第039話 悪いイベントは重なる

「ちっ!!」


 俺はすぐに有栖川学園に向かって駆けだした。


 しかし、俺の眼の前に今までよりも大きな渦が現れる。今まで見たことのないサイズの渦に俺は嫌な予感がした。


「お前ら少し下がれぇえええええええ!!」


 俺は団員たちに向かって声の限り叫んで、俺もすぐに何があっても動けるように身構えてその渦から距離をとった。


―ズズズズズッ


 そこから現れたのは今までのシャドウとは別物。


 さまざまな形状のシャドウが次々と姿を現したのだ。二メートルはありそうな人型、四足歩行型、にょろにょろと移動する蛇型などなど。その種類は多岐に渡る。


「くそっ。こんな時に!!」


 すぐに助けに行きたいのに、ここにきて新手が出現した。想定していたことだが、タイミングが悪すぎる。


「はぁああああっ!!どけぇええええ!!」


 俺はシャドウに切りかかる。


―ズバァンッ


 俺は影に駆け寄ってスチールソードを振り下ろす。幸い俺の攻撃力があれば、倒せないことはない。


 次々現れるシャドウを切りまくる。


 しかし、影は途切れることを知らない。


「くそっ。こんなところで立ち止まっている場合じゃないってのに……」


 いくら倒しても減らない影を見て俺は悪態をつく。


「はぁああああああっ!!」


 そこにこの一週間で聞きなれた男の声が聞こえた。


―ザシュッ


 その男の斬撃は一撃で倒すことに至らなかったが、きちんとダメージを与えているのが分かる。


「はぁ!!」


―ズバァンッ


「小太郎!!ここは俺たちに任せていけ!!」


 俺の前に現れてシャドウを切り飛ばす正義。他のメンバーも俺の前に立ちふさがるようにシャドウの前に立つ。


「何を言って……」

「ばーか。スマホを見てお前が血相を変えたのは分かってる。行きたい場所があんだろ?」


 呆然としたら、こいつは俺の状況を理解していた。


「それは……」


 確かにその通りだが、俺はこいつらが心配だった。


 既に俺が関わったやつらだ。死んで欲しくない。


「俺達なら大丈夫だ」

「でも……」


 俺の考えも分かったうえで正義は行けという。


 しかし、そう簡単に割り切れない。


「はっ。誰が俺たちを鍛えたと思ってんだ?他でもないお前だろうが。あの訓練を乗り切った俺たちが信じられないか?」

「勿論信じている」


 そう言われてしまえば、こう答える他にない。


「なら任せていけ。少なくともお前が戻ってくるまでは持たせてみせる」


 ここまで言われて行かないのは野暮ってもんだろう。


―ズバババババババァアンッ


「はぁ……そうか、そうだったな。分かった。俺はお前達を信頼する。そしてありがとう。恩に着る」


 俺は世紀末団の前に出てシャドウを一斉に切り飛ばして、こいつらに向かって真摯に頭を下げた。


 感謝以外の何物でもない。


「はははっ。お前にもらったもんを考えればこのくらいへでもねぇさ。ほら、今こうしている時間も勿体ねぇ。すぐに出発しろ」

「ああ。これが終わったら祝勝会でもしよう」

「そりゃあいいな」

「それじゃあここは任せた」

「おう!!」


 俺を急かす正義と約束を交わし、この場を任せる。


「お前達もな!!」

『へい!!』


 他の部下達にも任せたら、俺が鍛えた十五人の団員たちがシャドウにとびかかった。


 挨拶を済ませた俺は彼らが新種のシャドウたちを押さえてくれている間に、有栖川学園を目指して走り始めた。


「スピードアップ!!」


 付与魔法を自分にかけ、さらにスピードを上げる。


 時間がないので屋根の上を縦横無尽に駆け回り、最短距離で目的地を目指す。


「ウ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛ッ」


 途中で他の渦から外に出たであろう新種のシャドウと出くわした。


―ズバァンッ


