異世界魔法書士は恋の方舟

次に選んだのは学園恋愛ものの本だ。このお話はヒロインとイケメン主人公が結ばれるお話だ。だが、どこの世界にも選ばれた人間がいるということは選ばれなかった人間がいるということも忘れてはいけない。今回は選ばれなかった人間に手を差し伸べようと思った。既に本の世界に入っており、主人公のイケメンな先輩と結ばれなかった女の子たちが何人かいるので、読んでいて気になった娘のいる教室に足を運んだ。ノックをして教室に入る。

『どちら様?』

黒い長髪に綺麗な瞳、どこからどう見ても人気のある正統派ヒロインのフユア。彼女はイケメンな先輩の妹であるが、養子で血の繋がっていない兄妹だ。

『あたしはあなたの恋の方舟はこぶね良かったらお手伝いさせて。』

戸惑っているフユアにお兄さん先輩の攻略方法を説明した。

『まぁ!そんなに詳しいなんてあなた一体何者!?』

『通りすがりの恋の方舟だよ。ところで、お姉さん!この恋が上手くいったらあたしにも報酬ちょうだい!』

『何がお望み?』

『そうだね。余命6日くらいしかないから、どうにか延命できるようにして欲しいなあ。』

『余命6日!?わかりました。検討しておきます。』

まずはお兄さん先輩の好きなお菓子を用意しておく。恋は胃袋を掴むことから始まる。そこから猫を連れていく。猫を連れていくことで他のヒロインたちが猫アレルギーを持っているので寄せ付けられない。あとは旅行に行ったり、生徒会の仕事を手伝う。かなり順調だ。

『やりました!お兄ちゃん喜んでくれました!』

『フユアお姉さんやったね!』

『これもメヨイさんのおかげです!』

『もう一押しだね。』

ここまでやっても中々、奥手な男は動かない。荒業だが、あたしも協力することにした。フユアに話をつけてもらい放課後、お兄さん先輩を待ち合わせした。

『君がお友達のメヨイさん?』

『うん。お兄さん先輩、フユアお姉さんのことどう思ってる?』

『どうって…?』

『鈍いなあ。恋愛対象として見られているかってこと。』

『いやいやいや!フユアは妹だよ!?』

『妹でも実の妹じゃないよね?』

『!?なぜそれを?』

ハッとした表情だ。

『わかるよ。フユアの気持ちに答えてあげて。』

鈍い人には気持ちを伝えておくべきだ。

『だ、だけど。』

『今だよ。フユアお姉さん。』

『お兄ちゃん!!』

フユアはお兄さん先輩を抱きしめた。

『ずっとずっとお兄様が好きでした!私と付き合ってください!!』

『フユア…うん。』

告白の返事はOKだった。2人は幸せそうにハグをしていた。1時間後、フユアお姉さんから呼び出された。

『先日はありがとうございました。』

『ううん。上手くいってよかったよ。』

『これも恋の方舟効果ですね!』

『えへへ。』

なんか自分で言ってたけど他人に言われると恥ずかしいな。

『メヨイさん。こちらお礼のお洋服です。』

『フユアお姉さんありがと!』

着てみると身体にピッタリだ。いつ、あたしのサイズを測ったんだろう。願いが少しだけ叶いやすくなるらしい。それって、もはや神頼みのような気がしてきた。それはさておき、そう簡単に延命はできないよな。

『また遊びに来てください。』

『うん。じゃあね!メヨイ・・・!』

光の中へ駆け出して病室へ戻った。病室に戻ると朝だった。今夜は2冊が限界だったな。次はもっと本の世界に入れるといいな。本来なら病気が治るのが1番だけど、不治の病だから難しい。生きているとこんなにも優しい気持ちになれるんだな。貰った服と付けているペンダントを見てそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る