第040話 理性の壁は思っている以上に脆い(結城加奈視点)
小太郎が駆けつける数日前まで時は遡る。
■結城加奈 Side
「せいやっ!!」
「はぁ!!」
私たちは夜中コッソリ抜け出して、見張りの目をかいくぐり、シャドウを倒していた。今の所問題なく倒せている。
しかし、暗さのせいであまり大胆には動けないため、討伐数はそれほど多くない。でも何もしないよりもマシ。あいつらに食い物にされるなんて御免だ。
「今日はこのくらいにしよっか」
「そうだね」
もうすぐ二十四時を回り、そろそろ帰って眠らないと次の日に支障が出る。普通に戦えば負ける心配はないとは言え、気を抜けば危ないのは間違いない。きちんと睡眠をとっておくことはとても大切。
お姉ちゃんの提案に乗り、私たちは学校に戻った。
「私達が討伐隊に?」
「ああ。どうかな?」
「確か私達立候補してましたが、選抜されませんでしたよね?それがどうして今になってまた?」
次の日、私たちが見張りから帰ってくると、討伐隊に入らないかという提案を受けた。しかし、お姉ちゃんの言う通り、私たちは年齢や性別によってその選抜から漏れてしまったはずだ。
それが今になってなんで選ばれることになったんだろう。
「そ、それが君たちが非常に強いと報告で聞いてね。力になってもらいたいと思ったんだよ」
「そうなんですか?別に私達は構いませんが……」
「私もいいです」
「そうか、引き受けてくれてありがとう」
なんだか慌てていたように見えたけど、特に疑問を抱くことなく私たちも参加することに決めた。
これでレベル上げが大っぴらに出来るから私たちとしては渡りに船。出来るだけ私たちで敵を倒してレベル差を埋められないように気を付ける。
「いえ、私たちもそうしたいと思っていたので」
「そうだったね。明日から入ってもらおうと思うだけど、いいかな?」
「はい。構いません」
「分かったよ。それじゃあ、それで話を進めておくから」
「分かりました」
話を終えた私たちは部屋に戻る。
「……ごめんね」
先生に背を向けて視聴覚室に向かって歩き始めたとき、聞き取れないほど小さい声で何を呟いた気がして後ろを振り向いたけど、先生もすでに私たちに背を向けてとぼとぼと歩いて行ってしまったところだった。
「気のせいかな……」
「ん?どうかしたの?」
「んーん。なんでもないよ、お姉ちゃん」
私の呟きに気付いたお姉ちゃんが覗き込んできたけど、不安がらせるのもなんだし、私は何も言わなかった。
次の日。
私たちは早速討伐隊に参加することになった。いくつかのグループに分かれて物資調達を行う。私たちが配属されたのは、物凄く嫌なグループだった。
「よぉ、待ってたぜ、優奈、加奈」
それは真っ先に女性に手を出した人間たちが集まっている班だったからだ。
「私は名前を呼ぶことを許可した覚えはありませんが」
「私も」
そのグループのリーダーが馴れ馴れしい態度をとってきたので、お姉ちゃんが対応して私がそれに続く。
「堅い事言うなよ。俺とお前たちの仲じゃないか」
「何を言っているか分かりません。私たちはこの間会ったばかりです」
私たちの態度をまるで気にすることなく私たちに触れようとするこいつの手を交わしてお姉ちゃんが答える。
「おいおい、俺たちはこれから一緒に戦う仲間だぜ?仲良くヤろうぜ?」
ヤレヤレと呆れるようなしぐさで困り笑顔を浮かべるリーダー。それに仲良くの後のイントネーションが明らかにおかしい。
それはこいつらの視線が物語っている。私たちで性欲を発散したいだけだ。
「別に仲良くなんてする必要はありません。ただ、必要なことをやるだけです」
「はいはいそうかよ。とりあえず俺がリーダーだ。討伐行動中の必要な命令には従ってもらうぞ」
全く靡く様子のないお姉ちゃんに男は吐き捨てるように言う。
「それが正当な命令であれば従いますよ」
お姉ちゃんはふんっと鼻で笑った。
「ちっ。それじゃあ、さっさと行くぞ」
面白くなさそうに舌打ちをした男は先頭に立って学校の校門を飛び越えていく。私たちはそれに続いて学校の外に出た。
それから私たちは男の指示に従って学校の近くでシャドウを倒しながら物資の調達をしていく。男たちが基本的に荷物を持って、私たちに持たせようとしない。これが下心のない善意であれば良かったんだけど、下心しかないので全く嬉しくない。
「そろそろ休憩するぞ」
ある程度物資が集まったところで男が休憩を促す。案外まともだ。
「ほらよ」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
男の一人から飲み物を渡されたので受け取り、私たちは喉が渇いていたので何の疑いもなく飲み物を飲んだ。飲んでしまった。
「あぅ……」
「えぁ……」
その飲み物を飲んだ瞬間、全身から力が抜け、意識が朦朧となる。
しまった……。こんな奴らに気を許しちゃいけなかったんだ……。
「あっはははははっ」
「何を……」
笑い声の許はリーダーの男。私はその笑いに嫌なことを思い浮かべながらも、問いかけざるを得なかった。
私達がおかしくなったのは明らかにこいつらが原因だ。
「お前たちは強えからな。絡め手ってわけよ」
男はニヤリと笑ってそう言った。
私たちは甘く見ていた。男の欲望というものを。法律や倫理観がなくなった世界の無秩序さを。力を手に入れて調子に乗った男たちの理性の脆さを。
力が抜けていく中でお姉ちゃんが私に目配せをする。
私はその意図を理解してポケットに手を突っ込んだ。
「やぁああ!!」
「まだそんな力が残っていたか!!」
次の瞬間、お姉ちゃんは男達を引きつけるように派手に立ち回った。
それにより男達の視線がお姉ちゃんに集まった。
その隙にスマホをポケットから出して小太郎に「助けて」とメッセージを送ってうすに再びポケットに仕舞った後、私は立っていられなくなってその場に倒れ、意識を失った。
「ん、んん~~!?」
「んんん~~!?」
次に私たちが目を覚ました時、手を何か硬いもので縛り付けられ、口には布のようなものをかまされて、男たちが下卑た笑みを浮かべて私たちを押さえていた。
私はこれから自分たちに降りかかる光景を思い浮かべて絶望した。
小太郎助けて……。
私はそう祈る他なかった。
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