 俺は一刀の許に切り伏せ、再び走り始める。


 町中で戦闘が起こっているようで、あちこちで爆発音や人の声が聞こえていた。


 それは今まで建物に被害を出さなかったシャドウたちが街の破壊も行い始めたからだろう。そういえば俺の動きを聡たちにも伝えておいたほうがいいか。


「ちっ。圏外になってやがる!!」


 俺はスマホを操作して聡たちに連絡しておこうと思ったが、ついさっきまでは繋がっていたスマホのネットがつながらなくなっていた。


 これでは連絡が取れない。


 それでも止まっている場合じゃない。俺はそのまま有栖川学園に向かった。


 十分で辿りついた俺。学校にはすでに新種のシャドウが入り込んでいて、至るところで戦闘が起こっていた。


「くそぉおおおおおおおっ!!」

「ウ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛ッ」


 それほどレベルが高くないのか、中の人間たちは苦戦している。


 いや、装備もあまりよくない。


 自分たちが基準になっていたから忘れていたけど、装備は中々出にくいんだった。それならこれくらいが普通なんだろうな。


「疾風剣!!」


―ズシャアアアアッ


 俺の技が敵を切り裂く。


「お、おお、助かった。あ、あんたは?」

「優奈と加奈はどこだ?」


 俺に礼を言う男の言葉を無視してここにいるはずの二人の居場所を問う。


「はっ?」

「ちっ。だから、優奈と加奈はどこにいるって聞いてんだよ!!」

「誰だよそれ!?」


 俺の言葉の意味が理解できないのか聞こえていないのか分からないが、俺はもう一度問い詰めるが、相手は困惑しているだけだった。


「ここに避難している双子の姉妹だ。ボディスーツがよく似合うんだよ!!」

「あ、ああ。あの子たちなら校舎の中にいるはずだ」


 彼女たちの素晴らしい特徴を述べたら、どうやら分かってくれたらしく、居場所について説明してくれる。


「場所は?」

「保健室とか言っていたかな?」

「なんでそんなところに?」

「なんでも外に出て体調を崩して気を失ったとか。ただ、あの男たちは評判が良くない。もしかしたら……」


 俺の質問に答えながら、徐々にその顔色を青くした。


「ちっ。そういうことかよ!!」


 評判の悪い男が気を失った女の子を保健室に運んでいく。その状況で考えられることは一つ。


 俺は急いで走り出した。


「お、おい、あんた!!」


 俺を呼び止める声も無視して校庭に入り込んだシャドウたちを切り捨て、校舎内に踏み込む。中でも戦闘が起こっていた。


―ズバンッ


「え?あ?」


 昇降口で戦っていた女性を助ける。


「おい、保健室はどこだ?」

「え、えっとあっちです」

「そうか。ありがとう」


 女性の指さす方に走る。


 走る。走る。走る。


 ただひたすらに。


 時には壁をけりながらスピードを落とさずに保健室を目指す。時折途中にいる人間に走りながら保健室の場所を問いかけて走り続ける。角を曲がったらようやく保健室の文字が見えた。しかし、その前にいかにも悪党な顔をした男が立っている。


 見張りのつもりか?


 しかも外が大変なことになっているこんな時に。


「おいおまえ!!ここから先は――」

「間に合ってくれ!!」


 俺は半ば祈りながら男ごとその扉を蹴破る。


「ぐぼぉおおおおおおっ」


 男は廊下を跳ね飛んでいく。俺はすぐに扉を開けようとしたが、中から鍵がかかっているようで開かない。


「ふざけてんじゃねぇえええええ!!」


 俺は中のことも考えずに蹴り破った。


 そこには下半身を丸出しにした男たちが十人近くいて、複数人数で優奈と加奈を押さえつけ、衣類をはぎ取ろうとしていた。


「おまえらぁああああああああ!!」


 俺の中の何かがキレた。

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