戦火の少女 ④


 格納庫の中は、シャノンからすればまさに人型機械マキナの宝庫、だった。


 天井を這うレーンから、一定の間隔を開けて人型機械マキナたちが吊るされていた。人型機械マキナと言っても、量産型ドールズばかりだ。その見た目は様々だが、軍用でないのは明らかだ。全て小型で兵装も皆無。土地の開拓に駆り出されている物だろう。


「はわぁぁぁ……」


 シャノンは変な声を出し、レーンで運ばれていく量産型ドールズや、奥で整備されている物をじーっと眺めている。


 アッシュおじさんとやらがすぐに持ち場へと戻ってしまったため、シャノンとふたりきりだ。

 シャノンは、吊るされた量産型ドールズの下をくぐりながら、つまらなそうにしているロゼへ言った。


「あっ、勘違いしないでね。あたしが乗りたいのは、開拓用の量産型ドールズじゃないよ。軍用の量産型ドールズだからね」


 どっちも同じ人型機械マキナでしょ、とは言うまい。ロゼは一つ確かめてみたくなった。


「戦いたいの?」


「ううん。戦うのは嫌だ。痛いの嫌だし、怖いし。でも、あたしも戦えたら、この国のためになるし、アドラ帝国との戦争も早く終わらせられるかもしれないでしょ」


 ――アドラ帝国。


 どこかで聞いたことのある名前だ。と考えてから、数秒。ロゼはすぐに思い出した。

 ファーストワンを狙っていた部隊が、その帝国からやってきたと告げていたはず。つまりこのサントロス帝国は、アドラ帝国と敵対関係にあるというわけか?


「……やめておいた方がいい」


 ロゼが小さく告げると、シャノンは「むっ」と口元を歪めた。


「みんなそればっかり。あたしには無理だってね。やってみなきゃわからないもん」


「私なら、シャノンみたいな人を先に殺すかな。戦いはそういうものだよ」


 珍しく反応するロゼ。シャノンは怒ると思ったが……考えてもいなかったロゼの答えに、ぷっと吹き出しただけだった。


「ふふっ、なにそれ! まるでロゼも戦ってるみたい!」


 シャノンは、ロゼが本心から言っているとは気づいていなかった。そもそも、ロゼは人殺しをするような人間に見えない。


「本当は、あたしが行きたいのはここじゃないんだ。軍用機が格納されているのは別のところだからね。でも、あたしは関係者じゃないし入れない。……というか、何度も入隊試験に落ちてるんだよねぇ」


 それは、この国を守る部隊についてだろう。


 シャノンは照れ隠しをするように笑い続けている。

 ロゼにはまったく理解できなかった。


 国のために戦いたいだなんてただの綺麗事だ。そういう奴は、必ず死ぬ。


 ロゼだって戦いたいわけじゃない。

 あの《黒い人型機械マキナ》に復讐するために、ロゼはそれまで必ず生き延びなければならない。だから、生きるために戦い、殺すのだ。

 それまでは死ねない。復讐さえ達成できれば、後は永遠に休めるのに。

 

「……ねぇ、ロゼ。聞いてる?」


 その間、どうやらシャノンはなにか言っていたらしい。考え込んでいたロゼは、シャノンを見て首を横に振った。


「す、素直だなぁ……。そろそろ帰ろうって言ってたの。少し早いけど、ロゼの服とかも買わなきゃ。これからは、家族だからね」


 シャノンが、中へ入れてくれたアッシュへ手を振り、別れを告げた。


「アッシュおじさん! またねぇ!」


 アッシュも手を振り返している。ロゼはそんな二人を無視して、先に外へと出た。




 ——そして、今夜。サントロス帝国は火花散る戦場と化す。

 ロゼたちはそんなこと知る由もなく、帰路を歩むのだった。


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