ方へと進んでゆく。


仏様「おー待っておったぞ。君は龍太君だな?」

龍太「え?何で名前知ってるんですか?」

仏様「ほほほっ。それは私が仏様だからだ」

龍太「仏様?何でここに」

仏様「うん。龍太君はこれから、この川を歩いて向こう岸まで渡る。そうすれば、龍太君はちゃんと私と同じく、仏様になれるんだよ」

龍太「、、イムちゃんになるって事かよ」

仏様「んなっ!?、何でその呼び方を知っとる!!無礼者だな君は!」


いきなり仏様に怒鳴られた龍太は驚いた。と同時に過去の記憶が蘇る。


・・・


龍太は音楽の授業に行くのが億劫だった。それは、学期末に行う歌のテストがあるからだった。龍太が重い腰を上げて音楽室に向かう為に教室を出る。すると、前の時間に歌のテストを終えた虎五郎と廊下で出会った。


龍太「おう、虎」

虎五郎「歌のテスト終わったよー」

龍太「いいなー。俺は、これから」

虎五郎「俺は無事やりきったぜ!これでな」


と言いながら、虎五郎は右の手の平を龍太に見せる。


龍太「ん?ナニコレ?、イム?」

虎五郎「違うよ!仏だよ。困ったときは仏様にお願いしますって、何とか緊張せずに歌えたんだから。龍太もやってみ!」

龍太「いいよー。なんか恥ずかしいじゃん。虎の字見ちゃったから、イムが先に頭ん中に浮かんじゃうよー」

虎五郎「ハハハッ!イムちゃんも良いな!」


龍太は、虎五郎から謎のおまじないを教えられたが。ちっとも助けにならないと、龍太は落ち込みながら音楽室を目指す。虎五郎はイムちゃんが気に入ったのか、一人でぶつぶつとイムちゃんに願い事をしながら去っていった。


・・・


これは困ったな。何で龍太と言う男の子が私のあだ名を知っている。というか、イムと言う呼び方はあの閻魔(えんま)が私をおちょくって付けた名前。さては、閻魔が人間界で勝手な事をしているのか。この子には申し訳ないが、これ以上私の変なあだ名が広まっては困る。


と仏様が独り言を唱えている横で、龍太は声をかけるタイミングを伺っている。


龍太「あのー、なんかすいません。怒らせるつもりはなくて」

仏様「あぁあ!、つい取り乱してしまってすまないな。ただ一つだけ、龍太君には試練を与える事にしたよ」


そう言うと、仏様が龍太に近づき肩をポンっと叩いた。


・・・


龍太は気が付くと、視界には白い天井が見えていた。身体が暖かい。龍太はベッドの上に横になっている事に気づく。


健太「お兄ちゃん!」

信子「あっ!龍太、えっと先生呼んでくる!」


その後、直ぐに白衣を着た男性と看護婦さんが病室にやって来た。龍太は、ゆっくりだが、何故自分が病院にいるのかを思い出していた。それは、体育の授業中。柔道の乱取りをしているとき、野球部の友達に一本背負いを仕掛けられ、思い切り受け身を取ったものの気を失ったのだった。


その翌日。精密検査の結果を先生から聞かされた龍太。その結果は、お医者さんが驚くほどだった。龍太は首に軽い打撲を負っただけで、後は何も損傷はなかった。龍太は、だから身体がダルいのかと思い下を向く。そして、ふと自分の右の手の平を見た。そこには龍太が書いた記憶のない黒い文字が記されていた。


龍太「え?、イム、、虎か?」

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龍太と虎五郎 アラガキ アラタ @aragakiarata

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