第011話 野生の推しが現れた!!
「とはいえ、あいつらがどこにいるのか分からないな……」
あいつらとはよく遊ぶが、流石に通っている塾の場所とか、修二の今日の用事が何かまでは詮索してしていないので、居場所が全く分からなかった。
塾とかだと隣町とかの可能性まであるからな。
「っていうかこんな時のためのスマホだろ」
俺はうっかりしていたが、山田が見てみたように俺には文明の利器であるスマホがあった。
「OH~……」
思わず外国人のような言葉が漏れてしまうが、ポケットから取り出したスマホは充電が切れていた。昨日し忘れていたようだ。
これじゃあ誰にも連絡を取りようがないな。
「困ったなぁ……とりあえずあいつらの家に行ってみるか」
俺が分かるのはあいつらの家くらいだ。
もしかしたらすでに避難している可能性があるけど、知っているのはそこくらいなので一度訪ねてみることにした。
改めてみる街並みはひどく変わり果てていた。至るところで事故を起こした車が煙を上げて壁や家が破壊されていたり、車中に血が飛び散っていたりする。
鉄臭い匂いが蔓延していて、死体の無い虐殺現場というのが正しいかもしれない。
「ウ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
「うるさい」
俺は出会うシャドウを手あたり次第に切り捨てて進んでいく。
あれから一向に人に会う気配がない。食べられた人以外は閉じこもっている可能性が高い。俺がもっと早くに力に気付いていたら助けられたかもしれないが、今となってはどうしようもない。
その代わりにシャドウにはよく会う。今の俺にとってシャドウはただの雑魚に成り下がってしまったので、流れ作業になりつつある。
この辺りの安全が少しでも上がるように出会ったシャドウは切り刻んでやった。
「きゃー!!」
そんな風にシャドウを切り捨てながら歩いてると女性の悲鳴が聞こえた。
「ちっ」
俺はその声が聞こえる方に向かって走る。
急げ!!一瞬の遅れで人が死ぬぞ!!
俺は力を振り絞った。
「あれは……!?」
細道を抜けると、そこには十字路の真ん中で二人の女の子が尻餅をつき、身を寄せ合ってシャドウを見上げて涙を流してガタガタと震えていた。
今にもシャドウが二人に襲い掛かろうとしている。
「間に合えぇえええええええええ!!」
俺は叫んで、思い切り地面を蹴って彼女たちの前に飛び込んで覆い被さった。
―ザシュッ
「うっ」
俺の背中に衝撃が走る。
目の前の少女たちを見ると、目をギュッとつぶって震えて縮こまっている。見た感じどこにも傷はない。俺はなんとか彼女たちを助けられたようだ。
「くっそ、痛いだろ!!」
俺は彼女達から振り向きざまに持っていた剣を振りぬいて化け物を切り裂いた。怪物はいつものように消えて何も残らなかった。
「ふぅ~、思ったよりも背中が痛くないな」
俺は背中を見ようとして見れない状態になっているが、背中に手を伸ばしてみても血などは出ていないみたいだ。
やっぱりこの隠匿のローブってやつは特殊効果だけでなく、金箱から出ただけあって防御力も高いらしい。
いい防具を手に入れられて良かった。
「あ、あの……」
俺が怪物を倒して自分のことをあちこち確認していたら女の子の声が聞こえた。どうやら俺を呼んでいるらしい。
「あ、大丈夫でしたか?」
「え、ええ……。あなたが助けてくれたの……よね?」
俺が振り返ると二人は立ち上がっていた。
彼女はとても可愛い女の子で、黒髪をボブカットくらいに切りそろえ、ぱっちりした大きな目とスッと通った鼻。そして少し気の強そうな目つきをしている。
多分俺も歳も近くて高校生くらいじゃないだろうか。
もう一人は俺と話している彼女とそっくりの容姿をしている。双子というやつかしれない。ただ、俺と話している彼女よりも少し目がおっとりしている。二人は色違いのヘアピンをつけていた。
……これは!?
俺は二人の容姿を見ていて気付いてしまった。それは二人がアサシンガールズに出てくるヒロインの双子に超滅茶苦茶そっくりだということだ。
まるでリアル化した二人が画面がから飛び出してきたみたいで、思わず胸が高鳴る。
「い、一応そうなりますね」
「そう。ありがとう。何かお礼するわ」
彼女は俺の返事を聞いて頭を下げる。
推しが目の前にいると緊張してしまって声が震えてしまったが、二人は気にしていないらしい。
よかった……。
「いやいや、たまたま近くに通りがかっただけなので」
「そういうわけには……」
俺は体の前で手をアワアワと振って気にしないように言うが、彼女が渋る。
「いえいえ。そんなことはさておき、なんでこんなところに?」
今はそんなことよりも彼女たちの方が心配だ。なんで二人だけで居るのか。家族はどうしたのか。これからどうするのか。そういうことを確認しなければならない。
「それが……買い物に出かけていたら、黒い影が現れたの。一緒にいた祖父母は私達を逃がそうとして死んだわ。私達は必死にここまで逃げてきたけど、転んでしまって迫ってきたあの化け物の恐ろしさに動けなくなったのよ……」
「そうだったんですか……」
俺がもっと早く力に気付いていれば助けられたかもしれない。
「あなたがもっと早く来てくれれば……」
「すみません」
女の子が悔しそうに俯いて言うので、俺は自分の不甲斐なさを恥じてただただ頭を下げるしかなかった。
「あ……こっちこそごめんなさい」
「いや、気にしないでください。そ、それで、この後はどうするつもりですか?……他にご家族とか友人は?どこか行く当てとかはありますか?」
少女はハッとして謝罪するので、やんわりと受け入れて今後の話をする。
「両親はいないわ。祖父母に育てられたの。友達はこの辺りにいないし、今のところは避難所以外行く当てはないわね……」
それは困ったな。助けたはいいけど、俺も聡と修二を探している途中だ。しかし、この子たちを放っておくこともできない。
それならひとまずこの子たちを安全な場所に連れていくのが先だ。聡と修二ならなんとか生きていると信じている。
うんうん、あいつらなら大丈夫だ!!
すまない、最推しの女の子を助ける方が優先なんだ!!
俺が頭の中で叫ぶと、心の中の二人が俺に怒鳴り散らすが、無視してやった。
「辛いことを聞いてすみません。ひとまず近くの避難所まで連れていきますよ」
葛藤を終えると、二人に提案する。
「そこまでしてもらっていいの?」
「ここで助けて、はいさよなら、じゃあ無責任すぎますし、どこかで死なれたら目覚めが悪いですから」
「そう。何からなにまでありがとう。私は
「助けてくれてありがとう。避難所までよろしく」
初めてもう一人の女の子がしゃべったけど、思った通りこっちの子は妹ちゃんだった。
しかし、俺が騙してどこかに連れていくとは考えないのだろうか。
勿論そんなことしないんだけどさ。
二人が少しだけ心配になる。
ただ、理想を体現した存在から信頼されるのはとても光栄でもある。
「そ、そうか。俺は六道小太郎という。よろしく」
俺は二人にドギマギしながら敬語を止めて挨拶を返すのだった。
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