第017話 生存を願ってやまない奴らの行方
学校まで優奈と加奈を送り届けた俺は、二人のキスの余韻で現実が受け入れられなくて、暫く放心することになった。
だってリアル化した最推しからのほっぺにチューとかそんなイベントがまさか俺に起こるなんて思わないだろ?
少しの間ボーッとしていた俺は、そんなことをしてる場合じゃないと我に返り、すぐに聡の家に向かって屋根の上を走り始めた。
複数のステータスというチートによってファンタジーじみた身体能力を手に入れた俺にとっては朝飯前だ。
そのため、数分で聡の家に辿り着いた。
聡の家はそれなりに裕福な家庭なので、大きな外壁に覆われた一軒家だった。中には大きな庭もあり、市街地にそれだけの家を持つことが出来る資産をもっていることが窺える。中の様子を探った限り、特に壊されている様子もない。
しかし、家の明かりはついていない。聡の両親は帰ってきていないようだ。仕事中だったのだろう。
俺は念のため敷地内に侵入して窓から室内を窺ったりしてみたけど、人が居る気配はなかった。
「ちっ。不発か」
俺は聡を見つけられなかったため、舌打ちをして地面を蹴る。
―ボゴォッ!!
俺はいつものように蹴ったつもりだったが、六つのステータスによって強化された身体能力によって俺の蹴りは地面を大きくえぐった。
「やっべ……」
人の家の庭をえぐってしまって思わず焦る。
「とりあえず元に戻しておくか」
別に誰に何かを言われるわけじゃないけど、そのままにしておくのもなんだったので、俺はえぐった部分を均し、きょろきょろと付近を見て人がいないことを確認して安堵し、聡の家の敷地を出た。
次に目指したのは修二の家。修二の家はアパートで駅の方に住んでいる。もしかしたらシャドウが沢山居て押し寄せているかもしれない。
俺は急いで走り抜けた。
―ピンポーンッ
シャドウをなぎ倒してアパートに到着した俺は、二階に上がって修二の家のインターホンを鳴らした。
「……」
しかし、暫く待ってみても誰も反応する様子はない。
何度かインターホンを鳴らして返事がなかったので、俺は裏手に回って修二たちの家の下に移動し、そこで思いきりジャンプしてみた。
「おわっ」
二階なんて余裕で超える高さ。
調整してジャンプして窓の中を窺ってみた。しかし、聡の家と同様に家の中が暗くて誰もいないようだった。
勿論電気がつかない可能性があるが、窓に本当に軽く石などを当てて合図を送ってみても中から人が出てくる気配はないので、家にいないということだろう。
外には誰もいないし、おそらく生きている人は避難済みか閉じこもっているかだから当然と言えば当然だけど。
「くっ。もう日が暮れそうだ」
聡と修二を探し始めた俺だったが、事件が起こった時間が時間だっただけに、辺りが暗くなってきてしまった。
「これはヤバいな……」
何がヤバいって暗いとシャドウが見えにくい上に視界も悪いと言うことだ。
シャドウが現れた後の初めての夜。
強くなったと言っても、不意打ちを受けるのは避けたい。あまり動き回らずに安全な場所に身を隠すのが得策だろう。
「しょうがない。今日の所は諦めるか……」
俺は今日のこれ以上の捜索を諦めて一旦家に帰ることにした。
人がいなくなり、音の消えた街の中を疾走する。途中シャドウが何度も現れるが、剣を抜いて一瞬で切り捨てていく。
宝箱が出たとしても基本的な無視した。勿論銀箱金箱や虹箱だった場合はその限りじゃないけどね。
「だんだん数が少なくなってきたな……」
俺の家は市街地から少し離れた山の上にある。
その近くまでやって来ると民家が少なくなり、夜だからあまり見えないが、田園風景が広がっている。
人がいないからなのか影と遭遇する回数がどんどん減っていき、今では全く見当たらなかった。
不幸中の幸いと言うかなんというか……。
断定はできないが、彼らは人を食べるせいか人が多くいる場所の方に滞在している可能性が高い。
俺は家が無事であることを信じて走り続けた。
「おっ」
神社に至る階段を駆け上がると、暗さに慣れた眼が、いつもと変わらぬ我が家を捉える。
俺は周囲にシャドウがいないことを確かめるために辺りの探索を行った。その結果、この辺りにシャドウはいないようだった。
「これだけ探していないなら休んでいても大丈夫だよな。もし何かあれば分かるように罠を仕掛けておけばいいしな」
周囲の安全が確認できたので家へとゆっくり戻る。
「ふぅ、今日はあまり検証する時間がなくて物理攻撃しかしてなかったけど、二人を見つけたら魔法とかスキルとかの検証もしていきたいな」
正直今の段階ではステータスが高いため必要性を感じてはいないが、その内それだけでは倒せない敵が現れる可能性がある。そうなる前に自分に使うことが出来るスキルの把握をしておいた方がいいはずだ。
こんな世の中だ。使えるカードは多いほどいい。魔法も気になるしな。
「あとは家の中も一応確認しないとな……」
俺はそう独り言ちて家の鍵を差し込み、くるりと回した。
「……」
俺は無言になる。なぜなら鍵が開いたという感覚がなかったからだ。それはつまり鍵を挿す前から鍵が開いているということ。
「誰かいる……?」
その結論に至った俺は警戒を強めながら扉をゆっくりと開けた。次の瞬間、中から二つのが影が飛び出してきた。俺は後ろに跳んでその影の攻撃を躱し、その姿を見据える。
雲に隠れていた月明かりがちょうど俺達がいる場所を照らし、その影の正体を明らかにした。
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