第006話 戦闘もできない役立たず

 クラフターは生産職で非戦闘員。戦いでは碌に役にもたたないはずだ。そんな俺が戦闘に参加するのは自殺行為だし、他のメンバーをも危険に巻き込みかねない。


「戦闘が不得意な生産職みたいだけど、俺も戦った方がいいか?」


 だから、俺は気になっているところを尋ねた。


「いや、君の事は俺達が守るから任せておいてくれ」

「そうだな。下手に動かれると困る」

「そうね。あなたはせいぜい守られているといいわ」

「しょうがないから君を守ってあげるよ」


 陽キャ組は自信満々に言いのける。

  

 彼らがその気ならお言葉に甘えさせてもらおうと思う。俺にも何かできないかを考えるが、現状スキルに関しては材料がないので何も出来なさそうだ。


 それに能力の検証も碌にしている暇はない。戦闘職のように戦いの中で調べるということもできないしな。


「それじゃあまずは武器を調達しようよ。バットでもなんでもいいからさ」

「そんなの効くのかぁ?」

「ないよりマシでしょ?直接攻撃してあの人みたいに食べられてしまったらどうするの?」

「た、確かにな。武器は大事だ」


 武器を探す提案をする篠崎にブーたれる山田。しかし、彼女の意見を受けて人が食べられてしまった時のことを思い出したのか、青い顔をして同意した。


「それじゃあ、私が様子を見ながら進むね」

「大丈夫かい?」


 近くの家から武器になりそうなものを拝借し、鑑定スキルの結果から篠崎が立候補して斥候を務める。


「うん。ステータスが目覚めた途端、感覚が鋭くなったせいか、色んな気配が分かるようになったんだよね」

「それは凄い力だわ。その探知能力があれば敵から不意打ちを受けずに済むもの」

「まぁね。でも油断は禁物。この力は絶対じゃない。物語ではこんな力が通用しない敵が出てくるのがセオリーだからね」

「そうだな、気を付けて前を進んでくれ」

「了解」


 高取が篠崎の力に手を叩いて喜ぶが、確かに高取の言う通り、スキルは破られると思って備えておいた方がずっといい。何か準備していなくても、最初から可能性を考えているのといないのとでは初動に大きな差が生まれる。


 その違いは命に関わるはずだ。


 全員が周りに気を配りながら徐々に避難所である市役所を目指して進んでいく。


「皆聞いて……」


 二十メートル程歩くと、篠崎が振り返って俺たちに小声で話しかける。


「どうしたんだ?」

「うん。あの路地の裏に多分あの化け物がいるよ、数は一匹だけ」

「そうか。それじゃあ、見つからないように近づこう」


 どうやら篠崎が群れからはぐれたあの化け物を見つけたらしい。とある路地のほうを指さして説明する。


 彼らは全く戦うことに躊躇がない。皆明らかに気が大きくなっているのが分かる。それはステータスを得たせいもあり、怪物を倒す動画を見たせいでもあるだろう。


 俺は彼らの後ろからついていく。この辺りにも黒い影はやってきたらしく、あたりには血が飛び散っていた。


 しかし、不思議と人の姿が見当たらない。恐らく食べられてしまったか、避難所に向かったのか、はたまた家の中に閉じこもっているのかのいづれかだろう。


 篠崎が路地を形作っている建物の壁に背を付けて路地内の様子を窺い、俺たちを手招きして呼び寄せる。


「少し奥の方いるから私がまず先行して攻撃して引き付けるね」

「本当に気を付けるんだよ?」

「分かってるって」


 俺達が同じように篠崎の近くに集まると、彼女は気配を感じさせない動きで内部に入っていった。俺たちは壁から顔を出して様子を見守る。


 路地にいたのは俺達よりも少し大きな背丈の黒影。やつは俺たちに背を向けて歩いていた。篠崎は拾った鋭利な石で背中を切りつける


「ウ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛」


 影は銃弾を撃ち込まれた時には上げなかった苦しそうな声を上げた。


「いまだよ!!」

「「「おう(了解)!!」」」


 篠崎の合図に応じて俺たちも飛び出して化け物に襲い掛かる。


「とりゃあ!!」

「せいや!!」

「はぁ!!」


 全員が適当に探し出した武器で怪物を囲んでぶったたく。


「ヴォオオオオオオオオオ!!」


 篠崎の攻撃同様に里中たちの攻撃にも悲鳴のような声で反応をする化け物。


 攻撃が効いているらしい。銃弾は全く聞かなかったのに、適当に拾ったものがダメージを与えられるのは不思議だけど、その辺りはステータスが関係しているのではないかと思う。


 五分ほど全員で袋叩きにした結果、化け物は沈黙。そして空気に溶けるようにその姿を消していき、最後には綺麗さっぱり消失した。


 俺はただ茫然と見ているしか出来なかった。


「「「「はぁ……はぁ……」」」」


 攻撃に参加していた四人の荒い呼吸が辺りを包み込む。


―ボフンッ


 その静けさを破るようにモンスターが消えた後で何もなかった場所に突然宝箱としかいいようのない箱が出現した。


「え?宝箱?」

「どうやら化け物を倒すとたまに宝箱を落とすみたいだぜ。動画でやってる」


 突然現れた宝箱に面食らうが、山田がネット知識で解説してくれる。


 宝箱が出てくるなんて本当にゲームみたいだ。


「そっか。開けてもいいのかな?」

「罠とかあったりはしないのか?」

「今の所そういう書き込みはないな」


 うずうずしながら尋ねる篠崎。里中の質問に山田が答えた。


「それじゃあ開けてみるしかないよね?ね?」

「ああ。気を付けて開けてくれよ?」

「うん」


 俺たちは念のため少し離れて篠崎が宝箱を空けるのを待った。


「えぇええええええ!!すっごい。剣が入ってるよ!!」


 宝箱を空けて中身をみた篠崎は中にあった剣を見て小声ではしゃぐ。こちらに宝箱から取り出した剣を掲げて見せている。


「ホントね。よさそうな剣ね」

「こりゃあ颯斗が使うのが当然だろうな」

「俺も異論はないよ」


 全員で宝箱に近づき、篠崎によって剣が里中の手に渡った。


「皆ありがとう。俺はこの剣で皆を守ってみせるよ」

 

 里中は鞘に入ったままの剣の中心辺りをもって突き出し、俺達に笑いかけた。


 こいつみたいなのが勇者になるんだろうな。


 俺はそんな風に漠然と思うのであった。

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