第047話 主の危機(真田修二視点)
■真田修二 Side
時間を少し遡り、小太郎が結城姉妹を助けに向かった頃。
ロッコの家に近い区画でレベル上げをしていた俺達は、今まで見たことのないシャドウたちに遭遇した。
「はぁっ!!」
―スパンッ
俺は、近づいてきた人型の胴体を太くして四足歩行で近寄ってくるシャドウを居合斬りで一刀両断にする。
「ちぃ!!いきなり現れやがって!!」
何の前触れもなく人型シャドウが出現する渦よりも大きな渦が現れ、そこから奴らは這い出してきた。
ただの人型シャドウは相手にならなかったが、新種のシャドウたちは人型よりも断然強くて少し苦戦を強いられている。
「挑発!!」
すぐにスキルでヘイトを集めて、俺に意識を向けさせ、集中的に攻撃させるようにした。
「ヴォッ」
「ヴォッ」
「ヴォッ」
―キンキンキンッ
「くっ」
俺に気を取られているシャドウが多いので、一体斬った傍から他の個体達が俺にその腕をムチのように伸ばしたり、口から舌をカメレオンのように伸ばしてきたりする。
それは俺達のレベルになっても防御が必要な威力を孕んでいた。 俺はすぐにミスリルブレードでその攻撃を防いだが、その威力に思わずたじろいだ。
「バックスタブ」
静かな声でスキル名を呟く聡。聡は聡はアサシンとしての能力をフルに使ってヒットアンドアウェイで一匹ずつ敵を処理している。まるで機械のように効率的だ。
次に攻撃しそうな個体を中心に減らしてくれていて、俺の負担も軽減している。
「大丈夫?」
「問題ない!!」
聡が俺が攻撃を受けたのを見て、スキルを使って一旦俺の背後に忍び寄って声を掛けてきた。
安心させるようにシャドウの攻撃を受けて返事をすれば、聡はまた気配を消して別のシャドウに忍び寄って、奇襲で切りかかる。
「ヴォエエッ」
「せいっ!!」
俺もタイミングを見計らっては切りかかってモンスターを切り裂く。
「にぃ!!」
そしてここにいるのは俺達だけじゃない。
エンジュはその小さくて可愛らしい姿とは裏腹に、ロッコと契約してモンスターになり、ステータスを得たことで強さも同時に獲得した。
今では俺達とそう変わらないレベルになっている。それにクラフターのスキルで強化された従魔の証によって五割強化されているので、難なく新種シャドウたちをその爪で切り裂いていた。
俺達はひたすらにシャドウたちを切り捨てていった。
「今の装備とレベルがなかったらかなり苦戦していたかもね」
「そうだな」
「にぃ!!」
渦から出てくる数が少し減り、俺達は背中合わせに集まって息を整える。
聡の言う通り、豪運と幸運スキルによって手に入れた高ランクの装備品と、その装備品を使ってレベル上げていたおかげで俺たちはどうにかシャドウの数を減らすことが出来ている。
「ロッコと幼馴染で仲良くなれたのは運が良かったな、俺達」
「本当だよね」
今回のシャドウは建物の破壊もしているので、閉じこもっていた奴らや他の連中はもしかしたらやられてしまっているかもしれない。
しかし、俺達も助けている余裕まではない。すでに通信系の手段が途絶えた。ロッコにも連絡が取れない。俺達の家族も同じだ。だから俺達はこの戦いが終わったら、すぐにでも救出に出発することになるだろう。
そうなると助けたからと言ってその後の責任まで負えない。ロッコも目の前で襲われているか、自分が助けた人間じゃなければ、助けに行ったりはしないはずだ。
ただ、自分が助けた人間からの頼みならどこでも駆けつけようとするのがアイツだ。
―ズシーンッ
そんな思考をしながら敵の攻撃を捌いては切り返してこの辺りのシャドウを駆逐し終えた頃、地鳴りと共に地面が大きく揺れた。
音の元を辿ると、その先で巨人のシャドウが立ちあがっている所だった。
「にぃ!!」
「おいおい、なんだぁ、ありゃ……」
「あれはヤバいね……」
俺達はそのシャドウを見た瞬間、絶対勝てないと悟った。それくらいの威圧感を巨人は放っている。
そして、暫くすると、その巨人は何かと戦っているようだった。
一体誰があんな化け物と?
