神々の遺跡 ②
男が言ったセリフに、ロゼは一瞬反応できなかった。
黒い
次の瞬間、ロゼは男の首元にナイフを当て、身を乗り出していた。
「どこにいるの」
男は「ひっ」と息を飲んだ。目前の少女の表情は先程と変わりない。しかし、光の消えたロゼの瞳に、更に深く影が掛かったのを男は見逃さなかった。
「わ、わからねぇよ! そもそも、なんでこんな町を襲ったのかすら……」
「いつ?」
「……なんだって?」
「いつ、その
「つい昨日だよ! ――ってちょっと待て!」
踵を返したロゼの肩を、男が掴み止める。ロゼは冷たい表情で、ゆっくりと男の方へ振り返った。
「……なに」
「あんた、あの
ロゼが流れるような動作で、喚き立てていた男の太ももへナイフを突き刺す。悲鳴を上げ蹲る男を見下ろしながら、ロゼはナイフをホルスターにしまうのだった。
「邪魔しないで」
「嬢ちゃん……! よせ……!」
それでも尚、手を伸ばしてくる男を背に、ロゼは建物を出る。それからすぐに、ファーストワンへと搭乗した。
『REシステム起動、認証開始――』
ファーストワンのナビゲートが、やけにうるさく聞こえた。ひどい耳鳴りがする。まるであの時のようだ。
――やっと、見つけた。自分から全てを奪っていった、あの黒い死神を。
『認証完了、システム――』
「
モニターを操作しながら、ロゼが端的に告げる。するとシステムは、当たり前だが気を悪くすることなく忠実に従った。
『微かですが、待機中に漂うブラスト粒子を感知。当機とは別の機体のものです』
「どこに続いているか、モニターに写して」
モニターには、このペルザの町から伸びる一筋の道標のようなものが映し出された。
ブラスト粒子は、
ロゼはスラストレバーを前に押し倒し、道標を辿るように加速した。腰回りのブースターが今までで一番唸っている。地を這うように、荒れた大地を突き抜ける――。
やがて、瘴気区域へとたどり着いた。瘴気特有の紫色の霧が立ち込め、前が見えなくなる。それでもロゼは突き進み続けた。
すると瘴気が突然消え、視界が晴れた。この空間だけが、まるで台風の目の様に瘴気が消え去っていたのだ。その荒れた大地の中心には、古代の遺跡のような物が見えた。これがまた規模が大きい。散策するには一日かかるだろう。
――道標は、ここで途絶えていた。
その遺跡は、いくつもの建造物と彫刻で構成されていた。見たことのない生き物の彫刻で、この世界の生き物のどれにも似ていない。
ロゼはファーストワンと共に、遺跡内部へと侵入する。すると、建物の陰から一人の女の子が姿を表した。
布を体に巻き付けただけの、質素な格好の女の子だ。女の子が、なにか叫んでいる。さらに、同じ格好をした大人たちが、ぞろぞろと姿を現し始めた。
彼らは皆、ファーストワンを指差し知らない言葉を繰り返している。言語が違い、なにを言っているかはさっぱりわからない。
と。
『――強力な磁場を確認』
ファーストワンが突然、そう告げた。謎の人々から視線を外し、ロゼは一際大きな建造物へと目を向けた。頂上が切り取られたピラミッドのような建造物だ。
その頂点に。
黒いシルエットが、浮かんで見えた。
モニターでズームをする。あれは、
全身漆黒に覆われ、背中には機械の翼のようなものも見える。頭部はファーストワンと似ており、鳥の
ブースターは背中に巨大なものが二つ。胴体は分厚く、ここからでは武装が確認できない。
過去の記憶が蘇る。あの時の姿となんら変わりない。
――奴が今、目の前に立っている。
ロゼの憎悪が極限に達したところで、システムが静かにこう言った。
『REシステム、展開』
レゾナンス・エボルヴ・システム――。別名、共鳴進化システム。
次の瞬間、ファーストワンの機体が、青白く輝き始めた。ファーストワンの背中部分が割れ、形状が変化していく。肩部分から更にブースターが突き出し、碧色の翼のようなものまで現れた。
『――共鳴終了。アナライズ――飛行能力』
その直後、ファーストワンが弾かれたように前へ飛び出した。そのまま飛び立ち、黒い
ファーストワンが腰のダガーを抜き取り、勢いそのままに黒い
ギイイイイン! と、金属同士がぶつかり合う音が響き渡り、衝撃が四散する。ロゼはどんどんスラストレバーを前に押し倒していく。
すると、黒い
「――我は
抑揚のない、男声――。ロゼもスピーカーをオンにし、わざとこう吐き捨てた。
「……殺しに来たわよ」
そして更にブーストし、二機は同時に空へ飛び立った。
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