第036話 世紀末ピチピチ団

「ひぇえええええ。もうこんなことはしないから勘弁してくれよ~」


 俺たちに敗北してすっかり怯えてしまったリーダー。部下たちも俺たちに一瞬でのされてしまったのでリーダー同様に意気消沈といった様子だ。


「お前の名前は?」

中村正義なかむらまさよしだ」

「そうか、お前達は今の状況になってからこういうことをしたことは?」

「今回が初めてだ。お前達みたいな一般人が歩いているのは初めて見たからな。それに本当は脅かして逃げさせて早く家に帰らせようと思っていたんだ」

「ふーん、そうか」


 俺はこいつらがあまり悪い奴らに思えなかった。無理して威嚇しているように思えていたんだけど、その理由が分かった。


 今の言葉にも嘘はなさそうだと感じた。


「おい、一体何考えてんだ?」


 男たちをじっと見つめたまま腕を組んで考え込む俺に修二が尋ねる。


「いや、こいつらを他の勢力の抑止力にしたらどうかと思ってな」

「つまりどういうことだよ?」

「パワーレベリングする」

「はぁ!?こいつら俺たちを襲ってきた奴らだぞ?」


 俺の答えによくわかってなさそうな修二に分かりやすく説明してやると、理解できないという顔で俺に詰め寄る。


「こいつらは多分そんなに悪い奴らじゃない。こういう格好をして自分たちを大きく見せているだけだ」

「まぁ実際全然大したことなかったけどよ」


 俺の言い分に少しだけ納得する修二。


「勿論俺たち程の装備を持たせるつもりはない。でもこのままだとこの辺の治安がわるくなると思うんだよ」

「それは確かにな」


 俺の推測に修二もウンウンと頷きながら同意する。


「でもそれなりの力を持つ集団があって目を光らせていれば、その組織の勢力圏内はそんなに治安が悪くならないじゃないかってな」

「なるほどな。それは一理あるな。そいつをこいつらにやらせようってはらか」

「そういうこと」

「それは悪くない案だな」


 俺たちは二人で世紀末マン達の自警団化計画を話し合っていく。


「二人で勝手に話しているところ悪いんだけどよ。俺たちに何をさせようってんだ?」

「ああ。お前達にはこの辺の治安や安全を守るいわゆる自警団みたいなものをやってほしいんだよ」


 俺たちの話に割り込んできたリーダーに今回の趣旨を説明する。


「治安?それって警察や自衛隊の仕事じゃねぇのか?」


 俺の依頼に不思議そうな顔をするリーダー。


「もう一週間以上まともに動いていない組織がやってくれると思うか?」

「いや、まぁそうだが……」


 今の状況を説明してやれば、彼は口ごもってしまう。


 そこで俺はこいつらに餌をぶら下げてやることにした。


「お前達にもそう悪い話じゃないと思うぞ?」

「どういうことだ?」


 俺が話を切り替えると、リーダーは食いついてくる。


「お前たちが人々を助けていけば、皆から信頼が集められるだろうし、一目置かれる立場になる。それに危機に瀕している女性を助けたらどうなると思う?」

「それはつまり……」


 俺の説明を聞いて、そこにいた世紀末マンたちは誰もがゴクリと喉を鳴らした。


「そう、お前たちはモテモテになれるってことだ……多分な」


 俺が最大の餌をつけた釣り針を投下した、最後の部分は聞こえないように呟いて。


 こいつらには女っ気が一切ないからな。絶対大きな餌になるはずだ。


「マジかよ!!」

「お頭!!ぜひその話受けましょうや!!」

「そうっすよ。受けない手はないですぜ!!」

「お頭も言ってたじゃないですか!!女の子にモテたいって!!」


 部下たちが餌に盛大に食いついてリーダーを説得しようと湧き上がる。


「うるせぇ!!わ、分かったよ。仕方ねぇからその話引き受けてやる、ホント仕方なくだけどな!!」


 全く仕方なさそうじゃない顔でそんなことを言うもんだから少し笑ってしまった。予想以上の食いつきで驚いたが、こいつらのやる気も上がっていいことばかりだ。


「ただし、二つだけ条件がある」


 ただ、ここでこいつらに冷や水を浴びせる。


「そ、それは?」


 それによって辺りが静まり返り、再び固唾を飲んで俺の言葉を待つ。


「今後二度と今日みたいな悪さをしないってことだ。勿論誰かを助けるために仕方なく誰かに手を出さなければいけないって場合はあるかもしれないけどな。あとは支給する制服を着ることだ」

