第010話 探し人(別視点)

 小太郎が聡と修二を思い出している頃。


■竹中聡 Side


 僕と真田君は一緒になって狭い建物の隙間を通って黒い影から逃げていた。なぜなら狭い路地に入るとアイツらの動きも鈍るのが分かったからだ。


 あいつらは人間ではない障害物を積極的に破壊してはいない。だから行けると思ったら案の定一人ずつ狭い路地に入ってきて、身動きがとりづらそうにしながらも僕たちを追いかけてきている。


 そのおかげで僕と真田君も今の所逃げることが出来ていた。


「はぁ……はぁ……もう何がどうなってんだ?」

「はぁ……はぁ……ホント訳が分からないよね」


 僕たちはあまりに意味の分からない事態に悪態をつきながら走る。


 僕はそんな中今日の出来事を思い出していた。


 別段特に何の変哲もない日常。


 ただひとつだけ違ったことがある。それは六道君がおかしなことを言っていたということだ。


 彼は学校にくるなり僕達に家の扉が見知らぬ場所に通じていたなどという意味不明な事を呟いていた。今思えばこの異変は昨日の段階で始まっていたのかもしれない。


 そんなことを思った。


 学校に行ってその後で塾に行っていた僕はその途中でこの事件に巻き込まれた。すぐに逃げるように指示されて僕は塾を飛び出して走り出した。


 僕も初めは何が起こっているか分からなかったけど、黒い影を見た瞬間に本能的にヤバいと感じて僕はすぐにその場から離れた。


 何も考えずに走っていた僕は、親にメッセージを送った後で、六道君の家の方に向かっていることに気付く。それは彼も同じだったのか、途中で真田君と会うことができた。


「トシッ!!無事だったか!!」

「君もね!!」


 まずは握手をして肩を叩き、お互いに無事を喜びあう。


「ロッコは?」

「いや、返事がない」

「まぁあの変態が死ぬとは思えないけどな」


 六道君の行方を尋ねる真田君に事実を伝えたけど、彼は六道君が無事だと信じている様子だった。


 それは僕も同じだ。


「彼のピチピチに対する執着は凄いからね。きっとそのために今も生き延びているはずだ」

「同感だな」


 六道君はピチピチのボディスーツが大好きだ。そういうイラストばかり描いている。実際にピチピチのボディスーツを買って自分で着てみたり、僕達に着せようとしてみたり、ボディスーツを着てくれるコスプレイヤーの写真を取りに行ったり、その情熱は僕から見れば凄いものだ。


 あれだけの執念があるのならこんな影が立体化したみたいな奴くらいどうにでもすると思う。あいつはそういう奴だからね。


 だからと言って心配じゃないわけじゃない。


「お前の両親は?」

「一応連絡はついてるよ」

「俺もだ。だからあいつんち行ってみようぜ」


 親に送ったメッセージに対して二人とも返事が返ってきていた。自分の命を最優先にしろと言われている。真田君も同じようだ。


「そうだね。僕もそう言おうと思っていた」


 二人の意見が一致して僕たちは六道君の家に向かうことになった。その途中で怪物に見つかって今の状況に陥っている。


『ステータスが覚醒しました』


 そんな時、急に脳内に響き渡った声。


「おっ?」

「はっ?」


 僕はいよいよ自分の頭がおかしくなったと思い、間抜けな声を出してしまうけど、その次に現れたウィンドウによってさらに訳が分からなくなる。


「おい、これってなんだと思う?」

「どう見てもゲームによくあるステータスにしか見えないけど」

「そうだよな。俺にもそう見える」


 どうやら真田君の前にも同じような物が見えているらしく、僕の返事に満足そうに頷いた。


 ステータスといえばよくゲーム中に出てくる自分の強さを数値化したものだ。それが今ここで出てきたということは、少なくともこの辺りはゲームと同じような状況になっていると考えられる。


 それになんだか体中に力が漲ってくるのが分かった。それになんだか先程までの恐怖感まで薄れている気がするし、息切れが納まっている。


 これって頭の中まで書き換えられているのかもしれないね。


―――――――――――――――――――

■名前  竹中聡

■職業  暗殺者

■レベル 一

■スキル 暗殺術、遮断、察知、偽装

―――――――――――――――――――


 僕のステータスはこんな感じだ。


「俺は侍だな」

「へぇ~、侍か。君らしいね。」


 真田君は侍とか、まるで僕と正反対みたいな関係だね。


「聡はなんだったんだ?」

「暗殺者」

「なるほどお前っぽいな」


 僕の答えに納得した様子の真田君。


「でしょ」


 僕も日向に出ずに過ごす自分にはちょうど職業だと思ったので胸を張って答える。


「その猫被った態度で相手の懐に入り込んでブスってお前ならやりそうだしな」

「僕はそんなに猫被ってる覚えはないんだけどなぁ」


 ニシシと笑う真田君に僕は心外だと肩を竦めた。


 できるだけ面倒事を避けているだけなのにおかしいよね。そのために必要な事なら秘密裏に手を回して相手を潰すけど。


「どうする?戦ってみるか?」

「いや、これまで通りこうやって狭い路地を進んで引き離そう。何も分からないまま戦うのは危険だからね」

「了解」


 僕たちは戦うよりもまず逃げることにした。


 ステータスを得たことで狭い路地を駆使して黒い影を徐々に引き離すことに成功し、追いかけてきていた影の姿が見えなくなる。


 この辺りは庭みたいなものだから地の利を生かす事が出来たおかげだ。


「ふぅ……どうやら撒けたみたいだね」

「そうみたいだな」

「でも油断は禁物だよ。あいつらはどこにいるか分からない」

「そうだな。最後まで気を引き締めて行こうぜ」


 僕たちは一度立ち止まって振り返り、呼吸を整えてから目的地を目指して歩きだした。

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