第014話 素直な妹と素直じゃない姉
「せい!!」
敵の懐に入り込んで手加減をして切り裂く。
彼らは影のような如何にもスライムのようにウネウネとした見た目をしているが、それほど大きく体の形を変えられるわけじゃない。
人間のような体をしている彼らはせいぜい頭部分を伸ばしてくるか、腕を伸ばしてくるかくらいだ。それに腕が切られれば再生はしないし、首を斬り飛ばされると死ぬことも分かっている。
それほど普通の生物と変わりはない。
「ウ゛ォ゛オ゛オ゛……」
怪物は致命傷を負い、恨めしそうな声を出しながらその場に倒れ伏す。
「優奈。止めを刺してくれ」
「え、えぇ!!」
優奈はその異形のものへの恐怖と、動いているものに止めを刺すという行為への忌避感から戸惑いながら影に近づいていく。俺はいつでも動けるように近くで待機する。
「すーはー、すーはー」
射程距離に入った所で優奈は深呼吸をして気持ちを落ち着かせて、
「やぁ!!」
怖さのあまり目をつぶってシャドウを槍で刺した。
「ウ゛ォ゛オ゛オ゛……」
断末魔を上げるシャドウ。いつものように煙となって消えた。
「あっ。レベルが上がったわ」
「おめでとう」
「ありがと」
初めて敵を倒したことで優奈のレベルが上がる。
どうやら彼女の脳内にもレベルアップのアナウンスが流れたようだ。彼女達は二人は武闘家(暗殺拳)とくノ一という職業になったらしい。
裏の仕事っぽいのが、やっぱり彼女たちはアサシンガールズが現実に飛び出してきたんじゃないかと思ってしまう。
ただ、拳や短刀だと物理的に距離が近すぎて怖いと言うことで二人とも槍を持たせている。
「お姉ちゃんはビビり過ぎ」
「しょうがないでしょ」
「小太郎が見ているんだから怖がる必要はない」
「怖いものは怖いの!!」
必死になって怪物を倒した姉に対して辛辣な妹。加奈は俺を小太郎と呼ぶ。姉の方からは大体あんたとか呼ばれている気がする。
まぁなんと呼ばれようとも二人と関わることが出来ている時点で俺は幸せで顔が緩む。
「ほらほら。喧嘩してないで次に行くぞ」
そんな二人を見ているのは楽しいけど、時間が過ぎれば過ぎるほどに聡たちの命が危ぶまれる。あまりのんびりもしていられない。彼女たちを学校に届けたらすぐに探しに行かなければならない。
「分かったわ」
「はーい」
俺がヤレヤレと両肩を上げて促すと二人とも俺の方に近寄ってきて先導を始めた。
「やぁ!!」
「はぁ!!」
「たぁ!!」
「せぃ!!」
彼女たちを守りながら有栖川学園を目指して進んでいく。
途中で何十匹もシャドウに遭遇するが、今の俺にとって全く脅威にならないので身動きできなくして彼女達に倒させるようにした。
そのおかげで彼女たちのレベルも徐々に上がっていき、学校まであと一キロというところまで来た頃には彼女たちはレベルが三になっていた。
ここまでくればまずシャドウに負けることはないだろう。
「ここからは君たちにも最初から戦ってもらおうと思う」
「わ、分かったわ……」
「りょーかい」
いつまでも止めを刺すだけでは、力はあっても肝心な時にその力を使うことができないかもしれない。
そのため、彼女達だけで怪物を倒せるようになった方がいいと思い、彼女達にも戦わせることにした。
ただ、加奈はともかく優奈が不安そうな顔をしている。
「心配しなくてもいいぞ。何かあったら俺が助けるから」
「……」
俺が近づいて彼女の頭をポンポンと撫でたら、彼女は何故か顔が赤くなってきてボーっとして黙ってしまった。
「だ、大丈夫か?」
「……」
声を掛けるが、呆けた表情のまま動かない。
あ、俺やっちゃったかも……。女の子の頭を撫でるなんて、イケメンでもなんでもない俺がやっていいことじゃなかった……。
ヒロインに嫌われてしまったら俺は生きていけないかもしれない……。
「全くお姉ちゃんは仕方ないんだから……。私も撫でて欲しい」
「え?い、いいのか?」