俺の中でそんな疑問が浮かぶ。
「にぃ!!にぃ!!」
エンジュが俺達に何かを訴え駆けている。こんな時にロッコが近くにいれば意味がわかるんだろうが。
……ロッコか……。
俺はフッと理解した。あんな化け物と戦えるのはロッコしかいないと。そして、エンジュが俺達に何を訴えかけているのかも分かった。
「ロッコが危ないってことか」
「そういうことだろうね」
俺と聡は顔を見合わせる。
「そんじゃあ俺達も助けにいくか」
「そうだね。でもその前にこの宝箱の中身は回収していった方がいい。人型じゃないシャドウから出た宝箱には今まで出現しなかったアイテムがあるかもしれないし、何かの役に立つかもしれない」
「そうだな。手分けして中身を回収したらすぐに助けにいくぞ」
「にぃ!!」
俺達は急いで宝箱の中身を回収していった。
「これは……」
「名前は分からないけど、見た目は攻撃用だよね。牽制には使えるかも」
「とりあえずすぐに使えるように持っていくか」
その中で使えそうなアイテムを見つけた俺はそのまま持っていくことにする。他にも今よりも強くなれそうな装飾品を身に着け、俺達は急いでロッコの許に向かった。
そこには信じられない光景が広がっていた。
それは圧倒的なレベルを誇るロッコが大の字に横たわり、巨人シャドウが今にもロッコに止めを刺そうとしている姿だった。
「あれは!?」
「ちっ。ギリギリになっちまったな!!さっきので牽制するぞ!!」
俺と聡は驚愕しつつもロッコを助けるために動く。
「にぃいいいいいいいいいいいいっ!!」
しかし、エンジュがその様子を見ていられずに先に飛んでいってしまった。
「あ、エンジュ待て!!っくしょー!!行くぞ!!」
「うん」
俺達もすぐに追いかけていき、その大木よりも太そうな腕を振り下ろしそうな巨人に向かって俺は先ほどから抱えているアイテムをぶん投げる。
―ドォオオオオオオオオンッ
そのアイテムがぶつかった瞬間、凄まじい爆発音が当りを包む。俺の耳はキーンと耳鳴りがした。
「うそ!?」
「やば!?」
その余りにデカい爆裂音に俺達は目をシロクロとさせる。俺達が投げたのは見た目がゲームとかでてきそうな丸型の爆弾そのもの。それは予想以上に強力な威力を秘めていたみたいだ。
ただ、そのおかげてあのデカブツもダメージを受けているかは別として動きを止めている。
俺達はすぐにロッコの許に駆け寄った。そこには手足が変な方向に折れ曲がり、顔は血で汚れてボロボロになっているロッコの姿があった。
その姿に思わず泣きそうになる。
「諦めてんじゃねぇぞ、ロッコ」
「そうだよ、僕たちがいることを忘れないでほしいね」
でも、俺達は減らず口でニヤリと笑ってロッコに声を掛けた。
「はははっ。なんで来てんだよ……死ぬぞ?」
こんな時でも俺達の心配をするロッコ。
こういうやつだから俺は今でも付き合っているし、こんな所でしなせるわけにはいかない。
「ばーか。親友を放っておいてのうのう生きていけるわけねぇだろ」
「そういうこと」
だから俺達も戦う。ここで一緒に果てたとしても後悔はない。未練はあるが。
「んぐっ!?」
「これでも飲んで元気出しなよ」
聡はロッコの口に美しいガラスの容器に入った何かのポーションの一種を突っ込んだ。ロッコは突然のことに喉を詰まらせるが、なんとかごくごくと飲み込んでいく。
『ヴォオオオオオオオオオッ』
その間に、爆発の煙は突然消え、そこには体の四分の一程度を失ったデカブツが立っていた。
あの爆弾すんげぇ威力があったんだなと一瞬呆然となった。
「それで、一体何を飲ませたんだよ?」
「知らない」
「はぁ!?」
気になった俺が聡に尋ねたら何を飲ませたのか分からないという。俺は衝撃で叫び声をあげてしまった。
「でも、エンジュがいるんだから問題ないよ。絶対いい方向にいくさ」
「お前なぁ……」
ニコリと笑って続けられた言葉に、俺は呆れて言葉を失う。
まぁこいつの言う通りかもしれないけど、それにしたって何かも確かめずに薬を飲ませるかよ……。
やっぱ聡はこえぇなと俺は思った。
「兎に角今は時間を稼ぐよ」
「仕方がねぇな。了解!!」
どんな効果が出るかは分からないけど、聡が言う通り今は目の前のデカブツをどうにかする方が先だった。
俺達は絶望に挑みかかった。
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