第038話 緊急連絡

 それから一週間、俺はレベル上げに参加せずに『世紀末ピチピチ団』のレベル上げに付き合った。


 レベル九でも実質四二の強さを持つ俺がすぐにレベルを上げる必要はないし、拠点もある程度快適に過ごせるだけの準備はしてあるので、今以上にできることはない。


 あるとすれば農業だが、それは専門の知識が必要だろうからまだ手を付けていない。一応本屋や図書館に行って関連の資料だけは手に入れている。


 それは兎も角、その結果としてピチピチ団の団員たちは全員がレベル七に至り、今の状況であれば、一人で行動しても死なない程度にはなった。


 もうそろそろ俺の手から離れても良い頃だろう。


「諸君、今日から君たちは正式な団員となる。よく辛く厳しい訓練を乗り越えた。今後お前たちは団の中心メンバーとなる。それぞれナンバーで呼び合うように。正義はナンバーワンだ。それ以降はお前達で決めろ」


 そこで今日は団員の訓練の修了式を執り行うことにした。


「軍曹殿、承知しました」

「俺はもう軍曹じゃない」

「分かった。小太郎」

「それでいい」


 いつの間に俺は軍曹と呼ばれるようになっていて、訓練中はそれに甘んじていたが、それも今日までだ。これからは対等な間柄として付き合うため、軍曹呼びはやめさせる。


 正義は俺から離れ、メンバーたちを集めて十五人のメンバーに順位づけしていく。奴はあれでも信頼されているので、部下たちが自分たちの名前に異議を申し立てることはないだろう。


 この一週間色々あったけど、よく乗り切ったと思う。


 俺たちが戦い始めた頃よりもひどい群れと戦わせたりしたからな。勿論俺が守れるマージンは取っていたが、それでも奴らには地獄のような戦場だったはずだ。


 そんな群れと戦わせたにも関わらずこいつらは乗り越えた。思うところがあったのだろうし、きっと女の子にモテたいという気持ちが彼らを突き動かしたに違いない。


「小太郎、コードネームが決め終わったぞ」


 一週間を振り返り感慨にふけりながら数分程待っていると、小太郎は俺の前に戻ってきて部下たちがその後ろに整列した。


「そうか。それじゃあ俺から卒業するお前達に選別をくれてやる」

「もうもらいすぎだと思うんだがな」


 俺の言葉に苦笑いを浮かべる正義。


 こいつの言っていることは分かる。こんな世界になって装備や戦闘技術やレベル上げ、職業の情報などを提供してもらっているんだから。


 しかし、それだけではこいつらの役割には足りない。


「いや、お前達にはまだ抑止力としての力が不足している。そんなお前たちはこれをやろう」

「それは!?」


 俺がマジックバックから取り出した物を見て正義が驚愕の表情になる。それもそのはず。俺が取り出したのが初心者用の武具とは異なる銀箱から出る武器だったからだ。


「これは銀箱からでる武器でシャドウソードという。お前達には銀箱クラスの装備を支給する」

『うぉおおおおおおおおっ』


 スーツの上に着ける胸当てやプロテクターも性能のいいものをやるつもりだ。


 それが分かると団員たちは興奮で叫んだ。


 今日この辺りのシャドウは狩りつくしたからしばらくはいいだろう。


「それじゃあ、一人ずつ俺の前にこい」

「はっ。軍曹殿!!」

「だから軍曹じゃないっての!!」


 感極まった様子の正義が涙を流しながら思わず前の呼び名で口にするので、俺は照れ隠しに大声をあげた。


「それではこれより修了式を執り行う。正義から前に出ろ」

「はっ」


 正義がきびきびと俺の前に歩いてきて立ち止まる。


「この一週間よく頑張ったな。これから団長として皆を引っ張って行ってくれ」

「は゛、は゛い゛。ぐ゛ん゛そ゛う゛と゛の゛!!」


 俺が声を掛けると顔をぐしゃぐしゃにして涙を流す正義。


 俺には男の泣き顔を見る趣味はないし、そこまで感謝されるような覚えもないんだけどな。


「泣くな!!お前がこれから団を引っ張っていくんだぞ。人前で涙を見せるな」

「わ゛か゛り゛ま゛し゛た゛」


 俺はあえて厳しいことを言ったが、正義は嬉しそうに泣き笑いを浮かべた。


「全く仕方のない奴だ」


 俺はヤレヤレと肩を竦めた。


「つぎっ」

「は゛い゛っ゛」


 次の奴も涙声になっていて、見渡してみると全員が涙と鼻水まみれになっていた。


 全く好かれたもんだな。俺……年下なのに。


 それから全員に装備を渡しながら、一言ずつ声を掛けていった。


「よし、これで修了式は終わりだ。今後はお前達で考え、この辺りの治安と秩序、そして人々の安全を守るために頑張ってくれ」

『はっ。ありがとうございました!!』


 最後に一言みんなの前で挨拶をすれば団員たちが俺たちに頭を下げた。


「それじゃあ、ちょこちょこ見に来るからサボるなよ?……もしサボっていたり、横暴なことをしていたら分かるよな?」


 俺が威圧感を乗せて脅しをかけると、全員が物凄い勢いで頭を縦に振った。


「分かっているならいい。それじゃあ俺は帰る」


 俺は団員たちに背を向けて自宅に向かって駆けだそうとした。


―ブルブルブルッ


 その時、俺のスマホのバイブが震えた。


「ん?いったい誰だ?」


 俺はスマホのロックを解除して画面を見るとLINGUでメッセージが届いていた。


 そこにはこう書いてあった。


『助けて』


 と。

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