「な、なんだ……そういうことか。全く焦らせやがって……。俺はてっきり助けた女を差し出せとでも言われるかと思ったぜ」

「俺も俺も」

「あっしもでさぁ!!」


 俺がキリッとした表情で言い放ったら、リーダーは安堵するようにため息を吐き、部下たちもそれに準じていた。


「お前たちは俺をいったい何だと思ってんだ?」


 それにしても俺の印象がすごくおかしなことになっている気がするんだけど気のせいか?


「魔王?」

「ひどくないか?」


 こいつらを伸したのは修二なのになぜか俺の方が怖がられている件について。


 修二の方が目つきが悪いし、言動も激しいのにどうしてだろうな。


 俺は心の中で少し泣いた。


「まぁそれはいいとして早速お前たちの最初の仕事の時間だ」

「なんだ?」

「まずはこれに着替えることだ!!」


 悲しみに暮れた俺だが、そうも言ってられないので、次の工程に移る。それはボディスーツを着せることだ。


「そ、それはまさか!?」

「そう。記念すべき世紀末ピチピチ団の制服として採用するシャドウスーツだ。これはただのボディスーツに見えて今のお前たちの服よりも圧倒的な防御性能を誇る。すぐにこれに着替えるんだ」


 俺が出したのはシャドウの宝箱から出てきた灰色のボディスーツ。こいつらも町の治安を守るんであれば、これを着なければならないだろう。


 なぜなら俺の愛する作品である『アサシンガールズ』も町を守るため、ボディスーツに身を包んでいるからだ。


 修二や聡には断られてしまったけどな。


 なんで断ったんだ?

 こんなに恰好良いのに。


「世紀末ピチピチ団!?」

「そうだ、お前たちの名前だ。良いだろう?」


 しかし、ボディスーツよりも先に名前の方が気になるようだ。俺のハイセンスなネーミングに驚いているらしいな。


「おい、ちょっとお前言ってやれよ」

「いや、きついっすよ、お前がいけっす」

「いやいやあいつに逆らうとかむりでさぁ」


 後ろでこそこそ話しているが、何か言いたいことでもあるのか?


「ち、ちなみに名前を別の物に変えるという選択肢は?」


 リーダーがなんだかだらだらと汗をかきながら手をあげて俺に尋ねる。周りで「よく言った」「流石俺たちのリーダー」「一生ついていくっす」とか聞こえたが、気のせいだろう。


 そもそもこいつは一体何を言ってるんだ?


「そんな選択肢があるわけないだろう。これ以上に素晴らしい名前があるわけがない」

「は、はい、そうですね。それでいいです」


 俺がどや顔で宣言したらリーダーも納得したみたいだ。部下たちに何かを言われているようだが、気にしても仕方がない。


「それじゃあ、お前たちの名前が決まったところで早速これを着てもらうぞ?」


 名前が決まったところで俺は手に持ったボディスーツを手渡す。


「これに着替えなかったら……?」

「そいつには俺が懇切丁寧にボディスーツの良さを説いてやろう」


 まだボディスーツの良さが分からない奴がいるようなので、俺はにっこりと笑って言った。


「すぐに着替えさせていただきます!!」


 そしたらリーダーはビシリと敬礼してすぐに、適当な建物の中に入って着替えに行った。部下たちもすぐに俺からスーツを受け取って駆けだした。


「これでここら辺もだいぶ治安が良くなるだろう」

「お前それ本気で言ってんのか?」

「当たり前だ」

「やっぱこういう時は聡がいねぇとダメだな……」


 修二がため息を吐いてヤレヤレと何か呟いた気がするが、風に流されて俺には聞こえなかった。こうして後世に語り継がれる治安維持組織『世紀末ピチピチ団』が結成されることとなった。

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