余命1日の魔法書士

中須ゆうtive

異世界魔法書士は闇を叶える

異世界魔法書士いせかいまほうしょしは闇を叶える。誰もが1度は聞いたことがあるだろう。この世界には魔法書士という職業がある。本の世界に連れて行って人々の心の闇を叶える素晴らしいお仕事だ。我も魔法書士として色々な闇を叶えてきた。どんな闇か教えてやろう。本の世界でハーレムを築きたい。物語がどのくらい怖いのか実際に体験したい。主人公の先輩と結ばれるはずだったヒロインを阻止して付き合う。部活動で青春する。冒険者をして自分が魔王になる。田舎で平和に暮らしたい。スポーツでライバル校を優勝させて好きな人に絶望を味わせる。推しとバンドをする。旅をする。世界を救う。お金持ちになる。多いだろう。これら全ての依頼人を本の世界に連れていって叶えてやった。まぁ依頼人全員死んでるんだけどな。それはそうだろう。そうじゃなきゃ儲からない。まず、報酬は先払いだ。そんでもって本の世界の中で命の保証はしない。依頼人が死んだらそこで見殺しにして元の世界に帰還する。仮に生きていたとしても我が裏切り嘘の情報を吹き込んでそいつらが恨まれるところを楽しむ。それも一興。そして、元の世界に戻ってきたら依頼人の財産を全て頂く。そうして今まで生きてきた。これからもそうするつもりだ。人は皆、願いを叶えるために何かを犠牲にしなければならない。今日も依頼人を待たせている。我は報酬のことを考えながら大広間へ向かった。テーブルを挟んで向かい側、依頼人の女は席に着いていた。我も椅子に座る。


『お待たせ。それでご要件は?』

『本の世界に入って大嫌いな登場人物に嫌がらせしたいです。』


我は大声で笑う。

『ははっ!それは面白い!入りたい本のタイトルは決まってるのか?』

『夢の双子。』

『ほほう。どんな物語なんだ?』

『双子の妹が病で死んでしまう切ない作品です。』

『…楽しそうだな。ところで嫌がらせしたい登場人物というのは?』

『双子の妹のメヨイです。このピンク紫の髪色の娘。彼女は何もしなくても病気で死ぬのですが…理由は言わなくても良いですか?』

『良いだろう。さて、ここから本の世界へ行く決まりを伝えるぞ。1つ、報酬は先払いだ。』

『大金や価値のあるものですよね。どうぞ。』

金銀財宝、高価な品々、価値のある物が並んでいた。

『うむ。2つ、元の世界に帰れない可能性もあり、命の保証もしない。できるのは手伝いだけだ。』

『わかってます。』

『話が早いな。3つ、本の中に入るのに登場人物になるのだが、誰になりたい?』

『メヨイになります。』

『む?嫌がらせしたい相手になるのか?』

『悲惨な結末を迎えさせたいので。』

『よくわからんが、良いだろう。そこに座れ。この本に今から魔法をかけるぞ。』

我は本をテーブルに置き呪文を唱えた。


『この者を本の世界に連れて行きたまえ!』

本が光り輝く。すると、依頼人の女が立ち上がった。手には全ての魔法を反射する伝説の鏡を持っている。

『かかったな!魔法書士!』

『な!?』

『この顔に覚えはないか?』

『前の依頼人にそっくりだ…!』

『そうだ!私の双子の妹は魔法書士に会いに行ったあと行方不明になった。お前が殺したのだろう。お前に依頼したばかりに、あの子は…。今度はお前が死ぬ番だ!』


鏡が魔法を反射して光が瞬いた。

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