第024話 お節介犯の正体(別視点)

■結城加奈 Side


「おーい!!校門の前に何かあるぞ!!」

「あれって食べ物じゃないか!?」

「一体いつの間に!?」

「それよりも誰があんな場所に置いたんだ?」


 目が覚めると、室内はほの暗く、まだ日が出ていない時間にも関わらず、慌ただしい様子だった。他の人たちもその騒がしさで目を覚ましているようだ。


 私たちは昨日有栖川学園の校内に迎え入れられた後で簡単な説明を受けた。


 多くの人たちがシャドウに殺されてしまい、どうやら現在この学校には三百人くらいの人が避難して来ているらしい。恐らく家の中でまだ息を殺して隠れている人達も多くいるだろうとのことだ。


 私達は買い物の途中でシャドウに会い、祖父母を犠牲にして逃げ延びたけど、逃げ切れずに食べられそうになった。


 あの時は本当に死んだと思ったけど、小太郎が助けてくれたおかげで私とお姉ちゃんの命は助かった。


 私達に覆いかぶさってあの影から守ってくれた小太郎の暖かさは今でも覚えている。


 私もお姉ちゃんもその時、小太郎に惹かれてしまったんだと思う。小太郎のことを考えるだけで胸が熱くなって鼓動が早くなる。


 それ程に彼は強くて優しかった。


 話を戻すと、今ではここに避難してきている人の中でもそれなりの人数がステータスに覚醒しているという。


 そのため、今後班を組んで、物資の調達をしたり、見回りをしたり、生存者を探したり、農業の模索をしたりなどなど、能力に応じて様々なグループに分かれ、生き延びることを模索していくとのことだった。


 その日は疲れているだろうとのことで、詳しい説明を受ける前に私たちは休むことになった。


 私たちは女性たちが集まるエリアの一室である視聴覚室に割り当てられ、そこに適当なシートを敷いて寝ることになった訳だ。


 硬い床で寝たのに背中が痛くなっていなくて、これもステータスの覚醒とレベルアップの恩恵なのかもしれない。


―ガラガラガラッ


 扉が開いて誰かが中に入ってくる。暗くてあまり見えないけど、見間違えるはずもない。それは私のよく知る人物だった。


「加奈も起きたみたいね」


 それはお姉ちゃんである優奈で、私が上体を起こしているのを見て、近づいてきて話しかけてきた。


「どうかしたの?なんだかうるさいけど」

「ああ。あれね。なんか学校の前に沢山の物資が置いてあったみたい。十二畳くらいの部屋くらいの物資だって。それでも三百人の生活ではすぐになくなってしまうだろうけど」


 そういうことね。


 私はお姉ちゃんの説明を受けて騒がしい理由を理解する。


 でも奇特な人もいるものだ。今の状況では自分の命が惜しい。そんな物資があるなら私なら自分のものにしてしまうと思う。それなのに何故かこれ見よがしに校門前に物資を置いて避難している人がすぐに見つけられるように物資を提供していくなんて。


 私はその人物のことが心配になったと同時に興味を持った。


「誰が犯人が分かっているの?」

「十中八九この学校に居る誰かじゃないことはハッキリしているわね」


 私はその物資提供者について尋ねると、お姉ちゃんは両肩をあげて答える。姉の言う通り、それはほぼ確実だった。


「そうだね。今ここに居る人達はまだ外に目を向けるだけの余裕はない。私達みたいに死にそうになって助けられて、強制的にこの世界に馴染ませられたならまだしも、他の人たちはここに逃げ込んで強い人に守ってもらえた人ばかり。まだ自分が戦わらなければならないという現状を受け入れられていない」


 たとえ受け入れざるを得ないとしても、世界がおかしくなってたった一日たっただけなのに受け入れろと言う方が無理がある。


 勿論その間にも世界は変わり続けていくから常に選択を迫られているわけだけどね。


「そうね。私達は本当に運が良かったわ、あいつに出会えて。おかげでシャドウにも怯えることなく立ち向かえる」

「そうだね……ってもしかして……」


 お姉ちゃんも私の意見に同意しつつ、小太郎と会った時の事を思い出しているのか優しい微笑みを浮かべた。


 そこでふと気づく。


 その物資を持ってこれるであろう人物に。


「どうかしたの?」


 お姉ちゃんが私の顔色の変化に首を傾げる。お姉ちゃんと違って表情が乏しい私の変化に気付くなって流石双子だなと思ってしまう。


「多分その物資を持ってきたのって小太郎じゃない?」

「え!?まさかそんなこと……」


 私が思いついたことを伝えると、お姉ちゃん一瞬驚いた顔になったけど、少し納得したような表情へと変わった。


「ないって言いきれる?」


 お姉ちゃんももう気付いているようだけど、確認として尋ねる。


「ありえるわね。あいつはエッチだけど凄く優しいから。それにこの程度のこと簡単にできるだろうし」


 お姉ちゃんは首を振ってから顎に手を当てて私の意見に同調する。


「うん。小太郎は私達に全てを見せたわけじゃない。私達にプレゼントしてくれた他にも色んな力やアイテムを持っている可能性がある。だからゲームに出てくるみたいな容量が沢山入るバッグとか持っていても不思議じゃない」

「それがあれば学校前にあれだけの物資を持ってくるのも不可能じゃないわね。それに、この学校に持ってきていて、他にもっていっていないなら、この学校にゆかりのある誰かってことになる。この状況でそれが出来て、この学校に関係がある人物ってほとんどあいつで確定じゃない?」


 小太郎だとしか考えられない状況が重なっていく。


 ただ、それは私達が小太郎が持ってきてくれたんだと思いたいという気持ちがそうさせているという可能性も否定できない。他にもそんなことをする人物はいるかもしれないからだ。


「そうだね。多分優しいから自分が助けた私達がひもじい思いをしないようにって持ってきてくれたんだよ」

「そうかもしれないわね」


 私とお姉ちゃんは小太郎の優しさに嬉しくなりながら、彼のことで話して盛り上がった。


『なんのこと?でも二人の避難所の物資が増えたのならよかったな』


 後でトークアプリのLINGUでメッセージを送ったら知らんぷりされてしまった。


 それでもきっと今回の犯人は彼だ。


 私はそう信じている。

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