第048話 ランクアップと時間稼ぎ
「そんじゃあ俺達あいつを足止めするからよ!!」
「ちゃんと役割を果たしてよね!!」
修二と聡があの化け物に立ち向かう。
お前らじゃ無理だ、と言いたいところだが、奴もさっきの爆発でかなりの痛手を負っているように見えた。
少しくらいなら大丈夫だろう。
「にぃ!!にぃ!!にぃいいいい!!」
全身滅茶苦茶な俺に縋りついて頭をこすりつけながらポロポロと涙を流して泣くエンジュ。
えへへ……体が全く動かな……ん?
俺は体に何か違和感を感じた。
ふと右手を動かしてみる。
「あれ?折れてない?普通に動くぞ?それにどこも痛くない……どういうことだ?」
俺は頭をひねる。
「あっ」
そこでさっき聡に無理やり口に突っ込まれたポーションのことを思い出した。
「あいつもなんのポーションか分かってなかったみたいだけど、まさかあれレアな回復ポーションだったのか?それにしてもむしろ元気が漲ってるみたいだな」
俺は寝転がったまま手を顔の前に持ってきてぐーぱ―ぐーぱーして感覚を確かめる。体の奥底から力が湧き上がってくるのを感じた。
『クラフターのランクが上がりました』
時を同じくしてタイミングよくランクアップ。それもこれも俺の幸運の女神エンジュが俺の所に帰ってきてくれたからか。
「ほらエンジュ。俺はもう大丈夫だ。心配するな」
「にぃ?」
俺がエンジュをヨシヨシと撫でてやると、泣いていた彼女が頭をあげて俺の顔を見た。
「にぃ!!にぃ!!」
エンジュは俺の顔に縋りついてぺろぺろと舐める。
「ははははっ。くすぐったいっての。それじゃあ時間もないから、さっさとあいつを倒すぞ」
俺はくすぐったかったのでエンジュを持ち上げて顔から離し、顔の前で合わせて修二と聡を助けに行くことを伝えた。
「にぃ!!」
エンジュは心配ないと分かって元気に返事をする。
「二人とも!!もうちょっと時間を稼いでくれ!!」
俺は体を起こしてエンジュから手を放し、声を張って傷ついた巨人シャドウを翻弄している二人に声を掛ける。
「おっ!!元気になったみてぇじゃねぇか!!」
「毒薬とかじゃなくてよかったよ」
二人は俺を揶揄うように宣って笑った。
「何かも分からない薬のませんてんじゃねぇよ。いいから時間を稼いでくれ。そしたら俺が何とかする」
「なんとかなったからいいでしょ。話は分かったよ」
「分かったぜ、任せておけ!!」
俺の要望に対する返事がなかったので再度頼むと、二人は二つ返事で引き受けてくれた。
まず俺がするのは装備の修復。俺は自分の装備を全て修復する。幸い鞄の中には大量の素材があったので、全て完璧に直すことができた。
そして次にすることは装備の強化。
大きく抉れいているにも関わらず、シャドウは徐々に二人を追い詰め始めていた。二人が奴の攻撃に捕まるのも時間の問題だ。
そうなる前に助けに行かなければならない。
そうなると、武器と速度を上げる装飾品を強化するくらいが精一杯だろう。
「おい、この武器を使え!!」
しかし、その時、修二が何かを投げてよこした。
それは白い刀身に紫色の反射が見て取れる装飾も美しい剣。明らかに俺が使っているスチールソードよりも強そうだった。
鑑定してみると、それはミスリル製の剣。硬さは折り紙付きで、攻撃力も今の武器よりも圧倒的に高い。
「サンキュー!!」
俺は飛んできた武器をなんなく受け取ってすぐに強化を施した。エンジュと俺の運と幸運スキルによって武器の強化値がどんどん上がっていく。
それにより剣から圧倒的な光の奔流があふれ出す。
「くっ!!」
「六道君急いで!!」
それに気づいたらしい巨人シャドウが俺を先につぶそうと二人を引きはがそうともがいた。
二人はなんとか躱して事なきを得たが時間がない。
そしてようやく剣が強化値+一〇に到達した。
「ぐわぁっ!!」
しかし、次の瞬間、修二がやつの攻撃を受け、まるでバットで撃たれた野球ボールのように飛んでいく。
「くそっ!!修二!!」
心配だが、あれだけで死ぬ修二じゃない。今俺が優先すべきなのは絶対あいつに勝てるだけの力。つまり最大まで強化することだ。
俺は悪態をつきながらもすぐにスピードを上げる装飾品にも強化を施す。
「がはっ!!」
丁度+一〇まで強化したところで今度は聡まで奴に吹っ飛ばされてしまった。
もう時間の猶予はない。
「いくぞぉおおおおおおおおおおおっ!!」
俺はすぐに装飾品を身に着け、圧倒的な光を放つ剣を携えてヤツにむかって走り出した。
「アタックアップ、ディフェンスアップ、スピードアップ、マジックアップ」
まずは自分に付与魔法を使用して能力を向上させる。さらに元気になったことで気闘法も使えるようになっていることに気付いた。
すぐさま気闘法も発動する。
「サンダー×六!!」
そしてサンダーを六つ放ってやつを釘付けにしてようやく足元にたどり着くことが出来た。
「いっくぜぇ!!+一〇の威力を思いしれ!!十文字切り!!」
俺は激しく発光する剣で巨人シャドウの足を切りつけた。
―ズバァアアアアアアアンッ
その瞬間、刀身とともに光の巨大な斬撃が走り、巨人の足は吹き飛んだ。
それは圧倒的な暴力だった。
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