第049話 絶望再び
『ヴォオオオオオオオオオッ!!』
足を切り飛ばされた巨人シャドウは、痛みからか思いきり叫び声を上げる。
『これなら……いける!!』
今のスピードと攻撃力があればこいつに勝てると確信し、気持ちを落ち着けて構え直してたたみかける。
「おらおらおらおらおらおらおらおらぉああああああああ!!」
俺は剣を滅茶苦茶に振り回して奴の体を切り飛ばし続ける。
『ヴォオオオオオオオオオッ!!』
修二と聡から受けた傷のせいで俺の攻撃をなす術なく受け続ける巨人シャドウ。やつの体積がどんどん小さくなっていく。
このままいけば奴も倒せるだろう。
俺はそう思ってさらに攻撃を続けた。
『ヴォオオオオオオオオオッ!!』
体の下半身を全て切り放し、だるまおとしみたいにドンドン巨人の顔との距離が近いづいてくる。
下半身の次は腕を斬り飛ばす。ここまでくればもう何も抵抗できない。しかし、用心しながらもそのまま上半身も下から斬り飛ばしていく。
そしてようやく地面に顔の部分が落ちてきた。
『ヴォッ。ヴォッ。ヴォッ。ヴォッ。ヴォッ。』
俺はそこでようやく巨人シャドウの顔を見る。口のような漆黒の穴が歪み、まるで笑っているかのようだ。その笑みは俺をあざ笑っているかのようだった。
「はっ!!できるもんならやってみろ!!」
俺は最後の止めを刺すため、思いきり飛んで顔を一刀両断した。
―ズシーンッ
顔はぱっくりと我、二つに分かれて左右に倒れ伏す。
「これ終わりだろ」
俺は後ろを振り返り、すぐに修二と聡の様子を見に行こうとした。
―ドクンッ
「ん?」
しかしその時、何かが脈動するような音が聞こえた。
―ドクンッ
「なんだ?」
再び聞こえるが、音の元凶がどこにあるのか分からない。
―ドクンッドクンッ
「一体何なんだよ!!」
最初は弱かった音がどんどん強くなってきてハッキリ聞こえるようになってくる。
―ドクンッドクンッドクンッドクンッ
そしてそれはどんどん回数を重ねていく。
どこだ、元凶はどこだ……。
俺は当りを見回すが全体から聞こえてきて判別できない。
「全体……?まさか……?」
思えば不思議だった。
爆弾か何かで吹っ飛んだ部分は残っていないのに、剣で切り飛ばした部分は残ったまま地上に残っているという状態が。そしてこれだけの相手を倒したというのにレベルアップしないという現象に。
倒したら消えるのかと思っていたけど、俺は完全に思い違いをしていたのかもしれない。
―ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ
「あぁ……マジかよ……くそっ!!」
俺の目の前で切り放されたシャドウの一部たちが呼応するように一か所に集まりだす。それはつまり巨人シャドウはまだ死んでないという事実。
「そうはさせるかよ!!十文字斬り!!十文字斬り!!十文字斬り!!十文字斬り!!十文字斬り!!……」
俺はそれを阻止するために集まろうとする体を切り飛ばす。しかしいくら切り飛ばした所で小さくなっただけで、集まろうとする動きが止まるわけじゃない。
俺の抵抗も虚しく徐々に体の一部たちは集まり、まとまり、体を形成していく。
「クッソォオオオオオ!!ファイヤ―ボール!!ウィンドカッター!!サンダー!!アイスニードル!!」
斬撃がダメならと俺は魔法を放つ。
―ドンドンドーンッ
魔法が蠢く影に着弾する。
「どうだ!?」
剣でダメージを与えられないなら、魔法で少しでもダメージを与えてくれ!!
俺はそんな願いを込めながら煙が晴れる前に叫んだ。
『ヴォッ。ヴォッ。ヴォッ。ヴォッ。ヴォッ』
しかし、俺の思いは虚しく叶わず、体の融合は進み、最初に落ちてきた時よりも一回りスマートな人型を形作っていく。
「くそっ!!止められなかった!!」
最後まで切りつけたり、魔法をぶつけまくったりしたが、もうその動きを止めることは出来なかった。
『ヴォオオオオオオオオオッ!!』
少しコンパクトになったことで弱くなったかと思いきや、その咆哮は最初に出会った時よりも威圧感が増していた。
「まさか復活した上に、進化したってことか?そんなのありかよ……」
俺はさらに強くなってしまった巨人シャドウに、思わず諦めそうになる。
「いや、諦めてたまるか……ここであいつを倒さないと、聡や修二にエンジュ、それに優奈や加奈まで殺されてしまう」
俺は大切な人達のことを思い浮かべて気持ちを奮い立たせ、顔をパンっと叩いて気合を入れた。
「よっしゃ!!ここからは我慢比べだ!!」
俺は全力で気闘法を使い、剣を構えて巨人シャドウを睨んだ。
『ヴォッ。ヴォッ。ヴォッ。ヴォッ。ヴォッ』
巨人は俺を舐めて笑っている。
「くそったれが!!舐めてんじゃねぇ!!」
『ヴォッ!?』
俺の本気のスピードにシャドウも面食らったらしく、焦った声を出す。
『連続十文字斬り!!』
俺は奴が狼狽えている隙に足許から飛び上がって懐に潜り込み、十文字斬りを放った。
―ズバァアアアアアアンッ
さっきの攻撃した時と同様に、凄まじい剣戟と共に奴の胸元に十字に風穴があく。
『ヴォッ。ヴォッ。ヴォッ。ヴォッ。ヴォッ』
しかし、奴は俺をあざ笑うかのように不敵に笑う。
「くそっ。普通に再生するようになりやがった……」
今までは俺を弄ぶために切り飛ばされていた演出をしていたのか、もう斬り飛ばされることもなくなり、空いた穴が徐々に塞がっていく。
それだけじゃなかった。
『ヴォッ』
奴はそのまま俺にパンチを放ってきやがった。俺は空中にいて躱せそうにない。
「ぐほっ」
両腕をクロスさせて体を守るが、校舎の方に吹っ飛ばされる。
「くっ」
吹っ飛ばされる途中でなんとか態勢を立て直し、校舎の壁に着地した俺は勢いを利用して奴に向かって飛ぼうとした。
しかしそれは遅かった。
―スドォオオオオンッ
「ぐぼぉおおおお」
すでに奴は俺の目の前に迫っていて、俺の体の前にやつの拳があり、その直後に俺の体が校舎にめり込んだ。
『ヴォッ』
「ぐはっ」
『ヴォッ』
「ぐはっ」
『ヴォッ』
「ぐはっ」
…
奴は再び俺を甚振るように殴り続ける。
―ドガァアアアアアンッ
俺を支えていた校舎が奴の攻撃に耐えられなくなり、壊れて俺はフワリと宙に浮いて空が目に入った。
諦めないって言ったけど、あんなん俺じゃあどうしようもないよ……
まるでスローモーションのように世界がゆっくりと流れているように見える。
『ヴォッ』
「ぐはぁっ!?」
止めと言わんばかりに、宙に浮いた俺にかかと落としを決め、そのまま地面に叩きつけられた。
――メリメリメリッ
俺は口から血を吐き、意識が朦朧となる。
はははっ。もう無理、こんなやつ。
もう……ゴールしてもいいよね?
俺はもう完全に心をへし折られる寸前だった。
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