異世界魔法書士は命を救う

さて、次のお話は7冊目。奪われるはずだった一人の少女のお話である。境遇があたしと似ていることからコヨイお姉ちゃんの要望で救うことになった。

『ここら辺かな?いないなー』

だが、どこを探してもその子は見つからない。早く見つけて保護をしたいところだ。

『コヨイお姉ちゃん居たー?』

『こちらにはおりませんわ。一体どちらに行ってしまったのかしら?』

真っ直ぐけものみちを歩いていると屋台の美味しそうな匂いがした。こんな場所でお祭りだろうか。この本の世界観は夏だから何もおかしくはないが。

『まぁ!美味しそうな食べ物が沢山ありますわ。目移りしちゃいますわ。メヨイはどれにする?』

『いちご味のかき氷にする!』

ほとんどの人はいちご飴に目が行きがちだが、あたしは違う。いちご味のかき氷を選ぶのだ。そう言えば今までこの身体になってから妙にいちごが好きになったような気がする。もしかすると女の子のメヨイになったから味覚が変わったのか!?知らず知らずに味の好みが以前まで暮らして居た世界とはかなり変わった気がする。そんなことを思って目をぐるぐるさせて居るとほっぺたに冷たいものが当たった。

『ひゃっ!?』

『ほ〜ら!メヨイの大好きないちごかき氷ですわよ!』

『わーい!冷えていて美味しそうだね!頂きま〜す!』

『ふふっ。メヨイが生きていて良かった。』

かき氷を夢中で食べ干した頃、影が見えた。間違いない。物語で追っていた目的の女の子だ。

『行こう!』

ダッシュして女の子の居場所まで行った。

『な、誰?』

『あたしはメヨイ!あなたを助けに来たの。』

『私はコヨイ。あなた命の危険が迫ってきてますわ。』

『むぅっ。そんなことわかってるよ。』

『このままではあなたは力を使い果たして死んでしまいます。私達と一緒に来てください。』

『そ、そんな事言われてもな。』

『来ないと死んじゃうんだよ。』

『わかった。私に勝てたら2人について行くよ。勝負は1人ずつ受けるね。』

『わかりましたわ。私から勝負お受け致します!』

『申し込まれたの私なんだけどな〜。自己紹介まだだったね。カモメの名前はカモメ。』

『よろしく。カモメちゃん!』

コヨイお姉ちゃんとカモメちゃんの真剣勝負が幕を開けた。

『よーい!スタート!』

『氷魔法!アイス!』

『そんな攻撃通じないよ!』

カモメは刀を振り回してアイスを叩き割る。この世界の外から内まで全てを切り刻むかのように。

『けれど、私も負けられませんわ。ラズベリーソード!』

『へぇ。それがお姉さんの本気か!楽しいじゃん!』

カモメちゃんは物怖じせずに突っ込んでくる。刀と刀のぶつかり合いだ。まさに鍔迫つばぜり合い。どちらが勝ってもおかしくない状況まで持ってこれた。カキーン!勝負は決着した。

『はぁはぁ。』

『はぁはぁ。』

先にひじをついたのはカモメちゃんだった。

『カモメの負けだよ。カモメこれが負けたの初めてだよ。』

そう。作中無敗の記録を誇っていたカモメちゃんが敗れる時は強大なラスボスにやられる時だ。つまり、作中で1番最初にカモメちゃんに勝ったのはコヨイお姉ちゃんということになり作品の現実をねじ曲げることに成功したのだ。

『これで自分の限界を知られたわよね?』

『うん。コヨイちゃんに着いていく。あ、そこの妹さんもよろしくね。』

『妹さんじゃなくて、あたしのことはメヨイって呼んで!』

『わかったよ!メヨイさん。』

『カモメちゃん…!』

何故今あたしが驚いているのかというとカモメちゃんが急に抱きしめてきたからだ。

『あっ!ズルい!私も抱きしめて欲しいわ。』

次はカモメちゃんとコヨイお姉ちゃんで抱き合った。青春しているなぁ。

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