姉に呆れる加奈。しかし、なぜか自分も撫でるように頭を差し出してきた。俺は予想外の事態に困惑しながら問い返す。
「うん、おねえちゃんだけズルい」
「わ、分かった」
フリーズしてしまっている姉がズルいというのは良く分からないが、本人からお願いされたのなら問題ないだろう。
俺は加奈の髪の毛を撫でてやる。
そしたら、彼女はまるで猫のように目を細めて気持ちよさそうな表情になる。姉と違って感情の起伏が少ない彼女のとろけきったような顔は、思わずキュンとしてしまうほどに可愛らしかった。
はぁ〜……リアルアサシンガールズ天使過ぎる。
「な、何やってんのよ、加奈!!」
加奈を撫でていたら、何処かに旅立ってしまい戻ってこなかった優奈が現実へと帰還を果たし、気持ちよさそうにしている加奈に詰め寄った。
「え?お姉ちゃんが撫でてもらってたから私も撫でてもらってるだけ」
「こいつに頭を触らせるなんて何を考えてるのよ!!」
悪びれる様子もない加奈になおも言い募る優奈。
「別にいいじゃん。減るものじゃないし」
「だ、だってこいつは男なのよ?」
加奈は全然気にしていないようだが、優奈の方が俺が男だということに抵抗感があるようだ。
「だから?」
「男は
それの何がダメなのかと言外に尋ねる加奈に、優奈は何かを思い出しながら言葉を絞り出す。
OH、手酷い!!
俺は精神に多大なダメージを受けた。
「私は別に小太郎ならいい」
「……」
再び返事をした加奈に優奈は何も言えなくなった。
俺としては加奈には大分懐かれたようだ。優奈には敬遠されているみたいだけど。
辛い……、俺の理想に嫌われるのは本当に辛いけど、加奈には嫌われていないし、短い付き合いになるわけだから、これ以上気にしても仕方がない。
「優奈、勝手に撫でてごめん。嫌だっただろ?」
「べ、別にそんなことは……」
「悪い悪い。これからは二度とそんなことしないから」
加奈は許してくれたが、優奈には悪い事をしたので途中何を言っていたのか聞こえなかったが、謝罪する。
「べ、別にいいわよ……」
「え?なんだって?」
「だぁかぁらぁ、撫でたいなら好きにすればいいでしょ!!」
しかし、帰ってきた答えが聞き取れずに聞き返したら、ヤケクソ気味の返事が返ってきた。
態度はツーンと俺から顔を背けているのに、言葉では全く別の事を言っている。一体どっちが正しいんだ……。
女性経験皆無の俺には判断できない案件だ。
「お姉ちゃんも撫でてて欲しいって」
「そ、そんなこと言ってないでしょ!?」
俺が悩んでいると、加奈が姉の気持ちを代弁するつもりで呟いたが、当の本人はそれを慌てて否定する。
「嫌なの?」
「い、嫌なわけじゃ……」
加奈の問いに、目を逸らして人差し指を付けたり話したりしながら言いきらない優奈。
しかし、加奈との話を聞く限りどうやら撫でられるのが嫌なわけじゃないらしい。
「なら大丈夫。小太郎これから頑張ったらご褒美にお願い」
「あ、ああ……」
俺は何故か彼女達が頑張った時に撫でることになってしまった。
俺の中の最高の作品のヒロインにそっくりの二人の頭を撫でられるなんて幸せすぎて昇天してしまいそうだ。
彼女たちの頭はフワフワで撫でると見せる緩んだ表情は思わず心惹かれてしまう。
俺はふと二人を見る。
もしかしたらこんな状況になって家族もいなくなり、頼れる相手もいない。そんな所に俺がやってきて二人を助けた。だから甘えたいのかもしれないな。
俺は事あるごとに頭を差し出してくる加奈と、ソワソワしながら近づいてきて顔を背けてジッとしている優奈の頭を撫でつつ、彼女達に怪物たちを一匹ずつ倒す練習をさせながら、有栖川学園まで辿り着いた。
そこには多少損壊はあるものの無事な姿で聳え立つ校舎と外壁があった。その頃には彼女たちをレベル四まで上げることに成功していた。
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