第013話 推しからの信頼

「この辺で一番近い避難所って分かるか?」

「市役所かな」


 俺の質問に少し考えながら答える優奈。


 それは俺が思っていた通りの答えだった。


 でもあそこには俺を敵の前に置き去りにした陽キャの奴らがいる。そんな場所に俺は行きたくないし、行ってあいつらに会いたくもないし、この子たちを連れていきたくもない。


「だよなぁ……」


 嫌な気持ちが溢れて思わずぼやいてしまう。


「どうかしたの?」

「いや、詳しいことは話せないけど、あそこにはいかないほうが良い」


 優奈は俺が嫌そうな顔をしたのを見逃さなかった。そこで彼女に詳しい内容は話さずに首を振って別の場所に行くことを提案する。


 彼女たちにあいつらのことを言う必要はないし、言いたくもない。情報を与えることによって変に意識させるのも嫌だしな。

 

「分かった」

「私もそれでいい」


 それを聞いた優奈と加奈はやけにあっさりと了承する。


「いいのか?」


 詳しく聞かれることを覚悟していた俺は思わず尋ね返した。


「仮にもあんたは命の恩人だからね」

「信じる」


 二人はにこりと笑って俺を信じてくれた。優奈と加奈は俺に何かあったことを汲んだ上で何も聞かないでくれた。


 俺のことなんて何も知らないのに信じてくれる二人の優しさが心に染みる。


 できれば俺もこの信頼に足る行動をしたいと思う。


「ありがとう。それじゃあその次に近い避難場所は?」


 二人の気持ちに応えるため、次の避難場所の候補を尋ねた。


「多分ウチの学校かな」

「えっと……」


 優奈は答えてくれたが、私服だった彼女たちがどこの学校に通っているのか分からずに困惑して言葉に詰まる。


 この辺の高校って俺たちの学校以外にどこがあったっけ?


「私たちは有栖川学園に通ってるの」

「ああ。あそこだったのか」


 俺が思い出せないでいると、彼女が答えてくれたことでやっと思い出して納得する。確かにあの学校も同じ地区にあったんだった。


「まぁね」


 まさか二人がそこの生徒だったとは……。


 あそこは結構頭も良かったはずだ。


「二人とも頭良いんだなぁ」


 俺は落ちついた加奈は兎も角、活発な姉の優奈がそれほど頭がいいとは思っていなかった。


 人は見かけによらないとはこのことだな。


 俺はまじまじと二人を見つめる。


「べ、別にあんなのやれば誰でもできるわよ」

「うん、それほどでもあるよ」


 恥ずかしそうに謙遜する姉と自慢げにその暴力的な胸を張る妹。この子たちは本当に正反対の性格をしている。


 俺は二人の返事に思わず笑みをこぼした。


「避難場所はそこでいいか?」


 勝手知ったる自分たちの高校なら彼女たちにとって一番適した避難場所だと思うけど、念のため確認を取る。


 もしかしたら嫌だという可能性もある。


「そうね、問題ないわ」

「分かった。そこまで案内してくれ。ただし、あまり前に出すぎないで欲しい。守り切れなくなる」


 優奈は少し考えたうえで問題ないという判断を下した。向かう場所が決まったところで俺は真剣な態度で二人に頼む。


 あまり前に出られてしまうと俺が攻撃を防ぐ前にやられるかもしれないからな。大事なことだ。守ってもらわないと命に関わる。


「え、えぇ、わ、分かったわ!?」

「分かった。お姉ちゃん、分かりやすすぎ」


 俺が真面目な話をしたら、何故か優奈は顔を真っ赤にして慌てて返事をして、加奈はそんな姉をジト目で見て軽く肘鉄をして小突きつつ返事をした。

 

「べ、別にいいでしょ!!」

「なんだ、大丈夫か?体調でも悪いのか?」


 さらに真っ赤になる優奈。もしかしたら体調が悪いのを我慢しているかと思い、心配になって顔を覗き込む。


 こんな状況で体調が悪いとかヤバすぎる。一応ポーション類はいくつか持っているけど、それが効かない病気とかだったら恐らく病院が機能していない今の状況では治すことが難しい。


「だ、大丈夫よ」


 優奈は凄い勢いで俺から離れ、体の前でアワアワと両手を振った。その顔はひどく赤くなっている。


「いや、今の状況で嘘は良くないぞ。何かあってからじゃ遅い」


 俺は赤くなっている顔が気になって詰め寄った。


「ほ、本当に大丈夫だから……」


 彼女は俺が詰め寄った分、顔を背けたまま再び俺から離れてしまった。


 もしかして俺って嫌われてる?

 それか俺が匂っているのかもしれない。


 そんなことを思いながら自分の匂いを嗅ぐ。


 臭く……ないよな?

 でも自分の匂いって分からないっていうし。


 俺は自分が臭いのではないかとだんだん不安になってきた。


「大丈夫、小太郎は臭くない。お姉ちゃんは恥ずかしがってるだけだから気にしなくていい」

「加奈!!」

「はははっ。それならいいんだけどな」


 俺の心配を察したのか、加奈が姉の行動の理由を述べると、図星だったのか彼女を怒鳴りつける優奈。


 俺は二人の微笑ましい光景を思わず笑う。


 彼女たちははいつもこうやって周りを笑わせているんだろうなぁと感じさせられた。それと同時に俺も臭いわけじゃなくて良かったと心の底から安堵した。


 現実化した推しに臭いと言われた日には死にたくなる。


「気持ちも落ち着いたところで行こうか」

「えぇ」

「うん」


 俺たちは有栖川学園に向けて周囲に気を付けながら歩き出した。

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