第029話 魔力切れ
「……おい!!……か!!……しっかり……」
どこからか声が聞こえる。
あれ、俺はどうなったんだっけ?
今はどういう状況だ?
「おい!!聞こえてんのか!?返事をしろ!!」
意識が浮上して、聞こえていた声が俺に向かって投げかけられていることが分かった。
「ん……ああ……」
俺はゆっくりと目を開けて返事をしようとするけど、口が上手く動かず、曖昧な返事をする。
「お、おお、ロッコ!!無事だったか!!」
目の前には修二の泣きそうな顔があり、目を覚ましたのを本当に安堵した表情で俺を迎えていた。
「全く……帰ってきて君を呼んでも返事がないから探してみれば、裏庭で倒れていてびっくりしたよ……」
視界の端に聡が入ってきて、心配と呆れが混ざったような顔で俺を見下ろしていた。
「にぃ!!にぃ!!」
顔に暖かなざらざらとした感触を感じていたと思ったら、俺の体の上にエンジュが乗っていて、どうやら顔を舐めているらしい。
「悪い悪い。心配かけたな」
俺はエンジュの体を掴んで上体を起こし、皆に頭をさげる。エンジュは俺が無事だったのを見て、抱いた俺の胸に頭を擦り付けてきた。
全く可愛すぎる。
「本当だぜ。お前がぶっ倒れてるのを見て、ありえねぇとは思ったが、とんでもない怪物が現れてお前が命と引き換えに撃退でもしたのかって想像しちまった」
「はははっ。そんなことはなかったな。ただ、魔力?が切れてしまっただけだ」
少し体を震わせながら語る修二を見て、俺は苦笑いを浮かべて倒れた経緯を話す。
「そういうことね。余程……無茶したいみたいだね」
「いや、そんなことはない……とは言えないか……はははは……」
俺の説明に聡は周囲を見回し、その惨状を見ながら返事をすると、俺は乾いた笑い声を上げるしかなかった。
「……ってもう夕方か……」
落ち着いた後で辺りを見ると、もう日が沈む寸前で一日が終わろうとしていた。どの段階で日が落ちたのかは分からないけど、多分気絶したのは午後になってからだから気を失っていた時間はそこまで長くない。
「ああ。せっかく俺達の成果を聞かせてやろうかと思えばこの様だからな。そんな気も失せたっつーの」
「その辺はご飯を食べながら聞くことにしよう」
「そうだね。成果は皆汚れてるからとりあえずお風呂に入ろってからにしよう」
「そうしよう」
これ以上ここに居ても仕方がないので、俺達は風呂に入ってご飯を食べる。
今の所電気もガスも水道も来ているが、いつ使えなくなるか分からない。それに備えて準備をしておいた方がいいかもしれないな。
特に魔法を使えばライフラインに頼らなくてもどうにかなりそうだし。
そういえば、電気に関してはバッテリーがあればサンダーの威力を調整すればどうにかなるかもしれない。魔法だけでなく、そういう文明の利器も視野にいれておこう。
「それじゃあ、まずは六道君の成果から聞こうかな」
「分かった」
俺は今日一日で分かったことを伝える。
「やっぱりチート過ぎんなお前」
「まさか休みもせずに一日中魔法を打ちまくっていたとは思わなかったよ。いや、そこまでしないと魔力的な何かがなくならない魔力お化けと言っていいのかな?」
俺の成果を聞いた二人は、呆れるどころかドン引きした。
まぁ今回は自分でも夢中になり過ぎたと反省はしている。ただし、後悔はしていない。キリッ。
「そんじゃあ次は俺達の番だな」
「おう。頼む」
俺からの成果報告が終わりと、待ってましたと言わんばかりに修二が身を乗り出す。
二人から聞いた話をまとめると、二人は今日だけでなんとレベルを二つも上げて五になったらしい。
なんでも自分達にとって都合のいい場所で都合のいい時に敵とエンカウントできたおかげでじゃんじゃんレベルを上げることが出来たそうだ。それとやはりというべきか、エンジュがいたおかげで宝箱が結構ドロップしたらしい。
でも俺がいない分少なかったり、レア度低かったりして最高でも銀箱までしか出現しなかったようだ。
「そういえば、装備が変わっていたな?」
「ああ。いいだろこれ」
「そうだね。僕の衣装も如何にもアサシンって感じになったよね」
二人の成果を聞いてさっき外にいた時の装備が初心者装備から全く別の物に変わっているのに気づいた。
どうやら今回のレベル上げで、当初の目的だけでなく、防具に関しても二人とも良い物を得ることができたようだ。
「それと、念のため、六道君が行っていたスーパーじゃない所に行って自分たちのカバンに入れておく物資も集めてきたから、もし何かあったら言ってね」
「了解。そういえば人々はどうだった?」
ある程度お互いの成果の共有が終わると、気になるのは避難した人や家に閉じこもっていたりした人間達の動向だ。
もう三日目だ。そろそろ動きがあってもおかしくはない。
「うーん。チラホラ見かけたよ。やっぱり三日目ともなると、食材が切れて調達を始めたり、ステータスが覚醒したことで戦ってみたり、しびれを切らした連中が動き始めたんだろうね」
「分かった。それじゃあ悪いんだけど、そいつらの動向も今度から探ってきてもらえるか?」
やっぱりか。面倒なトラブルを避けるためにそういう人たちの情報は知っておかないといけないだろう。
「了解。情報を武器だからね」
俺の指示に聡はニッコリと笑って返事をした。
そこにはそこはかとなく黒い部分が見え隠れしていたが、俺は何も言わない。
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