第022話 モンスターになりました

「い、一体どうなったんだ……?」

「どう見ても姿形が変わってるよな……」


 二人は俺にすり寄っているエンジュを見て呆然としている。


 フワフワの毛並みがくすぐったい。


「にぃ?」


 不思議そうに自分を眺める視線に気づいたのか、少し大きくなったエンジュが空中で首を傾げた。


 自分が空を飛んでいるとか、羽が生えたこととか、大きくなったこととかに少しは疑問をもったりしないのかエンジュは。


 子猫特有の可愛らしさと猫の可愛らしさが相まって最高に可愛いから何でも良いか。


「いやなんでもない。ほらおいで」

「にぃ!!」


 エンジュは物凄く小さな子猫だったし、何も分からなかったのかもしれないな。


 そう思った俺はエンジュを呼び寄せると、嬉しそうに俺の胸元に飛び込んできた。俺はそのエンジュを抱き上げ、撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。加奈が撫でられている姿と重なる。


 出会ったら仲良くなれるかもしれないな。


 そういえば、アナウンスを思い出すと、従魔契約という言葉出ていた。従魔と言えばテイマーだ。めっちゃ関係ありそうだ。


「多分だけど、俺が特級テイマーだったことが関係していそうな気がする。従魔契約がどうのこうのってアナウンスが流れたから」

「なるほどな。確かにありそうだ」

「そういうことか」


 俺の予想に二人が納得するように頷いた。俺は念のためエンジュのことを鑑定でチェックしてみる。


―――――――――――――――――――

■名前  エンジュ

■種族  エンジェルキャット

■性別  雌

■レベル 一

■スキル 幸運

―――――――――――――――――――


 どうやらエンジュも俺達と同じようにステータスを持つ存在になったようだ。スキルも幸運というなんとも俺達に幸せを運んで来てくれそうな種族になってくれたらしい。ちなみに雌だったみたいだ。


 その辺あんまり可愛いから気にしてなかったけど女の子で良かった。そうじゃなかったらエンジュって名前は微妙だったかもしれないからな。


 俺は一人でホッとしていた。


 エンジュの種族の変化について二人にも説明する。


「エンジュは僕達の幸運の招き猫ってことだね。よろしくね、エンジュ」

「ま、まぁ、認めてやらないでもないな。頼むぞ、エンジュ」

「にぃ!!」


 説明を聞いた二人がエンジュを撫でてやると、エンジュは嬉しそうに鳴いた。


「くっ。可愛い……」

「もう素直になれよ……」


 エンジュの可愛さに思わず顔が綻んでしまい、悔しそうな修二の肩に、片腕でエンジュを抱いたままポンと手を置いて諦めろという表情をしてやる。


「俺のイメージが……」

「そんなもんないから大丈夫だ」


 自分のイメージが三白眼で目つきの悪い不良キャラみたいなことを言っているんだろうけど、少なくとも俺達の間にそんなイメージは存在しない。


「そうか……それならお前たちの前では素直になることにするわ」

「それがいい」


 俺の言葉にかっこをつけることを諦めた修二は、素直になってエンジュを愛でることにしたらしい。


 ただ、その姿は少々表現するには難しいので何も見なかったことにしよう。エンジュも嫌がっているわけではなさそうだったから大丈夫なはずだ。


 エンジュのことを色々やったりだとか、食べてなかった昼食を食べたりだとかをしていたら、気づけば外が少し黄昏に染まってきていた。


「やば。そろそろ俺もう一回行ってくるわ」

「うぃ~、了解」

「いってら」


 俺は慌てて優奈と加奈の居る有栖川学園用の物資の調達に向かうことにした。


「エンジュはどうする?」


 エンジュはすっかり元気になっているし、もう普通の子猫でもなくなって俺の従魔になった。だからついて来たいなら一緒に連れてってもいいと思って聞いてみる。


「にぃ!!」


 修二に可愛がられていたエンジュは俺の前に飛んできて前足を上げてアピールをする。


 どうやら一緒に来てくれるということらしい。めっちゃうれしいな。


「おお!!一緒に行ってくれるのか?それじゃあくれぐれも俺から離れるなよ?」

「に!!」


 俺が傍から離れないように言うと、エンジュは前足を敬礼するように頭の上にもっていった。


 分かった、ということみたいだな。


 それにしても知能が物凄く上がっているようだ。俺の言葉を完全に理解しているっぽい。これはとてもいいことだ。


 コミュニケーションはとっても大事だからな。


「おいおい、連れてって大丈夫なのかよ?」


 しかし、エンジュを可愛がっている修二が心配そうに俺に尋ねる。


「大丈夫だって。傷一つ付けさせないから。これでもその辺のシャドウには絶対負けないから安心しろ」

「それもそうか」


 俺が安心させるように修二に言うと、彼は日中のことを思い出したのか、納得した。


「あ、二回目僕もついてっていい?」

「ん?いいけど、どうかしたのか?」


 今度こそ出発しようと思ったんだけど、今度は聡が付いてきたいという。実際一人の方が早いし、修二が一人だと心配だから出来れば一人の方がいいんだけど、何か理由があるなら着いてきてもらったほうが良いだろう。


「いや、僕もレベル上げておきたいなと思ってね」

「聡の言う通りだな。修二は一人で大丈夫か?」


 聡の言うことも分かるので修二の方を向いて確認を取る。


「もうレベルも三だしな。普通のシャドウなら余程多くない限り負けないから物資調達の間位なら大丈夫だろ。最悪逃げるから拠点はお前達で取り返してくれ」

「分かった。一緒に行こう」

「ありがとう」


 修二も問題なさそうなので俺と聡は一緒に荷物の調達に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る