異世界魔法書士は女の子になる

どれくらい時間が経っただろうか。まぶたをぎゅっとつぶったまま風を感じる。風がとても気持ちいい。ゆっくり目を開けると天井が写った。辺りをキョロキョロと見渡すと病室だった。ここはどこだ?我はさっきまで大広間に居たはずだ。考えているとドアの方にぽかんと口を開けた女の子が立っていた。髪色は青紫で左側に結んだ綺麗な髪の毛。顔立ちはとても整っている美少女だ。どこかのご令嬢やお嬢様のような気品のあるたたずまいを感じ、思わずうっとりする。その青紫美少女は拳を強く握ったあと、フラフラとゆっくり歩いてきた。下を向いていて表情は見えない。近づいてきてギュッと強くも優しく抱きしめられた。

『目を覚ましてくれたのね。良かったです

わ…』

青紫美少女は涙をこぼしながら目を閉じて我を抱きしめている。なんの事だか分からず、呆然ぼうぜんとしてしまう。

『ずっと昏睡状態だったのよ。病院の先生からはもう目が覚めないって言われていましたわ。』

『ここはどこだ?あなたは誰?』

『わ、わたくしがわからないのですか!?』

『あ、ああ。』

青紫美少女は激しく取り乱して手で顔を覆い、シクシク泣き出してきまう。さっきから我の声もかなり違和感があるが、しばらく寝ていたせいだろうか。

『記憶喪失だなんて。うっ…うっ』

『いや、記憶喪失じゃないとは思うんだが。なぁお嬢ちゃん。教えてくれよ。』

『双子の姉のわたくしのことまで忘れていて、お嬢ちゃんと呼ばれるのは初めてです…しかも話し方も全然違いますわ。そんな男性のような話し方はしません。』

こいつは何を言ってるんだろうか。我は姉など居ないし、どこからどう見てもこの青紫美少女は10代半ばの年下である。しかも男性のような話し方と言っているが、我は男だから普通だと思うのだが。しかし、嫌な予感が脳裏のうりぎった。我は視線を下に向けて自分の身体を観察した。少しだけ胸に膨らみがあり、手をひっくり返すと小さい。来ている服も女の子が着るようなパジャマだ。股間に手を当てると男の象徴が無くなっていた。胸の膨らみに手を当てると感触があり、女の子のそれだった。

『うっ…な、ない、ある…』

さすがの我も動揺してペタペタと自分のとは思えない女の身体を触る。男の大事な部分が無くなり、女の小さいおっぱいがあるのだ。考えただけでもゾッとする。ここが病院だとしたら手術か?誰が一体なんのために?顔と真相を確かめるため、青紫美少女に声をかける。

『か…鏡をください』

『グスッグスッ…ええ。どうぞ。』

青紫美少女から手鏡を渡される。その手鏡で顔を見ると髪の色は桃紫ももむらさきで右側に結んだ綺麗な髪の毛。顔立ちはとても整っている。青紫美少女に瓜二うりふたつの美少女がそこに映った。凄く驚いていて、この世のものでも見ていないかのような表情をしている。怒った顔をしてみたり、ほっぺやおっぱいをつねると激痛が走った。少し涙を流したあと、ほっぺに手を添えて手鏡を持ったまま言う。

『い、痛っ!なんだこの身体。この女が…これが自分?や…やだあああああ!!』

受け入れられない状況に勢いよく手鏡を投げてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る