第035話 湧き出すやつら

 シャドウが現れてから二週間が経った。


 今日もレベルアップを目指して街に降りてきている。天気は晴れていて街中にはチラホラと人の影を見かけるようになった。店や建物にはあまり損壊の無かった街も今ではボロボロになっている所も多い。


 それは恐らく俺達が食料を調達しにきたように、他の生存者たちが街に出て破壊して中に侵入しているせいだと思う。


 現在まだネットは繋がっているけどテレビは映らない。こんな状況では放送できる状態じゃないからだろう。


 電気、ガス、水道に関してもいつ止まってもおかしくないのだが、何故かまだ生きている。俺達は幸いそれぞれに関して当てがあるというか、最初の一週間で準備を終えた。


 生産で簡易的な風呂や竈などを生み出し、魔法で風呂やご飯を食べられるようにしたし、水洗じゃないトイレも作った。


 汚物に関しては俺の神聖魔法のピュリフィケイションを掛ければきれいさっぱり浄化されて綺麗になるので問題ない。


 それと、電気に関しても実はこの家、ソーラーパネルもあるので、実は普通に電気を使った生活が可能だ。何を考えたのかは分からないけど、爺ちゃんが死ぬ前に何かあったら困るからと家を建て替えた時に取り付けてくれた。


 さらに、本来であれば壊れた物は二度と使うことが出来ないが、俺がいれば修理できるので実質生きてる間は電気に関してもそのほかの品に関しても困らなかったりする。


 今となってはそれが本当にありがたいことこの上ない。


「今日もレベル上げ頑張ろうな」

「にぃ!!」


 今日は俺とエンジュが組んでいる。


 レベル六を超えてからレベルの伸びが悪くなって最近は中々レベルが上がらない。それでもここ二週間の成果としてレベル九まで上がっていた。


「おいおい、俺もいるのを忘れんじゃねぇぞ」


 二人の世界を展開していたら修二が凄む。


 家はほぼ要塞化されてしまったので、現状シャドウが空を飛ぶと言うこともないし、入り口さえ守っておけばほぼ落とされることはない。留守番は強くなった誰か一人いれば十分だ。


 そういうことで俺達は毎日メンバーを入れ替えながら三人で狩りをしている。


 俺達三人は結構シャドウを倒しているが、奴らは一向に減る気配がない。今でも時折発生するあの渦からやってきているらしい。


 また、それほど強くないシャドウだけど、常に襲ってくるとなると国民の多くが戦えるようにならないとまともな生活を送るのは中々難しいだろう。


 これからの生活は誰も守ってはくれない。国も警察も弁護士も。安全な生活は自分たちの力で勝ち取るしかないんだ。


 そのためには一体でも多くシャドウを倒してレベルを上げ、安全な居住場所を作り上げ、アドバンテージを広げていきたい。だから今日も一生懸命頑張るしかない。


「おいおい、こんな所にガキが出てきてんじゃねぇぞ」

「そうそう。俺達みたいにこわーいお兄さん達に絡まれちゃうからな」


 そんな俺の気持ちに水を差すように現れたのは世紀末ファッションをした男達。ナイフを舌で舐める仕草をして狂気性をアピールしている。


 まさかこんな状況になってもこういう弱者を踏みにじろうとする人物が現れるとは思っていなかった。


「あ゛ぁ゛っ?舐めんじゃねぇぞ?」


 そんな男たちに対して真っ向から眼をつけて行く修二。


 全く仕方のない奴だ。


「おいおい、中学生か?それとも高校生か知らないが、コスプレして俺たちにたてつこうってのか?」

「たりめぇに決まってんだろ!!」


 へらへらと笑ってコスプレのような衣服に身を包んでいる俺達を見下してくるこいつらだが、修二は一歩も引かない。


 というかこいつらがそもそもコスプレみたいなもんなんだが?

 それにネットがつながってんのに情報収集してないのか?


 ちゃんと情報を集めていれば、俺たちが着ているコレがかなり上質な武具であることは分かるはず。いや、質までは分からなくても少なくともこれがシャドウを倒して得られる武具だってことは理解できる。


 それが出来ていないってことはこいつらは雑魚ってことだ。試しに鑑定してみたが、リーダー格の男がレベル四でそれ以外はレベル三以下だ。


「へっ。いい度胸じゃねぇか。おめえらっ!!世の中の厳しさを教えてやれ!!」

「「「「「へい!!」」」」」


 しかし、それに気づかない世紀末マンたちは俺たちに襲い掛かろうと構える。


「どうする?」

「ああ。こいつらは俺に任せろ」

「了解」


 俺は周辺警戒をすることにして修二の戦いを観戦することにした。


「なめやがって!!」

「ふっ」

「ふごぉっ!?」


 こっちが一人でやる気が分かったのか見下されたのが苛立たしく襲い掛かってくる一人。


 遅い。遅すぎる。


 俺は実質レベル五四の化け物。十分の一以下のこいつらの動きはもはやスローモーションと言っていいほどにゆっくりと見ることが出来る。


 それは修二も同じようで軽くかわして


 武器を使わなかったのは殺してしまうからだろう。


 それでも殴られた男はあっさりと吹っ飛んで行って壁に激突していた。

 

「ちっ!!全員でかかれ!!」

「「「「へい!!」」」」


 それを見たリーダーは一人では分が悪いと思ったらしく、全員で修二に襲い掛かる。しかし、修二は複数で殴りかかられてもそれらを全て躱して殴り、全員を殴り飛ばした。


「おいおい、どこに逃げるつもりだ?」


 俺は一人その場から逃げようとしていたリーダーの肩に手を乗せる。リーダーはまるでブリキ人形のようにギギギッと俺の方に振り返った。そこには絶望に染まった男の顔があったので俺はにっこりと笑ってやる。


「ひぃいいいいいいいいいいい!?」


 男は俺の顔を見るなり悲鳴を上げて白目をむいて意識を失ってしまった。

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