第030話 近接戦闘スキル

 今日も三人はレベル上げに出かけていった。俺は昨日のような失態は繰り返さないと心に誓い、ボロボロになった裏庭へと向かった。


 今日は最初に戦闘系スキルの確認をして、その後で生産の検証をしていきたいと思う。


「まずは気闘法から」


 これは気と呼ばれる生命エネルギーを増幅させ、身に纏って戦う手法のことだ。ステータスが覚醒したことで人外の身体能力を手に入れた俺達。その体にさら気を纏うことで身体能力や攻撃力、防御力、速さなどがさらに向上する。


 俺は頭の中にある使い方に従い、体に気を纏う。俺の周りに薄い飴色の闘気が可視化できる程に凝縮して纏わりつく。


「凄い万能感だ」


 気に身が包まれると、今ならなんでもできるという気持ちが沸いてきて、調子に乗ってしまいそうになるけど、勿論自嘲する。


「早速動いてみるか」


 俺はその状態のまま動いてみる。


「のわぁああああああああ!?」


 昨日同様に足がもつれて倒れてしまった。能力上昇には慣れたつもりだったんだけど、それでも追いつかないほどの能力向上だった。


 その効果は恐らく二倍以上。


 ただ、それには相応の代償があった。


「いだだだだだだ……」


 それは肉体を限界以上に動かしたことによる筋肉の損傷や痛みである。俺は気闘法を解いた瞬間に立っている事さえままならなくなった。


 横になっていることさえ痛いというのは初めての経験だった。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 それともう一つは異常なほどの疲労感。恐らくこれも限界以上に体を動かした代償だろう。


 その痛みと倦怠感がしばらくの間消えなくて、その間検証作業がストップしてしてしまうことになった。


 ただ、神聖魔法のヒーリングを思い出して使用すれば痛みは消すことができたので、次使った時はすぐにヒーリングを使うようにしようと思う。


 それでもこの疲労感はかなり辛いので、使うタイミングは考えないといけないスキルだ。


「えらい目に合ったけど、次は剣技かな」


 現状使える剣技スキルの技は疾風剣と連続切り、そして十文字切りといったところか。それとなんとなくどう動いたらいいのか分かるのも剣技スキルの効果だ。


 疾風剣は予備動作なしで放たれる突きだ。敵の攻撃よりも早く敵に到達することで先手が取れる。次に連続切りだけど、一回だけ切ったはずなのに、なぜか二度攻撃されるという不思議技だ。ただ、その分一回の攻撃力が落ちる。そして最後は十文字切りという神速で繰り出される剣で十字を描き、その斬撃が放出されて十字傷を相手に与える技だ。


 これらをバフをかけずにやってみる。


 疾風剣!!


 スキルを脳内で意識して発動させると、俺の意志とは関係なくアシストするように体が動いて予備動作無しで突きが繰り出された。


 すると、その先にあった木の幹に大穴が空き、そのままめきめきと倒れてしまう。


「初速が早すぎて自分でもギリギリ見えるかどうかって感じだな……」


 俺は自分の手を見つめながら呆然とする。


「次は連続切りか」


 俺は気の前まで移動して連続切りのスキルを脳内で発動する。


―ズバズバァッ!!


 一度しか切ってないのに二度の斬撃が樹木を襲う。


 二カ所きり付けられたことで、その部分だけが切り取られ、だるま落としみたいに抜けたかと思ったら、切られた場所より上の部分が下に落ちてきてバランスを崩してズシンと地面を揺らした。


「うーん。一度の斬撃の威力が弱くなっているということだったけど、正直分からないなこれ」


 普通に一撃で木が切れてしまったので、威力の減退具合が分からなかった。


「最後に残ったのは十文字切りだな」


 俺はまた別の木の前に移動してスキルを脳内で発動させた。


 体が動き、凄まじい勢いで剣が十字に空を切る。十字が完成した刹那、赤白い炎のような十字が浮かび上がり、それが前の木に飛んでいく。


―ズバァンッ


 その十字の光が木に当たると、十字の形のまま木の幹が繰りぬかれ、何本かを貫いた。


「これは中々強力なスキルだな」


 俺は顎の下に手を添えて惨状を見つめながら感想を述べる。ただ、殲滅力は圧倒的に魔法の方が高いなと感じた。


 しかし、その分魔法を使う時に自分の体から流れ出る魔力らしきものを一切つかっていないことを考えれば、普段使いには悪くないと思う。


 盾騎士の挑発や蓄積、全反射に関してはターゲットがいないと検証が難しいのでシャドウと直接対峙した時にしたほうがいいだろう。


「おいおいまだやってたのか?」

「今日は倒れてないみたいだね」

「にぃ!!」


 そんな俺の背に二人の声が聞こえ、フワフワモフモフした生物が俺の腕に飛び込んできた。


 振り返ればそこに居たのは修二と聡。そして腕の中で抱かれて俺の胸に頬ずりしているのはエンジュだ。


 はぁ~、エンジュの可愛らしさに今日の疲れも癒されて溶けていく。


「流石に二日連続で倒れるわけないだろ」

「いーや、ロッコならありえるな」

「そうだね。一回あったもんね」


 エンジュに浄化された後で二人の言葉に返事をしたら、完全否定されてしまった。


 そんなに無茶をした覚えはないんだけどな。


「そんなことあったか?」

「うん、六道君が好きな作品の「アサシンガールズ」の劇場版が上映される時なんて毎日寝る間も惜しんで二次創作のイラスト描きまくって毎日ぶっ倒れてたじゃん」


 確かにあの時は嬉しすぎて毎日イラストを描いてアップしてたっけ。でも無理したつもりは全くないんだよな。気付いたら意識が無くなってただけで。


「あれは仕方ないだろ。神が劇場に降臨されるんだから毎日イラストアップして皆に広めないといけなかったんだから」

「流石アサシンガールズもといボディスーツの伝道師と呼ばれるだけはあるけど、今は命に関わるから体は大事にしようね」

「へーい」


 俺が不満顔で返事をしたら、有無を言わさない笑みをにっこりと浮かべて聡は言った。


 俺は戦略的撤退をして彼の言葉に従った。


 まだ電気とガスが使えるのを確認して、お互いの成果を話し合い、風呂に入ってエンジュを洗ってやり、見張りをした後でエンジュと一緒に布団に入った。

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