神々の遺跡 ③


 空へ飛び立つと、ファーストワンと機械仕掛けの神デウスエクスマキナは同時に距離を取った。

 機械仕掛けの神デウスエクスマキナの腕が漆黒のカノン砲へと変形し、照準がファーストワンへ向けられる。その瞬間、ロゼはレバーを操作してファーストワンを右に移動させた。


 カノン砲が巨大な弾丸と火を吹き出す。その斜線上に、ファーストワンはいない。


 しかし、避けたと思った弾丸が突然、ファーストワンの方向へ屈折した。


 弾丸がファーストワンの左腕に打ち込まれ、爆炎を上げる。モニターが真紅に染まり、アラートを鳴らす。


左腕さわん損傷――』


 システムが告げるように、ファーストワンの左腕は先程の攻撃で肘部分から下が吹き飛んでいた。だがそれもお構いなしに、ロゼはスラストレバーを前に押し倒す。


 爆炎を突き抜け、機械仕掛けの神デウスエクスマキナへ一直線。

 機械仕掛けの神デウスエクスマキナは、


「ほう」


 とだけ呟き、誘導するように距離を取った。


 ――ファーストワンは飛行能力こそ手に入れたが、武装を得たわけではない。現在の装備はダガーとレールガンのみ。

 このレールガンをあの機体へ叩き込めれば、全て解決だ。


 ……そのためには、やつの行動を制限する必要がある。


 ファーストワンがさらに加速する。すると、機械仕掛けの神デウスエクスマキナの背中部分から、鉄のムチのようなものが何本も現れファーストワンへ襲いかかってきた。


 ロゼは巧みな操縦により、それらをダガーで切り落としていく。最後の一本を切り落としたところで、機械仕掛けの神デウスエクスマキナが更に飛翔した。


 機械仕掛けの神デウスエクスマキナが腕を広げる。

 すると――。


 機械仕掛けの神デウスエクスマキナの背後の空間が歪み、そこから無数の巨大な銃口が姿を現した。


 銃口の数は、一、十、百、千――とてつもない数だ。


 そこで初めてロゼは、眉根を寄せ表情を変えた。

 

 こんなもの、人型機械マキナの力の域を超えている。これこそまるで、神の力だ。


 機械仕掛けの神デウスエクスマキナの背後の銃口が、全てファーストワンへ向けられる。そして一斉に銃口が瞬いた。


 降り注ぐ千の銃弾――。逃げ場がない――。


「……」


 ロゼは冷静だった。左目を瞑り、右目を覆っていた黒髪をそっと指先でかき分け――でモニターを凝視する。


 銃弾の雨に逃げ場はないと思われた。機械仕掛けの神デウスエクスマキナですら、そう確信していた。


 だがロゼはファーストワンを操り、銃弾の雨の一箇所――わずかに晴れたその部分を、くぐり抜けて見せた。


 銃弾が目下の遺跡へ降り注ぐ。それらは石像を破壊し、地面を砕き、はたまたあの民族たちを肉塊へと変えていった。


 ロゼは動じない。誰かが死ぬのなんて、もう見飽きた。


 と、ファーストワンの背後の空間が歪み、音を立てずに銃口が突き出してきた。ファーストワンの死角だ。反応するのは不可能のはず。


 そして、銃口から弾丸が放たれる。


 ――しかしこれも、ロゼはファーストワンを少し動かすだけで避けてみせた。

 


 弾丸はあらぬ方向へと消えていく。機械仕掛けの神デウスエクスマキナは、ファーストワンを見下ろしながら淡々と語り始めた。


「――その動き。まるで未来を読んでいるかのような身のこなし。なるほど。貴様、か」


 ロゼの右目――空色の瞳が、蒼く輝いている。ロゼは一度だけ、右目を抑えた。鼻から血が流れ出て、膝に落ちる。これ以上を使えば、寿命を縮めることになる。


 ……けれど、それでいい。これが最期なのだから。


「どうして、みんなを殺したの」


 スピーカーをオンにし、ロゼが問う。こんな状況でも、まるで動揺していない。


「我の世界には、不必要な存在だからだ」


 機械仕掛けの神デウスエクスマキナが、ファーストワン目掛け急降下してくる。ロゼは右目でモニターを睨みつけた。その瞬間、脳内を強い痛みが駆け回り、反応が一瞬遅れてしまう。


 機械仕掛けの神デウスエクスマキナに掴まれ、ファーストワンは地上へと真っ逆さまだ。


 ……これはチャンスだ。


 ファーストワンもまた、機械仕掛けの神デウスエクスマキナを掴み返し、動きを拘束する。

 ファーストワンの肩のレールガンが、照準モードに切り替わる。狙いは機械仕掛けの神デウスエクスマキナの胸部。搭乗席と、動力源だ。


 躊躇うことなく、トリガーを引く――。


『――動力が足りません。レールガン使用を中止します』


「……っ」


 ロゼはモニターを見て、息を飲んだ。


 ファーストワンの残エネルギーがどんどん低下している。まるで機械仕掛けの神デウスエクスマキナに吸い取られているみたいに。


 地上がどんどん近づく。あの、山頂が切り取られたピラミッド型の建造物へ真っ逆さまだ。


『警告。地上が接近しています。直ちに体勢を整えて下さい――』


 機体が揺れる。強烈な浮遊感に、体の感覚が麻痺していく。


 もう一度モニターを見ると、機械仕掛けの神デウスエクスマキナの姿が見えた。


 そして――。

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