第046話 絶望を照らす光
俺は瓦礫に埋もれていたが、立ち上がった。幸い強化しまくった装備のおかげか、五体は無事だ。
それでも口の中に血の味がする。
「ぶっ。ヒーリング」
俺は口の中にたまった血を吐き出して自分に治癒魔法をかけた。みるみる体内のダメージが消えていく。
「アタックアップ、ディフェンスアップ、スピードアップ、マジックアップ」
効果時間が過ぎたので再びバフを掛けなおし、さらに奥の手である気闘法で纏う気を体外から集めて出せるだけの限界でやつに攻める。
「十文字切り!!」
俺は全力で技を放った。
『ブォッ』
しかし、本気になった巨人はその巨体の鈍重さを感じさせない動きで俺の技を躱してしまった。
「ちっ」
俺は舌打ちするかできない。まさか限界まで引き出した身体能力で放った技さえ、本気になった奴には躱されてしまったんだから。
さっきまでの奴が出現直後でこっちの環境に慣れていなかったとか、様子見だったとかそういう感じだったんだろう。
しかも多少鬱陶しいくらいで大したこともないから本気を出す必要もなかった。それがあのサンダーによって、本格的に敵認定されたってことか。
俺は巨人の先にあった校旗を掲げるためのポールを足場にして、巨人から距離を取って振り返る。
「くそっ!!」
しかし、その時にはすでに巨人が俺に迫っていて、拳を振り下ろそうとしていた。
さっきまでとは別の生き物過ぎるだろ!!
心の中で罵倒するが、状況は何も変わらない。
俺は必死にその攻撃を躱す。
―チッ
「ぐっ」
躱しきれずに拳が掠るが、たったそれだけなのにダメージを受けた。
全くジリ貧すぎるだろ!!
ただ、スピードに関してはなんとか躱せなくもない。ひとまずここで引き付けておいて援軍か何かを待つしかないか……。
いや、そもそもそんな人間居るのか。
俺と同じくらいの奴がもう一人いれば勝算があると思うんだけど、今まで見てきた奴らはどいつもこいつもステータス一つの覚醒者だけだ。二つ以上覚醒している人物に出会ったことはない。
このレベルになると、ステータスの低い人間をいくら集めたところで役に立たない。必要なのは個人でレベル五四以上のステータスだ。
現状そんな奴はいないだろう。
ここからは我慢比べだ。そこから暫くの間俺は奴と拮抗した戦いを続けた。
しかし、ここで俺に絶望が襲い掛かる。それは気闘法の時間切れ。気闘法のクールタイムは六時間。それほど長い時間こいつを気闘法なしで足止めするのは不可能に近い。
「ぐががっ!!ぐわぁああああああっ!!」
その上、全身をまるで雷に打たれたかのような激痛が走る。これは気闘法を使って限界以上の力を引き出した代償だ。
今回は気闘法を限界まで使用したため、いつもよりもその反動が大きい。
「ヒ、ヒーリング!!」
俺はその苦痛に苛まれながらもなんとかヒーリングを施して、ボロボロになった筋肉や内蔵類を回復させる。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……ちっくしょう……」
もう今までのような動きは出来ない。
そして悪いことは重なるもので、俺は意識が飛びそうになった。
「くそっ……はぁ……魔力切れかよ……」
それは魔力切れの兆候だった。ただ、幸いにして意識を失う前に気付いたのは良かったのか悪かったのか。
もうやれることは全部やった。最大の攻撃もあっさり躱された。そしてもう力も残っていない。
「ちくちょう……嘲笑いやがって……」
俺がぼろぼろになっているのを見て攻撃を止めて俺を見下ろす巨人。その何も映していない真っ黒な顔が醜悪な笑みで歪んでいるように見えた。
「はぁ……逃げられたかなぁ……」
考えるのは優奈と加奈が無事に逃げられたかどうか。生きて再会しようって言ったのにこの様だ。これも力に慢心した結果だな。まぁ今更後悔したところでどうにもならない。とにかく今は少しでも彼女達が逃げる時間を稼ぐだけだ。
「まぁ……最後まであがいてみますか。うぉおおおおおおおおっ!!」
俺は付与魔法のみで奴に立ち向かう。
「ぐはぁっ!!」
「がはっ!!」
「ぐへぇっ!!」
奴はボロボロの俺を弄ぶようにとどめを刺さずに手加減してなぶる。それでも俺は必死に立ち上がり、やつに立ち向かった。
しかし、そんな時間も長くは続かない。
「がぁぁああああああああっ」
巨人は新しい反応を示さなくなった俺に興味がなくなったのか、本気の攻撃を放ち、俺はもろにそれを受けた。
―ベキベキベキッ
体中の骨が砕ける音が頭の中に体内を通して聞こえてくる。ゴムまりのように地面をはねて百メートルほど転がった俺はその場にあおむけに倒れ伏し、もう動けなくなった。
奴が上から俺を見下ろしている。
「はぁ……はぁ……ここで終わりか。まぁ頑張ったほうだよな……」
それを見てここが自分の最後だと悟った。
「アサシンガールズのヒロインを守れたと思えば、この命も安いもんだ……」
俺は目をつぶって奴の攻撃を待つ。
―ドォオオオオオオオオオオンッ
しかし、その瞬間は来なかった。その代り、俺のファイヤーボールを圧倒的に上回る爆発音が響き渡った。
俺が目を開くと、巨人が爆発を受けてたじろぎ後ずさっている。
「にぃいいいいいいいいいいいいっ!!」
そして、そこにその場の雰囲気に似合わない可愛らしい声が聞こえた。
「なんで……ここに……」
それは別の場所で新種シャドウたちと戦っているであろう存在。それが空から俺の顔めがけて落ちてくる。
「全くあきらめてんじゃねぇぞ、ロッコ」
「そうだよ、僕たちがいることを忘れないでほしいね」
頭の上の方から聞きなれた声が聞こえた。
「はははっ……なんで来てんだよ……死ぬぞ?」
「ばーか。親友を放っておいてのうのう生きていけるわけねぇだろ」
「そういうこと」
俺のピンチに駆けつけたのは親友二人と新たに家族となったエンジュだった。
嬉しくて涙が溢れてきた。
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