第050話 最後で最強の一撃

 巨人は俺から一旦足をどけ、更なる攻撃のための準備に入った。次の一撃で跡形もなく俺を滅ぼすためか、とても溜めの大きな技を使うようだ。


 俺はもう動けないので好きの大きい技だとしても問題ないという判断なのだろう。


「諦めてんじゃねぇぞ。この野郎」

「そうだよ……最後まであきらめないで」

「にぃ!!」


 横たわりあきらめかけて死を受け入れようとしている俺を我に返す声が耳に届く。それはズタズタになった体を引きずりながら一歩また一歩と俺の近くにやってくる修二と聡、そしてペットのエンジュだ。


「お前ら……逃げろ……」


 俺は最早動くことも敵わないので、なんとか口を動かして全員をここから逃がそうとする。


「へっ。お前を助けに来た時点で覚悟は決まってんだよ」

「そうだよ、僕達だけ生き残るなんてなしに決まってるよ」


 しかし、二人は俺の傍に体を引きずりながらやってきて俺の傍にドカッと腰を下ろした。


 どうやら俺と一緒に心中するつもりらしい。


「にぃ!!にぃ!!」


 エンジュは俺の胸の上に乗って私もご主人様と一緒にいると鳴いて俺の顔に頭を擦り付ける。


 可愛いが、今この時だけは俺から離れてほしかった。でも命令を口にすることは俺にはできなかった。


「お前らには……家族がいるだろうが……」


 俺は両親も祖父母いないからまだいい。


 でも、聡と修二はついさっきネットが遮断されたことによって連絡が取れないものの、彼らの母や両親はまだ生きている可能性が高いはずだ。


 俺と一緒にこいつらも死ぬだなんて二人の家族に申し訳が立たない。エンジュだって生きてほしい。助けたのは俺だけど、二人なら面倒を見てくれるだろうし、優しく接してくれるはずだ。


 こいつらは俺に巻き込まれていい奴らじゃない。


「はんっ。母ちゃんなら分かってくれるさ」

「そうだね。うちの両親も僕に甘いから大丈夫さ」


 それでもその場を動こうとしない三人。


 全く義理堅いことだ。申し訳ない反面実は嬉しい気持ちもある。一人で死ぬのは寂しいからな。


 しかし、できればこいつらを死なせたくはない。でも、もう俺には力が残されていない。体はズタボロ。魔力も出ない。指一本動かせない。


 あいつを倒す手段がない。


「本当にやれることは全部やったのか……?」

「もう手段はないの?」

「それはない……はず」


 俺は二人に改めて問われると俺は自分が全部やったということに疑問が湧く。


「ステータスオープン」


 俺はステータスを開き、自分の能力を確認する。


―――――――――――――――――――

■名前  六道小太郎

■職業  

 クラフター  ランク二

 剣聖     ランク一

 賢者     ランク一

 聖者     ランク一

 盾騎士    ランク一

 特級テイマー ランク一

■レベル 三〇(五×六)

■スキル 収納、生産、修復、強化、

     剣技、気闘法、属性魔法、

     付与魔法、鑑定、詠唱短縮、

     神聖魔法、挑発、蓄積、

     全反射、従魔契約、敵意減少

―――――――――――――――――――


「あっ……」


 俺は自分のステータスを見ていてうっかり忘れていたことを思い出した。


「どうした?」

「何か分かったの?」

「もしかしたら……あいつを倒せるかも……しれない……」


 俺が何かに気付いたのを悟った二人に俺はシャドウを倒せる可能性を伝える。


「それならいけるかもしれないね」

「確かにな」


 二人は俺の方法を賛成してくれた。


 しかし、それは上手くいかなければ必死。


「二人は……離れていてくれ……」

「ばーか、かっこつけてんじゃねぇよ」

「そうだよ。最後のその時まで僕たちは一緒さ」

「にぃ!!にぃ!!」

「もう分かったって……好きにしろ……」


 できれば離れていてもらってダメだった時は逃げてもらおうと思っていたんだけど、どうやらそう上手くはいかないらしい。


 二人は俺の考えなんてお見通しだったみたいだ。エンジュも自分は絶対ご主人様から離れないからね、と俺に必死にしがみついてはなれようとしていない。


 本当にこんな俺と心中したいなんて奇特な奴らだよ。


 俺は思わず涙を流す。


「失敗したら……ごめん……」

「気にすんな」

「そうだよ。もう頼れるのは六道君しかいなんだから」


 俺は最後に謝っておく。二人はそんな俺に仕方がないなという表情で返事をした。


 勝負は一瞬あいつが全力で攻撃を仕掛けてきたその瞬間だ。


『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ』


 全身を引き絞り、両手を組んでギリギリまで振り上げたシャドウは、俺に向かった致死の一撃を振り下ろした。


「はっ……どっちが勝つか……勝負だ!!」


 俺は迫りくる攻撃を見つめ、タイミングを計る。


 五

 四

 三

 二

 一


全反射フルカウンター


 俺はただ静かにそのスキルを発動させた。


―ドォオオオオオオオオオオンッ


 相手の攻撃が俺の当たる寸前で現れた障壁によって受け止められ、それだけでなく、奴の体が手の先から崩れ去っていく。


 それもそのはず。


 俺は受けたダメージを蓄積によって溜めておくことができ、全力反射はその溜めていたダメージを最後の攻撃とともに相手に反射させる技。


 今までどれだけの攻撃を受けていたかは分からないけど、一発に集約すれば倒せる威力になると踏んだ。


「どうなったんだ?」

「分からん」


 俺に尋ねる修二に正直に答える。徐々に霧が晴れてくるが、シャドウが動く様子はない。しかし足だけはそのまま立っているのは分かっている。


 徐々に薄くなっていき、だんだん晴れてきた煙。


 シャドウの体があったその場所には何も残っていなかった。

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