第008話 本当の力
頭の中でよみがえる一連の出来事。それは俺の命がここで終わるとでも言われているみたいだった。
黒い影は一歩、また一歩と俺に近寄ってくる。
「くそっ!!……はぁ……はぁ……ここで終わりなのか……はぁ……はぁ……」
だから俺は思わず絶望しそうになった。
諦めないで……。
死んじゃだめ……。
生きるのです……。
負けるなっす……。
まだ死んでないですわ……。
しかし、心の中のアサシンガールズのヒロインが俺に囁いてくる。最後まであきらめるなと、生き抜いて私たちを見てと、もっと愛してと。
「ははははははっ!!そうだ、そうだった!!俺はもっとボディスーツ女子を愛でたいんだ!!こんなところで死んでたまるかよ!!もうこうなったらだめで元々!!やってやろうじゃないか!!」
彼女たちの言う通りだ。このまま死を待っているのは嫌だ。それなら最大限奴らを道連れにしてやる。
そしてボディスーツを愛でるのだ!!
俺は気持ちを切り替えて振り返って覚悟を決めた。
「ふぅ~」
俺は大きく息を吐いて呼吸を整える。覚悟を決めると先ほどまでの絶望が嘘のように消えてしまった。
「かかってこいやぁ!!」
威嚇するつもりで叫び、二列で並んでいる奴らに突っ込んでいく。近づく俺に奴らは黒い触手を伸ばして攻撃してきた。
なんだ?随分とゆっくりじゃないか?
遠目で見ていた時はそれほど感じなかったけど、近づいて間近で怪物たちの攻撃を受けると、こんなにも遅いのかと拍子抜けする。
「はぁ!!」
俺は触手を視認して躱し、奴らの懐に飛び込んでぶん殴った。
―パァンッ
俺の攻撃した相手の上半身がはじけ飛び、後ろに飛び散る。
「うぉ!?俺って非戦闘職じゃなかったっけ?」
俺は自分の拳を見て威力の高さに驚愕するが、驚いている場合ではないので一旦後ろに飛びずさる。
『レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました』
脳内のレベルアップのアナウンスが流れる。しかも六回。
「え?一体どういうことだ?里中たちは一回倒した後、レベルが一しか上がっていなかったはずだ。それなのに俺は六回上がっている?」
アナウンスは確かに六回聞こえた。だからレベルが六回上がっているのは間違いない。ただ、なぜそんなことになっているのかが理解できない。
「ちっ」
そんな俺の思考を乱すように迫ってきた怪物が俺を攻撃する。
しかし、レベルが六回上がった後だとまるでスローモーションと言っていいレベルまで奴らの攻撃が遅く見えた。
「しゃらくせぇ!!」
俺はそのあまりに遅い攻撃をかわして懐に入り込み、思いきり蹴り上げる。
―パァンッ
やはり同じように弾けとんだ。
「ははっ!!これならいけるかもしれない!!」
俺はなぜかよく分からないが、人の六倍レベルアップする状況に希望が見えてきて気持ちが昂る。
「せいやぁ!!」
「はぁ!!」
「とりゃぁ!!」
俺はそれから襲い掛かってくるモンスター達を次から次へと蹴ったり殴ったりして消し飛ばしていく。
『レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました』
数十匹ぶっ飛ばしたところで再びレベルが上がり、俺はこれで十二回レベルが上がったことになる。
そのおかげで俺の怪物の殲滅スピードはどんどん上がっていく。
「はははははははっ!!」
敵をまるでごみ屑のように倒していけることが徐々に快感となり、思わず高笑いをしながらモンスターを殴り続ける。
「ヴォエエエエエエエエエエッ」
再びあの声が聞こえた。つまり応援を読んだということだろう。
「ははははっ!!無駄無駄無駄無駄ぁああああああ!!」
いくら応援を呼んだところで今の俺は止められない。
それから何度も救難信号を送り続ける怪物。
『レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました』
しかし、さらにレベルが上がることで俺の殲滅スピードが上がり、さらに多くの怪物たちが消えていく。
そのせいか、いくら奴らが救難信号を出してもやがて応援が来なくなった。
「はっ。ふぅ~。ようやく終わりか……」
最後の一匹を殺してようやく息をつく俺。
あたりには宝箱がいくつも散乱していた。
「どうして俺はこいつらに勝つことができたんだ?」
俺は戦闘中に起こった事態に首を傾げる。
「あっ……ステータス」
そこで思い至った俺は自分のステータスを開いた。
―――――――――――――――――――
■名前 六道小太郎
■職業 クラフター(ランク一)
■レベル 五
■スキル 収納、生産、修復、強化
―――――――――――――――――――
■名前 六道小太郎
■職業 剣聖(ランク一)
■レベル 五
■スキル 剣技、気闘法
―――――――――――――――――――
■名前 六道小太郎
■職業 賢者(ランク一)
■レベル 五
■スキル 属性魔法、付与魔法、鑑定、
詠唱短縮
―――――――――――――――――――
■名前 六道小太郎
■職業 聖者(ランク一)
■レベル 五
■スキル 神聖魔法、豪運
―――――――――――――――――――
■名前 六道小太郎
■職業 盾騎士(ランク一)
■レベル 五
■スキル 挑発、蓄積、全反射
―――――――――――――――――――
■名前 六道小太郎
■職業 特級テイマー(ランク一)
■レベル 五
■スキル 従魔契約、敵意減少
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思った通り、レベルの上がった六つのステータスウィンドウが開かれる。クラフター以外はバグだと思ってよく見ていなかったけど、どれもがレベルが上がっていた。
「俺ってばつまり他の人間が一つしか持たないステータスを六つも持っているってこと?それってマジでチートじゃないか?」
どうやら俺にはステータスが六個あったらしい。
ウィンドウの数だけステータスに覚醒していた。それならレベルが六回上がるのも頷けるし、一気に強くなるのも分かる。高取の鑑定にすっかり騙されてしまった。
謎が解けてスッキリした気分だ。
『複数のステータスを確認しました。統合ステータスを作成します』
―――――――――――――――――――
■名前 六道小太郎
■職業
クラフター ランク一
剣聖 ランク一
賢者 ランク一
聖者 ランク一
盾騎士 ランク一
特級テイマー ランク一
■レベル 三〇(五×六)
■スキル 収納、生産、修復、強化、
剣技、気闘法、属性魔法、
付与魔法、鑑定、詠唱短縮、
神聖魔法、挑発、蓄積、
全反射、従魔契約、敵意減少
―――――――――――――――――――
俺がステータスを確認していると、脳内アナウンスが流れて、六つのステータスウィンドウの中心に新たなウィンドウが表示された。
そこには全てが統合されたステータスが表記されていた。
「おっそい!!」
今更そんなものが出来ても遅いんだよ!!
これが最初から出ていれば山田に囮にされなくても済んだだろ!!
俺は今更の出来事に思わず叫んだ。
まぁ今となってはあんな奴らと一緒にならなくて良かったと思っているけどな。
「でもなんで俺だけ六つもステータスがあるんだろう?」
しかしそれだけはいくら考えても分からなかった。信じがたい出来事の連続で昨日の現象と結びつくことはなかった。
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