第045話 希望の先の絶望

「さて、どうなった?」


 ファイヤーボールが足に着弾して煙が上がっていたのが、晴れてくる。


「あのファイヤーボールでもあの程度かよ……」


 十メートルの範囲で森を焼くことになったファイヤーボールでさえ、巨人にほとんどダメージを与えられていない。


「へへ……全く……こんなの序盤で出てくる敵じゃないだろ!!」


 俺は冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべて叫ぶ。


「ウォーターボール!!」


 俺の手から水柱が放出される。以前の倍くらいはありそうだ。巨人に向かってすさまじい勢いで飛んでいくが、手を振ってその水を無効化されてしまった。


「これも効かないか。とりあえず、全魔法を試し見てからだ。ウィンドカッター!!×六」


 続けざまに俺は不可視の風の刃を六つ解き放つ。


―ザシュザシュッ


 ウィンドカッターはシャドウの肌を切りつけたが、表面を少し切り裂いただけ。ほとんど効果がない。


「アイスニードル!!」


 さらに続けてアイスニードルで奴の足元に鋭い氷の柱をいくつも生え、やつの肌に傷をつける。


『ブォオオオオッ』


 苛立たし気に地団太で氷の槍を破壊した。


―グラグラグラッ


 再びの地面の揺れに俺はしゃがんでバランスをとった。


「くそ、でかいと一挙手一投足が滅茶苦茶やっかいだ」


 地団太を踏むだけで小規模の災害レベルの地震を引き起こし、腕や足を振るえばその巨大さに大きく回避運動をとらなければならず、なかなか近づくのが難しい。


 しかし、倒すことは出来なくても奴を引き留めておくことが大事だ。


 避難さえ終われば逃げても問題ない。とはいえこんな怪物相手にどこまで逃げたら避難できたことになるのかは分からないけどな。


「デバフとかがあればもうちょっとやりようがあるかもしれないけど……」


 今の所ランクが上がっていないので付与魔法は単純な強化魔法だけだ。それも十分で切れるから掛け直しが必要だ。


 そのタイミングを誤らないようにしなければならない。


「お次はストーンバレット!!」


 俺は魔力を多めに注ぎ込み、巨人でも無視できない大きさの岩の礫を複数ぶつける。


『ブォオオオオッ』


 奴はビシビシと当たる岩の塊を腕を振り回し、打ち払う。俺はそれに巻き込まれないようにその場から離れて最後の呪文を唱えた。


「サンダー!!」

『ブォッ』


 俺はその巨人の頭めがけて雷を落とした。奴は一瞬体硬直したようになった。


 これはもしや……。


 その不自然な動きに感づいてさらにサンダーを何度も放った。


『ブォッブォッブォッブォッ』


 稲妻が頭に落ちるたびに硬直してほんの数舜だが動かない時間が出来ることを知る。


 やっぱりだ。他の魔法と違い、サンダーが弱点みたいだ。


 俺は奴の弱点が雷属性であることを突き止める。しかも奴は巨大さゆえにサンダーを回避することが出来ていない。


 もし回避できるほどのスピードがあるなら詰んでいたかもしれないけど、これならまだやりようはあるかもしれない。


「サンダー!!十文字切り!!」


 俺はサンダーを放ち、俺は奴が一瞬硬直した隙を狙って肉薄してスキルを放ち、その直後また距離を取る。


 これならあいつの地団太に巻き込まれずに済む。そこからは完全に事態が動かなくなる。しかし、着実にダメージを与えているはず。


 このまま続けていればいつかは倒せるはずだ……、いつかは。


 しかし、徐々に硬直時間が短くなっている気がする。


 何か、何か打開策を考えなければ……。


 そうだ、サンダーが効くってことはあの魔法で威力を増幅できるかもしれない。俺は一度サンダーを打つのやめて別の魔法を連発して放つ。


 奴は鬱陶しそうに腕を振り払い、その魔法を無効化していく。


 しかし、無効化といってもダメージだけで、その魔法は奴の体に残り続けていた。


『ブォオオオオオオッ』


 鬱陶しくなったのか俺に直接殴りかかってくる巨人。


 しかし、魔法の射程距離ギリギリの距離を保っているので比較的躱すのは楽だ。


 まだだ。まだもう少しやつの体を覆うまでは。


 俺はそれからも攻撃を躱しながら魔法を連射することで奴をにすることが出来た。奴の体の表面には大量の水滴がまとわりついている。


 そう俺が放っていたのはウォーター。体全体に水があれば、それでサンダーの効果が全身に及ぶはずだ。


「サンダァアアアアアアアッ!!」


 俺は込められるだけの魔力を込めて奴に魔法を放った。


―ズガァアアアアアアアアンッ


 特大の稲妻は巨人を包みこむ。


『ヴォアアアアアアアアアアッ』


 巨人は今までとは別次元のサンダーと水による相乗効果で悲痛の叫びをあげる。巨人は天を仰ぎ、体中から煙を出したまま動かずにそこに立ち尽くした。


「終わった……のか?」


 巨人が動かなかったので、俺はぽつりとつぶやいて奴に近づいていく。


『ヴォオオオオオオオオオオオッ!!』


 しかし、それは勘違いだった。


 巨人は空に向かって今までとは比べ物にならない叫び声をあげた。


「ぐはぁっ!?」


 そして気づいたら、俺は吹き飛ばされていた。なぜなら奴の蹴りが俺を捉えていたからだ。


―ドンッドンッドンッ


 俺はそのままいくつもの建物を突き破り、落下する。


「くっ……まさか逆鱗に触れる結果になるだけだなんてな……」


 俺は何とか着地をして少し離れてしまった奴の顔を見つめる。


 奴はようやく本気になったらしい。

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